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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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普段通りの仕事

 汚れ一つ無い空模様。明るい水色の空のもと、白色と黒色の斑点混じりの光景を見下ろしながら突き進んでいく。


 「……狩猟開始位置まで、20分を予定。 全員、肩部デバイスの立ち上げをお願いします」


 グリフィンに跨りながらデバイスの電源を入れる。


 「よぅ。 おめぇら。 さっきぶりだな。 本案件、ファットボーイの概要についてサラッとおさらいするぜ」


 イアホンからレオの声が聞こえ、網膜にブリーフィング資料が投影される。


 「使徒化した人間。 ファットボーイ捕獲依頼だ。 狩人協会、狩人技術解析局、地元自警団からの出資依頼。 先日の午後5時頃、本対象が北西方向へ移動。 自警団前哨地区に襲来した。 自警団の応戦虚しく現状、人口の3割が死傷したと見積もられている」


 「例に漏れず、人間を捕食した事を確認。 頭部を噛み砕き、飲み込まず吐き出す行動。 意図は不明、本個体の術式は咀嚼した相手の術式を模倣するものであると推定される。 避難が遅れている可能性、二次被害による死傷者増加の懸念から、範囲術式、制圧術式である〈愚者の太陽〉、〈老いた赤子〉の使用は禁止。 封殺の狩人の制限術式は無し。 紫電の狩人の〈ストームコール〉の使用も制限依頼が来ている」


 「……それで捕獲って、随分と無理がある気がするんだけど」


 「これは向こうの要望だ。 現場での判断を優先してくれ。 依頼元のお願いを全て訊いてやる必要はない。 死骸でも良いから持って帰って来い」


 「アンタ依頼元の人間だろうに」


 「こんな仕事、何時(いつ)でも辞めてやるよ。 まぁ、クラス8二人の実力なら、どうとでもなるだろう」


 「そういう事言うかな……あ〜あ。 で、モーガンはバックアップってこと? 奥義技を封じた術者がサポーターとはね……」


 「……レオさん。 愚者の太陽ですが、絶対に禁止という感じでしょうか? 状況を見て使用をしても可。 という認識で?」


 「いや、お前のは絶対に禁止っていう奴だ。 ただし、自分以外の術者で屠れ無さそうなら使っても良い。 それだけあの術式はヤバい代物だ。 街中でぶっ放したら二度と住めなくなる可能性だってある」


 「……判りました」


 「てか、神秘性だとかで底上げした術式で殴れば早くね? モーガンならそれが出来るだろうしさ」


 「術式に回せるほど持って無いですよ。 あの時は運が良かっただけですし」


 「……へぇ」


 「さて。 まぁ、終わったら飯に行こう。 特務クラスとはいえど、クラス7だ。 可愛い後輩みたいなもんだ……ちょっくら威力偵察して、後から追いついて来い。 来るまでには片付けておいてやる」


 紫電の狩人がそう言うと空の上に薄暗い色をした雲が生じ、モーガン達の進行方向遙か先へと伸びてゆく。


 「おぉい。 単独行やめろよ!」


 「……心配ならトバして来い」


 眩い閃光と共に稲妻と化した彼が天空へと向う。ゴロゴロと音を鳴らす雷が奥へと遷移するのを眺め、使い勝手の良い術式で良いな。 と静かに羨んだ。


 (……この人苦手なんだよなぁ)


 「…………そういえばよぉ。 お前、アタシのこと苦手らしいじゃん?」


 「……そうなんですよねぇ〜。 うぅん。 えぇ」


 「シバばくぞ」


 「……そういう所が、苦手なんですがね……」


 遙か先。 雷雲の下。 鈍く湿気った咀嚼音を鳴らすファットボーイが崩れた建物に腰掛けている。


 「……おぉ。 急に曇って来たねぇ。 君もそう思うだろ?」


 「……」


 「人間を喰らえば喰らうほど、人間へと傾いていく。 にしても、君ほどの奴は初めてだ。 転化したあと、ここまで生き長らえるとはねぇ……ところで、軒下でうめいてる人間の子供(ガキ)だけどさ。 これ、食後のデザート?」


 傍へと腰掛けるデクスターが使徒へと話しかけるが返事はない。


 「……元々人間だっただろうし、話せないのはさぞもどかしいだろうけど。 勘弁してくれよ? 君は優秀な実験体だからねぇ。 …………そうだ、ちょっと、子供を掴むフリをしてくれ」


 使徒が息も絶え絶えな子供へと手を伸ばした瞬間。 轟く様な爆発音と共に、狩人が現れた。


 「狩人ってのは、子供に弱い」


 「やぁやぁ。 ファットボーイ……。 はじめまして。 ……それじゃ、早速殺し合いと行こうか……」


 細長い狩猟鉈を地面へと突き刺し、柄に肘を置いている。 ファッション誌に載ってそうな脚のポーズを組み寛いでいる。


 「……安心したまえ。 奴に僕は見えていない。 言わば、君だけのサポーター。 脳内に棲んでる妖精サンと思ってくれ。 あの狩人、天候を操る術者だ。 昔からこういうのは時折産まれ出てくる。 ぶっちゃけ、マジで厄介な術者だ。 でも、この時代の狩人だ。 ガキを盾にすると良い」


 デクスターの指示通り、使徒が子供を持ち上げようと手を伸ばす。


 「……やめておいた方が良い。 ファットボーイ。 さもねぇと、両腕両足を吹き飛ばす。 言葉くらいは判るだろ?」


 「……自由に戦ってごらん。 この地域を壊滅させるまでがチュートリアル。 実戦といこう。 〈遊撃体制へと移行しろ〉」


 デクスターの像が空中へと浮かび上がり俯瞰して戦況を眺める。自前で育てた怪物を骨のある相手へとぶつける事に喜びを感じている表情だ。


 彼の身に纏われた紫電の断片を目にした途端に熱が冷める。興味への情熱が冷めた。結果のわかりきった戦いほど下らないものはないと、ため息をつくのだ。


 「(……長くは持たないか。 そーいえば、どっかで見たことある野郎だと思ってたが……モーガンの前座の一人か。 となると、あの男と封殺の娘が控えていると考えるのが妥当か。 …………奴の目なら流石に目撃されるだろうし…………帰ろ)」


 消えてしまったアドバイザーの居た場所を眺める使徒。紫電の狩人はその隙を見逃さずに轟音と共に落雷を浴びせる。


 勝負は一瞬だ。 数度に渡って雷の砲弾をぶつけられ膝をつき、全身から湯気を上げている。


 「……これがクラス7をぶち殺した怪物か? あまりにも弱すぎる……。 何か妙だな……」


 帯電させた建材の金属パーツを飛ばして四肢を地面へと固定する。


 「……お前ら聞こえるか? 標的の無力化を完了した。 早く来てくれ」


 意識が戻るたびに何度か落雷を浴びせていると、3頭のグリフィンが地面を蹴った。モーガンとミリアだ。


 下敷きになっていた少年を救出し、毛布を被せて湯を沸かしている紫電の狩人の側に立ったモーガンは、少年に携帯食料を渡した後、ファットボーイを間近で観察しだす。


 「……これが変異体。 ふぅん……」


 「……数発の雷で沈んだよ。 随分となまっちょろい紙耐久で驚いたよ。 俺って強すぎてヤバいのかもなぁ〜……なんつって」


 側に転がった建材の瓦礫に薄く輝く魔力の痕跡を見つけ、ナイフで木材をそぎ取るとサンプルケースへと封入する。


 「……もう一人居ませんでしたか? 魔術師か誰か」


 「……いいや? 来た時はそいつ一匹だったが」


 「とすると、半霊体かも。 あるいは、指向性の投影術式か」


 「おーい。 そこ退いてくれないと収容できねぇんだけど」


 「おっ。 スンマセン」


 何度見ても気味の悪い封殺術式の捕縛触手を尻目に篝火の傍へと寄り、変異体の収納を待つ。


 「その子、怪我は?」


 「足の骨が折れてる。 左の踝から16センチメートル程度の箇所だな。 幸い、肉はそれほど傷ついて無さそうだ。 あとは体温が低いからこうやって湯を飲ませてる」


 「そうですか。 ……収容が済み次第、後援の自警団員を呼びましょう。 グリフィン空輸で医療品、食糧、衣類。 ……燃料も必要ですね」


 「ミリア。 もう少し掛かるか?」


 「(だぁ)ってろ。 すぐに済む。 クソが……重てぇんだよ……」


 モーガンが少年の側に近寄り、2枚の紙切れを取り出し、声を掛ける。紅茶か緑茶。どっちが良いかだとか、砂糖は必要か。そんな話をしながら、ふと空を見上げると、雲の中に黒い斑点が浮かんでいるのに気がついた。


 「紫電の。 あの物体は貴方の術式か?」


 「……ん? 雷雲のことか?」


 「いいや。 あの浮かんでいる物体です。 ほら、いま白く光った…………アリス! 後ろに飛べ! 早くっ!!」


 「……はぁ?」


 「〈タール・ボウイ〉!」


 石油の腕がミリアへと突き進み、条件反射で飛び退くと殺気じみた視線をモーガンへと向ける。


 「ど〜いう風の吹き回しだぁ? テメェ」


 そこまで言った瞬間、白く輝く光の柱が地面を炸裂させ、焼け焦がして行く。 射線上に捕縛されていた使徒の頭部から胸部が蒸発し、蒸発部位境界部には赤熱し黒焦げた肉が残っているだけだった。


 「……おぉ……危ね〜」


 「誰か知らんが叩き落とす!」


 放った雷をスルリスルリと躱して、黒い点は雷雲の下を抜けて真っ青な空へと悠々自適に逃げていく。


 それを追おうと雷雲へと飛び立とうと帯電する狩人を引き止める様にモーガンは叫ぶ。


 「よせ! 深追いするな!」


 「……だな。 しっかし、してやられたな。 これは……司令室見えているか?」


 「あぁ。 そっちは無事か?」


 「おう。 獲物は幾つか部位が無くなっているがね……。 後援の支援部隊を送ってくれ。 頼んます」


 「了解。 自警団及び後方支援部隊を送る。 現場保存、周囲の安全確保を頼む」


 「モーガン、さっき取ったサンプルを解析班に渡しておいてくれ」


 「了解」


 紫電の狩人が少し呆れたため息をついて、仕事の邪魔をされた事に残念そうな表情を浮かべている。


 「……まっ。 全員無事だからヨシって事で」


 「……ですね。 私は防壁の内周に沿って怪物の侵入が無いかを確認してきます」


 「……おう頼んだ」


 赤い魔力光を宿したモーガンが跳躍すると、残った家屋の屋根を伝って次々に飛び移って行った。


 「さて、ミリア〜。 危うく一緒にこうなる所だったな。 良かった良かった」


 使徒の死骸から焼け焦げた地面が続いている。ミリアの立っていた足跡の場所の地面も同様に破裂して焼け焦げている。


 「……あ、あぁ。 だな」


 「あんまし、モーガンに強く当たるなよ? 助けてもらった後に気まずいぞぉ〜?」


 「……るっせぇ」


 「……しっかし、この術式……何かの資料で読んだな……何だっけ……まぁ良いや。 俺達は現場の保存に努めるとしよう。 わざわざ荒らす奴が残ってるとは思えんがね」


 つづく


 




 


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