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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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親父の面影 

 白衣を纏った茶髪の子供。 赤い瞳のグルド人だ。野暮ったい眼鏡を掛け、寝癖も直さずに分厚い表紙の本を抱え、他の子供たちを見下ろしている。


 狩人協会のデザインが施された表紙。小高い防壁の縁へと腰掛けて本を読みだす子供の横には紅茶道具の入った革袋が落ちており、その中を片手で漁り、紙袋を取り出した。


 少年が何度か紙袋を嗅ぐ仕草を見せ、包装を剥くと少し古くなった葉野菜とベーコン。チーズを挟んだバタールが顔を覗かせている。


 「流石に常温2日目は傷むか……」


 臭い消しに胡椒を振りかけて頬張り、落ち着いたため息を吐き出すと書物へと目を落とすのだ。


 それから数分と経たない内に、側にある金属製の梯子が音を立てる。音の方へと目を向けること無く喉を鳴らした。


 「……お。 どうしてんだ。 またサボってんのか?」


 スリムな眼鏡を掛けた男の顔が視界の端に現れる。細身で健康的な顔つき、伸ばしたくせ毛がよく似合う優男だ。


 「……まぁ。 単位は全て取り終わってますし、自分には……皆みたいに術式が出せるわけもありませんし……先生(センセー)もヤニで休憩でしょ?」


 20代にしては落ち着いた服装。少年と同じ白衣を纏っており、胸には顔写真付きの許可証を吊るしている。


 「ヘヘっ。 まぁな。 喫煙者の特権だ。 ……あぁ〜……寿命を削って吸う煙はうまいなぁ〜」


 「紅茶は?」


 嬉しそうに微笑むと先生は後ろの革袋から湯沸かし道具を取り出し、水を注いでいる。


 「おっ。 悪いね。 そうそう。 これだよ……悪いねぇ……釣り銭はあげるよ」


 「……じゃあ、次のお茶菓子の足しにしますかね」


 少年の両手には幾何学模様の火傷の跡がびっしりと刻まれている。虐待だとかの火傷の跡ではない。魔術道具の実験中の事故の傷だ。


 ここに集められた子供たちは、将来の狩人。 及び実験体だ。魔術師じゃなくとも魔術を使える腕部装着型デバイス。使いこなせる子供も居たが、本を握る彼は使いこなせない方の人間だった。


 魔術師の素養があるから使えない。 技士はそう言っていたが、逆に凹む事実だ。半端な術式を使えるだけなど、その才能は寧ろ邪魔とも言える。


 他の連中は装置を使いこなして到底飛び越えられない穴を飛び越えたり、崖を登ったり。 獣の頭蓋を砕いたり。 彼から見れば、連中は超人のようにも見え、眩しい存在でもあった。


 「……なぁ、センセー」


 「ん〜?」


 「自分はこのあと、どうなるんですかね……ほら、他の皆は、術式……魔術ってやつですか。 皆は、クラス5として実地へ。 自分は、実験助手として歳を喰っていくのかな……と軽く絶望してるんですよ」


 「ん〜。 どうしようかね。 かと言っても、ウチの研究室には中々資金援助が出なくてな。 雇えるかは微妙よ?」


 「そりゃ、魔力の根本的原理を探る。 スポンサー受けが悪いでしょう。 皆が使えて当然なものの原理。 誰が気に留めると?」


 「普段の生活の中で何故と思った事。 そういうものだからと答える。 当然なものに原理を解き明かすのが学者ってやつなのさ……まぁ、息抜きは大事よな。 ちぃと煙草を吸ってもバチはあたらないだろ」


 「最後に言いたいことが、本音っしょ。 自分より頭の良い子供は多い。 何で自分なんです? モーガン先生」


 「え〜? 君は目が特別だからね。 人間の魂を見ることが出来て、魔力の痕跡も色濃く見える。 そこに何かしらの相関があると考えてるんだ。 どんな検査機や増幅器を使わないと判別出来ない魔力も君の目なら判断できる。 歩く実験機材としては君が最も都合が良い。 それに、私のお気に入りでもある。 その他は……具体的根拠を示さざるを得ない学者が言うのもなんだが、気分だよ」


 「気分ですか……ふぅん。 今日は夕食に鶏肉が食いたい……みたいな?」


 「そんな感じ。 ちなみに、どんなデータであっても、最後は人間の目を使う。 銃のライフリングの溝と弾丸の擦過痕。 あれも人間の目で同種であるかをチェックするんだ。 人間の目ってのは本当によくできた器官だよ」


 「あれって鳩でも出来るってどっかの学者が言ってませんでした?」


 「並べられた画像の判別が出来るってやつだろ? 確かにすごいが、画像を取得する事は出来ない。 器用な手足が無いからね。 それに、画像判別中に脱糞するし、人間に勝る要素は無いさ。 あくまでも人間の都合、人間の生み出した仕事や文明体系。 それらのシステムを循環させるには、肉体の構造や頭脳の使い方も人間に沿った存在が必要不可欠さ。 それを体現したのがオートマタだが――」


 「センセー。 話長いっす。 画像判別だけ出来ても使えないって言えば済むじゃないですか」


 「おいおい。 それだと誤解するやつも出てくるだろう。 いいか? 誤解なく情報を伝えるのがベストさ」


 「……画像の分別が出来るだけ。 その他の過程は人間が準備する必要があり、実用的な用途は不明。 戦時中の指揮官が残した言葉にこんなのがあるらしいですよ? 情報を簡潔に伝える者こそ兵士として優秀であると」


 「君は、状況によって必要な道筋が違うと学ぶべきだな……正論に聞えても、場をわきまえないとただの嫌味な奴になるぞ? 大人の世界では、相手を言い負かしても何も得に……何笑ってんの」


 「……センセー。 やっぱし、あなたをおちょくるのが楽しいんですよ。 ははは」


 「……やれやれ。 まぁ、いっか。 午後も開いてるなら、実験を手伝ってくれ。 古い遺跡から曰く付きの箱が届いたんだ。 君の目を貸して欲しい」


 「……いいですけど。 また前みたいなのは勘弁ですよ?」


 先生の後ろに回った太陽の光が伸びてくる。暗所から日の元へと出てきたかのように視界が白飛びし始める。


 眩しさに瞼を下ろし、再び開くと、馴染の天井が飛び込んで来る。耳裏の血管がドクッドクッと地鳴りのような音を立てており、しっかりと休息を取れたようだった。


 「……すぅ〜……ふ〜……」


 (今更、夢に出てきてくれたんですか?)


 そう頭の中で呟いても、あの先生の声は聴こえない。その代わりに近くのテーブルに置いていた無線機のランプが灯り、コール音が鳴っている。


 「……なんか音、変だな……くぐもってる感じって言うのかな? スピーカーが壊れてるのかねぇ…………モーガンです」


 「…………」


 「……? 大丈夫ですか? 聞こえてますか? モーガンです。 なんだ? いたずらか」


 相手の息遣いだけが聴こえてくる。 男の呼吸音にも思えるし、女のすすり泣く様な音とも言える不気味な音がずっと続いている。


 「……困りますよ。 イタズラされちゃ」


 モーガンが録音機能にスイッチを入れて話し続ける。イタズラ電話かと思って再び耳を近づけた時にふと考えが変わった。何かの予兆があっただとかでは無い。 なんとはなく、相手側が声を出せない状況で繋いできただけなのではないか。 抜き差しならない状況で一縷の望みを掛けて繋いできたのではないのか。


 「……何処か怪我をしてるだとか? 大丈夫ですか? 誰かに脅されているだとか……録音していますので、可能な限り切らないようにして下さい」


 家に引いてある固定回線で狩人協会へと連絡をする。待ち受け音の流れている間に無線機のランプが消えていた。


 「はい狩人協会、技術解析班」


 「……モーガンです。 少し……解析して欲しい音声データがありまして。 ……午後から可能で……そこをなんとか。 すぐ持って行きますので……えぇ。 割増料金で依頼を……了解です。 私の取り越し苦労なら良いのですが」


 つづく

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