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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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受肉する女神

 額に2つの縫合跡がある女性の瞼に日光が伸び、優しい刺激に触発されて目を覚ます。


 「…………ん。 ここはどこだ?」


 「やぁ、姉さん。 数百年ぶりのお目覚めはどんな気分だい?」


 白いスーツに身を包んだデクスターがそこに居る。相も変わらずに地肌にスーツを羽織るスタイル。革靴ではなくサンダルを履いている。


 「お前……まさか」


 「今はデクスターと」


 「あの後を生き延びたのか……そうか、さぞ辛かっただろう」


 過去に見た弟の姿。それがダブついて見えるが、そこに立つデクスターの目は似て非なるものであった。時間が彼を変えた。いいや、気付きによって思考パターンが変化した。そっちのほうが正しいだろう。


 「……いえいえ、他の人間に潜って生きながらえる事は中々に愉しめるものでしたよ。 それよりも姉さんに合わせたい人が居るんだ」


 「ふふ……まさか、お前が世帯でも持つのか」


 「……いいや。 それは仕事を終えた後に考える事さ。 入ってくれ」


 扉をくぐる人影を見た途端に女の表情が引き締まる。


 「…………時代は変わったな」


 近くに立った男は彼女の顔を覗き込むように顔を近づけてまじまじと見つめている。


 「……これがあの干からびた左腕の本体か」


 「こらこら。 姉さんを困らせるなマーベリック。 そして、後ろの彼が生臭坊主の子孫で」


 絨毯の柄に似た派手な祭服。術式を付与した魔導書を手にした七曜教会の僧侶の若造だ。頭の先から足の爪先まで信仰心の象徴物に身を包んでいる。


 「……お会いできるとは光栄です」


 「お前……そうか、確かに。 少しは面影があるな。 ふふ、気のせいかな。 それで、手筈は整っているか?」


 「もうしばらく時間を要するかと。 ……ですが、自ずと時は満ちるでしょう。 この世界の不条理は人間が産まれ出る限りは無くなりませんので」


 「そうか……この時代にも名前が必要だな。 なにか無いかね、愚弟よ」


 ベランダへと繋がる窓を開くと巨大な防壁に囲まれた景色が広がる。草花の深い緑を抱えて整然と並んだ美しい建築物群。


 そんな美しい街並みの中、怒れる民衆が脱狩人協会を叫び、警備隊と衝突している。


 大嵐の過ぎ去った様な、汚れ一つない真っ青な空模様。まるでこの目覚めを祝福しているかのような空模様だ。


 「……そうですねぇ……アステル。 貴方にぴったしの名前だ。 姉さんにはこれからこの国のシンボルとなってもらいます……何れはこの国のトップとして」


 「社会不安に陥った民衆ほど使いやすい物はないですよ……ふふ」


 それからしばらく歳月が過ぎた頃。


 「じゃ! 学校行ってくるわ!」


 「兄貴! 行ってきます!」


 「う〜い。 転ぶなよ〜」


 腕もすっかり生え揃ったモーガンはダルダルの私服へと身を包み、来客へとコーヒーを差し出す。


 「粗茶ですが」


 冗談めいた口調で白いカップを差し出す。差し出して来るモーガンの目の下には黒い皺が刻まれ、万全な体調ではない事を物語っている。


 「……お茶と言えば……だ。 普通は紅茶じゃないのか? ……ふぅん……しかし、仕事してない割には、良いモノを出せるとは」


 良い豆を出した事を若干後悔したような表情を浮かべて側のカウンター椅子へと腰掛ける。


 「まるで、無職みたいに扱わんで下さいよ……昔っから殆ど株と出資に使ってるんで、ささやかな贅沢くらいはできますよ。 預金も数ヶ月分あれば困らないですし」


 ソファーに腰掛けるもう一人の男が声を出した。紫電の狩人。その人である。


 「……すまないな、朝早く忙しい時間から邪魔をして。 ……ミリア、そんな嫌そうな顔をするな。 高貴な出身を誇る時代は爺様の時代に終焉を迎えたんだ」


 「……? 誰も貧乏くさいとかは言ってないぞ?」


 「そう取られかねない言い方をするなって話だよ……随分とお疲れちゃんの様だが。 何かあったのか? アリスちゃんと別れ話とか?」


 「まさか。 仕事でしばらく外に居てですね。 直近で設備の交換で出てたもので……山で4日間ビバークしてたんですし……ふぁあ〜……あ〜…………眠い」


 湯気の立つコーヒーを飲み、カウンターへと肘を置く。


 「標高1700メートルにある天候観測機のメンテナンスで。 食料品を詰めた荷物ごとロバがグリフィンに持って行かれて……。 手頃な怪物が通りかからなければ、危うく餓死してましたよ」


 「……1700メートル? なんだ高いのか?」


 いまいちピンとこない表情を浮かべるミリアを横に紫電の狩人は心底面白そうに大笑いをするのだ。可愛らしい反応がツボったのか、はたまた非常識な部分を嗤っているのか。


 人に礼節を説いているにしては、彼も大概な奴だなとモーガンが目を細める。


 「っぷはははは! まぁ、山岳で仕事しないミリアなら疎くて当然か。 ってことは、そっちまでワームホールが伸びてないんだな。 写真とか無いのか? 一度登ってみようかな……」


 「ここらへんの観光パンフレットに写真載ってるんでそれ持って行ってください……」


 くたびれてしまって、社交的な気分では無いという表情。頭半分が微睡んでいるかの様な表情。


 「その様子じゃ、支部長にはこき使われてるんだな。 てっきりヌルイ仕事を斡旋してもらってるのかと思ったが」


 「そう思われないためにも、誰も引き受けない仕事をやらせてるんです。 流石に80キログラムの装置を背負って山登りは堪えますよ……まぁ、楽しいから良いんですけど。 報酬は高く無いし、手頃な怪物殺して解体業者に渡した方がコスパも良い。 価格で受ける人が多くてね……価値は二の次なんでしょう」


 紫電の狩人が少し感心した様子で、鼻を鳴らす。脚を組んで興味深いという眼差しを向けているのだ。


 「……ふ。 お前の様な狩人が田舎で腐ってるとはな……呑気にコーヒーを出して、血の繋がりのない子供二人を養ってる。 アリスちゃんから聴いた話だと、ヘルメースの報酬には手をつけてなかったとか? 身を滅ぼすタイプのお人好し……それが君の価値ある事なのか?」


 眠たそうに目を擦ったあと、半目の状態で動きの悪い脳の情報を整理している様だった。 なんとなく。 そう言っても結局さらに質問を重ねられる感じだ。


 ならば簡潔に答えれば良いだけだなと、あくびをしたあとに続けた。


 「……どうなんですかね? さぁ……まぁ、でも割りかし楽しめてるんで、あるんじゃないですか? 口座にカネがあっても、使わなきゃ意味ないですし。 ……ど〜せなら、自分とプラスアルファで他人に恩恵がある使い方をしたいだけでね。 まぁ。趣味でやってるみたいなモンです」


 「ほぉ〜ん? なるほどな〜……」


 「……ところで、お二方。 その肩の紋章」


 紫電の狩人と封殺の狩人。 肩には同じ紋章のワッペンが着装されている。 


 「……あぁ、俺達で狩猟団が立ち上げるつもりでな。 前のはダミーだったが、今回はマジな奴でね……節税がなんだの言われたけど、まぁ作って見たかったってだけだ。 ちなみに、コイツはノリで入れた。 コネ採用枠だ」


 「いつでも抜けられるから、コッチもノリでね」


 「…………へぇ。 私が昏睡状態の間に、そんな事に」


 「先輩団長としてアドバイスは無いか? ほら、経験者は語るってやつさ」


 「無いですね。 それで? 田舎までコーヒーを飲みに来た理由じゃ無いでしょうし」


 「まぁ、レオさんからの使いだ。 例の薬による使徒化。 変異した個体が出たらしくてな。 それの討伐依頼だ。 この個体だ。 見てくれ」


 網膜へと情報が浮かび上がる。あの日、あの夢の中で何度も見た使徒とは恐らく、似ても似つかない姿をしている。


 「ステロイドをキメてる筋肉野郎みたいだな。 この筋肉は」


 「モーガン。 話の途中だ」


 「ああっと。 失礼。 続けて下さい」


 「クラス7相当狩人の派遣結果、3名死亡。 特務クラスの君にラブコールがかかった。 個体識別名、ファットボーイ。 術式特性は不明。 死亡した狩人3名の遺体の骨に肉をこそぎ落とした痕跡、散乱した臓器に四肢。 他の個体と違い人間の捕食行動が見られる。 装着したデバイスは全て破壊、多少なりとも理性はあるらしい」


 「討伐開始予定は?」


 「3日後。 位置はダフェール山の中でお休み中らしい。 ダフェールってのは地元民の言葉で精霊王って意味らしいぜ?」


 「……死亡した狩人達の術式特性一覧を」


 「あいよ。 名前は出せないが、広く治癒が使える術者。 あとは炎熱系、冷却系の術者」


 「……冷却系」


 「レオさんのお付きはクラス8だ。 心配するな。 そういえば、派手にやられたんだって?」


 「まぁ……訓練時にペイント弾は使うなって教訓を得ましたが。 して。この筋肉ムキムキマッチョマンをぶち殺せば良いって話で?」


 「いんや、とっ捕まえて実験と解剖。 通常個体は既にサンプルがあるし、身体の構造についてはだいぶわかってきてる。 用途不明の謎臓器も幾つか見られるが、変異個体も調べたいとな。 ウチのマッドな研究者がうるさくてな」


 「……無茶言いますな……。 麻酔が効くのかも未知数」


 「……まあ動いてるし動物だろ。 多分。 麻酔は植物にも作用するんだ。 効くさ。 そうじゃない場合は、俺達の本気をぶつけるだけさ。 モーガンはバックアップ。 極力、環境を汚染しないように釘を刺されてる」


 「……了解」


 「受けるんだな? おぉし。 そうこなくちゃ。 てなわけで、数日泊めてくんないかな?」


 「……かまいませんが。 何か理由が?」


 「復帰祝いさ。 今晩はご馳走させてくれよ。 俺達が作るからさ」


 「そうですか。 良いですよ。 部屋は2階にあるので……使って下さい。 私は少し眠りますので」


 「おう! おやすみ〜!」


 つづく

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