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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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苔むした背中

 デクスターが旧い建物へと足を踏み入れる。植物が生い茂り、屋根上から蔦が垂れる巨大な設備だ。


 「……良いねぇ。 この文明が死に絶えた感じが中々に良い」


 古ぼけた金属製の建屋にしては中が騒がしい。内部の発電機の振動が伝わって来るし、話し声もする。


 作業員用の入口を通ると中では随分と年季の入ったオートマタが10体程。皆それぞれの作業を行っている。ジャンクヤードで拾ってきた旧型モデルの改修品達だ。


 「……まったく。 眠ってる間にソフトウェアの方も強固になってさ。 カリオン文字で組んでる個体を探すのに苦労したよ」


 円柱状の培養槽の中に一体の人間が浮かんでいる。吸気マスクを装着した女児が長い髪の毛を揺らしながら眠っている。


 側にあるバイタル機器の反応も良好。


 「どんな感じ?」


 「……割り振られたチェック項目は全て正常。 現在の生育」


 「お。 そっか。 じゃあ引き続き頼むよ。 もう1人の方は?」


 「問題なく進行中です。 育成の増進を止めていつでも覚醒できます」


 「おっけ。 それじゃ、あとは……」


 旧式の無線をケーブルへと繋ぎ、ある人物へと電話をかける。


 「……デクスターだけど。 おん。 そっちのは手に入った?」


 「手に入ったよ。 闇オークションにまで出向いてようやっと落札した。 赤いアンプル……曰く付きの魔術師が作った幻の一品。 そんな触れ込みだったが、使えるのか? 冷凍されてたけど」


 「常温だったら不味いけど、冷凍なら尚良しさ」


 「常温だったらどうする予定だったんだ?」


 「そりゃ、大枚叩いて生ゴミを買ったっていう笑い話になったろうね」


 「他人の金だと思って好き放題しやがる。 そっちのお前の姉貴。 培養工程は順調か?」


 「あぁ、もちろん。 良い経営者ってのは、無能でも一定の品質を出せる手法を知ってるものさ。 その分オートマタは良い。 妙なこだわりも無いし、言ったことを全て完璧にこなしてくれる」


 「……お前、クローンを作るつもりはないって言ってただろ? 今培養しているのもクローンじゃあないのか」


 「まぁ、今はただのクローンさ。 クローンとオリジナルの違いは中身だよ。 生前の記憶を持つクローンはオリジナルとも呼べるだろう?」


 「……大差ないだろ。 頭のいい奴の解釈は神経質で好きになれないな」


 「好きにならなくても良いさ。 お互いに互いを利用する。 最初からそういう話だったろ?」


 「……やっぱり、お前の話は信頼ならないな」


 「なにさ、勝手に解釈違いを起こしたのは君だろう? 神秘性の使い方を知りたくはないのか? いいや、知りたいはずだ。 金で解決できない問題を抱えているんだろ? 僕は金で解決できる悩みを持ってる。 代わりに欲する知恵を持ってる。 情報は黄金よりも重い」


 「……本当に教えるんだな?」


 「こう見えて、報酬の支払いを怠ったことはなくてね」


 場面は変わり、モーガンの家。動きやすい服に身を包んだセシリーが庭に出てモーガンの話を聞いている。


 「え〜。 まず、魔力の種類について説明します。 人間の精製する魔力には3種類の区分があります。術式に使える魔力。 そうで無い魔力。 主に2種類です。 そして、圧縮貯蔵魔力という、貯金の様なもの」


 「質問です。 使えない魔力はどうするんですか?」


 「そうですね。 捨ててしまうという手段と、自然に消滅するのを待つ方法があります。私の場合、体感ですが5パーセントは敢えて持っています。 理由としてこの様な使い方ができます」


 モーガンが予め用意していた射撃用のダミー鋼板に向かって人差し指を向ける。


 「いきますよ〜。 眩しいので注意して下さい」


 眩い閃光と共に何かの結晶が残光を纏って射出される。甲高い音と共に火花が散ると、厚さ数センチの鉄板が赤熱し拳程の穴が空いていた。


 「この様に飛び道具として相手に向ける事ができます。 下手なライフル弾よりも威力が高いですが、狙いがブレやすいので、周囲の安全を確保した状況で使います。 感覚の話で申し訳ないのですが、術式を使っていると、なんか術式に使えない魔力があるな……と感覚で判ります。 覚えて欲しい事は1つ。 魔力に余裕があるのに使えないとなったら、そういうモノだと思う事。 自己嫌悪に陥らないことです」


 「はい!」


 横のテラスでコーヒーを飲みながらほくそ笑むリジェが声を漏らす。


 「……いやいや。 砲弾じゃねぇか」


 「…………うるさいな〜。 朝から何やってんのさ……」


 「旦那がセシリーちゃんに稽古つけてんの。 あの人教えるのクソ下手なんだけど大丈夫なのかねぇ?」


 「……ん〜。 とはいえ、単一の魔術師って大将だけじゃん? いんじゃね?」


 「戦闘向きなら旦那の教え方でいいだろうけど、何もまだどんな術式か判らないのに教えてもねぇ……」


 「リジェの術式って動物を操る操獣そうじゅう術式でしょ?」


 「あとは水、火も使えるけど、精々波立たせる程度か、タバコに火つける程度さ。 ほれコーヒー」


 「どーも。 そりゃ、早いうちに教えておくべきだと思うよ。 大将だって数年後に生きてるか判んない仕事してるんだし、自衛も出来ない女は特にぞくだとかの被害に遭いやすい。 術式さえ使えれば、相手をぶっ殺して難を逃れられる」


 「……経験者は語るってか?」


 「そりゃそうさ。 殺しをしてない狩人が居るかよ。 物流業の人間も同じだろ? 物流業をやってるんだから、ライフル講習くらい受けてるでしょ?」


 「……まぁ、魔術よりも狙撃のほうが明るいけどね。 そうだな……旦那が死んだら大変だもんな〜」


 「……?」


 「お前さん、旦那が帰ってきて表情明るくなったじゃん」


 「……は? キモ」


 「まぁ、心配しなくても、旦那の悪運の強さとゴキブリ以上の生命力を侮る事なかれさ」


 「だよね〜。 流石に腕と内蔵が自己再生するグルド人には会ったこと無いわ」


 「まぁ、死んだらウチで雇ってやるよ。 護衛の狩人さんは気心の知れた相手が良いし、旦那が信頼する魔術師だ。 報酬は良いぞ」


 「……興味はないんだけど、何って言ってた?」


 「……興味無いんだよね」


 「まぁ?」


 「喧嘩したら、全力出さないと殺される術者。 仕事には真面目に取り組む良い奴だ。 狩猟団に残ってくれて本当に助かってるってね。 酔っ払って出た言葉だ。 概ね本心だろうさ」


 「……ほぉん……ほぉほぉ。 ん〜。 まぁ? そ〜ね〜」


 「………………嬉しそうっすね」


 「まぁ、そこそこね。 そこそこだよ? 何だよその目は」


 「別に〜」


 「んだよっ!?」


 そんな光景を眺めながらモーガンは満足気に微笑んでいる。そんな中、右手に柔らかい衝撃が伝わって来る。


 「……あのぉ……」


 セシリーがモーガンの手の甲をトントンと叩いており、何事かと聴くと、あるものを指さした。


 「……はえ〜。 すっごい」


 モーガンが穴を開けた鋼板に爆竹の焦げ付きの様な模様が付着している。 彼が開けた横に何発か着弾したことが見て取れるのだ。


 「……前から使えてた?」


 「いいえ。 初めてです……」


 まじまじとセシリーを見つめる。訝しげな表情で睨んでいる。などの様にも見えるが、本人は至って純粋にセシリーの周りに漂う魔力を見つめているだけだった。


 (……色相はパープル。 珍しい色だな……ん?)


 一瞬、魔力の揺らぎに何か顔のようなものが見えた様な気がした。如何せん、あまり人に教えた事が少なく確証はないのだが、無意識下で術式を駆動させているタイプだと思った。


 単一の魔術師。 近頃は出先でポンポン出会うので感覚が麻痺しているのだが、かなり珍しい存在であることは間違い無い。 純粋に珍しい、いわゆる個体数が少ないという事は衆知の事だが、それだけではない。


 魔力を一定以上持ち、それなのに術式が無い者も居るには居る。 子供の時から体が頑丈、少ない食事、少ない運動でも筋肉質な肉体を維持できていたり、永久歯が抜けたのにも関わらず、再び歯が生えてくるなど、体質に影響するタイプもあり、自己の中で術式が完結して外界に出てこない内在型。


 にしては魔力量が多い様にも見える。実際に爆竹程度のエネルギーを有した魔力を打ち出せているのだ。


 順序的に行けば、術式を使える様になる。そして術式の内の魔力比率を自在に変動させられる様になる。 その中で使えない魔力とそれ以外に分類出来る。


 この3ステップの内、土台となるのが術式を使える状態、魔力比率のコントロールだ。それをすっ飛ばして最後の工程を行える状態であると仮定するなら、無自覚のまま使っている状況ではないかと推察出来る。


 料理に例えるのなら、出来上がる料理の味や匂い食感も知らないが、必要な調味料と食材の種類は判断できる。この様な状況とも言える。


 「……いや、しかしな……う〜ん。 教え子が居るわけじゃないから何ともなぁ…………ちょっと荒っぽいけど、出て来てもらうかな」


 モーガンがヘルメースの方へと向いて声を張り上げる。


 「ヘルメース! ちょっと防壁張ってくんない? 庭と家屋の間に薄くで良いんだけど」


 「え〜。 専門じゃないんですけど〜! 自分で出来ない?」


 「じゃあ、全員の洗濯物に溶剤の臭いが付くけど良い?」


 「わぁった、わぁったって!」


 軽く印を握ると薄手のガラスに似た間仕切りが現れ向こう側の景色が少しだけ不鮮明になった。


 「では、セシリーさん。 私を殺す気で今のを撃ち込んで来て下さい」


 「え……で、でも……」


 「出来ないのなら、ここから出て行って貰います」


 そう言った彼の目には優しさが微塵も感じられず、脅しめいた顔つきをしている。


 言って良いことと悪い事があるだろう。 ヘルメースが血相を変えて立ち上がり、右手には薄緑色の魔力ナイフが握られていた。


 「(まぁまぁ、待てって)」


 「あぁ?! あの野郎、今とんでもねぇ事口走りやがったんだぞ! 黙ってられるか!」


 「(ああいう教え方なんだよ。 だから向いてないって言ったのさ。 特に子供にはな)」


 防壁の向こうが静まりかえったのを確認すると、モーガンの側にはあの黒い巨腕が浮かび上がっていた。


 「残念ですが、私の狩猟団には働ける奴しか置くことはできませんのでね。 悪く思わないで下さい。 私に怪我をさせられれば合格。 無理なら、新たな里親を探しますので、予めご了承をお願いします」


 「……ぇ。 あ……」


 「大丈夫ですよ。 私も兄貴、姉貴みたいな人が出来ては死んで行った。 何度も何度もね。 でも、その内慣れるんですよ。 誰かは誰かの代用品。 そう考えれば、心が傷つかずに済む」


 運動着の袖をぎゅうっと握りしめ、少しの間震えているのを眺める。心配そうに見つめるヘルメース、そういう旦那は目に入れたくないと瞼を下ろしてコーヒーを啜るリジェ。


 (今日の晩御飯は玉ねぎたっぷりの牛肉のハンバーグにしましょ……)


 家の角からそっと見守るトランク。


 しばらくモーガンが静観していると、セシリーの唇が少し動いた。


 「……貴方は、命の恩人です……。 だから、出来ません……」


 「ふ〜ん……そっか」


 そう呟いた瞬間、肉体強化を済ませたモーガンがセシリーの側まで移動して〈タール・ボウイ〉が振り上げられていた。


 「ですが、私はここが好きで。 ヘルメースさんとアリスさん、トランク。 そして、兄貴あなたの居るここが好きなんです……だから――」


 「恩人に牙を剥く事。 それをどうか許して欲しい……!」


 先程の魔力弾が人差し指に凝集して光を放っている。


 (根性のある娘だ。 ……あまり急ぐ必要も無いか。 無意識下でここまでものにしているのなら……)


 モーガンの頬を浅く裂いた魔力弾が大空へと突き抜けていく。術式が出ていないのを確認し、術式を解除した瞬間だった。


 セシリーの揺れる髪の隙間から、2つの光が見切れている。消失していくタール・ボウイとは逆に、彼女の背後に居る何かは力強く、色濃い輪郭を形作るのだ。


 (……しまった。 まさか、傀儡術式か! 出現まで遅延ラグのある性質だから、失念して――)


 サーカスの面をつけた人型の傀儡術式。頭には美しく整えられたシルクハットが冠され、膝下まですっぽりと覆う女物のトレンチコート。踵の太いハイヒールを履いた女型の傀儡術式。


 空間に紫色の魔力光が尾を引くと、硬質なガントレットを纏った傀儡術式の拳がモーガンの肋を砕き、体躯を弾き飛ばした。


 あまりにも早い展開で、セシリーが魔力弾を当てた事をモーガンに告知しようと口を開いた瞬間、既にモーガンは薄い防壁を突き破って薪の山を崩している光景が広がっていた。


 「え……」


 自分の側に佇む傀儡術式。術式としても認識出来なかった。なんだか妙な格好をした女の人が立っている。 しかも右拳には血液がべったりと付着している。


 「……誰ですか……貴方は」


 妙な格好をした他人。本当に頭の回転が追いつかずに、ただただ呆然としている。


 文字通り飛んできたヘルメースがセシリーを担ぎ上げて傀儡から距離を取る。


 「大丈夫!? 怪我! 怪我無い!?」


 「……大丈夫。 あの人誰?」


 「恐らく、セシリーの術式。 リジェ! 足を狙って!」


 「〈ドリフト〉 すまねぇな。 俺の為に死ね」


 空に黒い影が横切り、狙い澄ましたかのように、傀儡術式の脚を吹き飛ばす。1本までは持っていけたが、来ると勘付かれたのならそうは行かない。


 叩き潰された鳥の肉が散弾の様に飛び散り、地面へと転がる。


 「旦那ぁ! この程度でノビないで下さいよ!」


 「あぁ……ははは! 良い術式だ!」


 「大将! 笑ってる場合か!」


 モーガンが身体の中に自身の術式を潜り込ませ、砕けた骨をつなぎ合わせ、裂けた肉を癒着させる。焼かれるかのようなひどい痛みだが、この痛みのお陰で気付けが効いてる。


 「セシリー。 これが貴方の術式です。 今は傀儡だけが出せるだけだと思いますが、これから術式効果も身について来ると思うので、気長に頑張りましょう」


 「それと、気に障る事を言ってしまって申し訳ありませんでした。 発破をかける為とは言え、気持ちを逆撫でするような事を言ってしまいました」


 「……あ〜。 やっぱり。 も〜、一瞬本気だと思っちゃいましたよ〜!」


 「お前ら! 暴走する傀儡術式挟んで和解するな! まだ動いてんだぞアレ!」


 傀儡術式の面が黒ずんで行くと、ボロボロと崩れて消えていく。傀儡が消えた後、その場にはモーガンの血痕とリジェの術式の痕跡だけが残っていた。


 「ふふふ! でも、少しムカついたので今晩は何かご馳走して下さい」


 「お。 良いね! 今晩は皆で焼き肉食べに行こうか」


 リジェが呆然とした表情でヘルメースへと耳打ちする。


 「……なぁ、ヘルメース。 セシリーってメンタル強くね?」


 「……多分、この家で1番メンタル強者だと思う」


 「震えてたのって、武者震いだったってことか? ひえぇ〜恐ろしい娘」


 「……まぁ、大将のことを信頼してたんだと思うよ。 意外と波長が合うらしい」


 「……支部長が起きてたら面倒くさい事になってただろうな……」


 「あ〜。 ね。 まぁ、仕事のストレスでまだ寝てるっしょ」


 つづく

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