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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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洞穴からの呼び声

 柔らかくも粘りのある地面へと足をおろした。薄い金属板が体重で撓んでいる。


 「……どれ、随分と降りたな」


 エレベーターの筐体から飛び降りると土煙が舞った。傍に刻まれた土の抉れ。錆びついた金属片。そして、真新しい裸足の足跡。


 「……」


 一切として痕跡を隠そうともしていない無防備な足跡。鬼火が照らす先を見つめているとため息が出てくる。


 「……失敗作あのバケモノの件で少しトラウマなんだがな……畜生……〈ディフェンシブ・プレート〉」


 ライフルを背中に回し、リボルバーを構える。左手には突撃盾が構えられ、除き穴には視界の利かない有孔板がはめ込まれている。


 全身の外骨格筋に硬化プラスチックを纏わせる肉体強化でも弾丸を防げるが燃費が悪い。バックパックが無い状況で魔力切れを起こせば間違いなく死ぬことになる。


 「……広い空間に出たな。 ……何かの祭壇か」


 今の時代では目にできない偶像シンボル。 礼拝堂の様な構造部の奥まった場所にそれが置かれている。地中で陽の光とは無縁な場所であるのにステンドグラスが施されている。


 狩人協会の技術の粋を集めた肩のデバイスの装置をいじり、録画モードを起動する。


 「〈散れ〉」


 魔力を込めた言霊を言い放つと礼拝堂の高い位置に光源となる鬼火が上っていく。ステンドグラスに描かれた絵を興味深く眺め、ゆっくりと息を吸い込む。


 夕暮れの様な赤い背景の中心に人間が浮かび上がっている。青い衣装へと身を包み、直ぐ側に雲を従えている。高尚な存在であると示された人間の頭部には2つの円環。


 「上位者信仰……? とでも言えば良いのか……」


 地面へと落ちた廃材を照らしながら祭壇へと鬼火を寄せていく。土埃を被った絨毯。崩落で潰された木製のベンチ。わざわざ敷き詰められた大理石の階段を進む。


 朧気おぼろげに見えていたシンボル。モーガンの寄せた鬼火の魔力に呼応するかのように、シンボル尖端の球体が回転を始める。


 「……なんだ……鬼火の魔力を吸っている? 馬鹿な……他の術式に使えるエネルギーじゃあないのに……」


 シンボルへと近づいて祭壇に祀られた箱を見下ろす。封が解かれ蓋が床へと捨てられている。


 「……開けたのは信者ってわけじゃないな……」


 丁寧に祀られた箱とは違い扱いの雑な蓋。 深さのある幅広い箱だ。腰に下げる剣がすっぽり入る長さ。にしては底が深いのが不思議ではあるが、上で殺しをやる価値がある物がおさまっていたらしい。


 「……粉?」


 降り注いだ土埃にしては粒径が大きく、少し平べったい。 綿棒でチマチマ集めると小瓶へと詰め、シンボルへと再び視線を移す。


 Y字型の握り手の先に球体が浮かんでいる。接合する物は一切無い。一切の魔術的、技術的な構造が想像できない。どうやって作ったのかがさっぱりだ。


 尖端の球体には六角形の孔が規則正しく穿たれており、中からは鈍くも温かな光が漏れ出ている。六角形の光が肌を撫で、鼻を越えて左目に通った時だ。


 「……! ゴミでも入ったか……?」


 後腐れのない素早い痛みが走り、既に姿を消していた。左目を押さえる中、金属パイプを落としたかの様な音が鳴り、音源が足元へと寄って来る。


 シンボルの球体。光を失って、ただの金属製の球体へと成り下がったモノがそこにはあった。商品棚から卵を落としてしまったかのように困惑の表情を浮かべ、少しだけ呆気に取られていた。


 「……なんだってんだ……」


 ハッとした表情で後ろを振り向き、盾の縁に銃身を預ける。


 (……誰か居るぞ……いいや、何かか……だが間違い無い。 生物が居る……だがどこに)


 傍の空気が蠢く感覚と共に体が軽くなった。気配の方へと目を移すと盾が床に転がって、赤い袖に包まれた腕が落ちている。


 「……まさか! 〈中指〉!」


 簡易詠唱で出現させた〈拒絶する中指〉と呼ばれる解体包丁で空気の揺らぎの最先端へ振り下ろす。


 鈍い音と、青白い火花が爆ぜ滴る。薄明かりの中のっぺりとしたフェイスマスクの輪郭が浮かび上がる。獣に近しい息遣い。上の連中を皆殺しにした張本人であると確信した。


 「よぉ……。 随分と変わったお面だな……左腕を取るとは大した奴――」


 見えない鈍器で肋を蹴飛ばされ祭壇に体が食込む。木製の祭壇に食い込んだ体を気だるげに引きはがし、風の先端を睨む。


 「……お喋りが好きって訳じゃ無さそうだな……。 〈タール・ボウイ〉! るぞ!!」


 左腕の機能を術式で補填する。前(グール事件時)よりもより自然な造形、術式強度。


 「……消えやがった……なんだ……?」


 鬼火の火力を上げ、礼拝堂の全てが明るみになる。随分と金の掛かった構造物だということは把握できたが相手の居場所は情報が無い。血溜まりとモーガンの左腕が傍に落っこちている事くらいしか判らない。


 「……はて。 どこに潜んでいるのか」


 モーガンが祭壇から離れ、肩に剣の背を乗せて入口を目指す。


 「……」


 モーガンの背後。彼から伸びる影の中から半透明な人型が這い出てくる。2メートル弱はありそうな筋骨隆々な肉体。


 背後を取った。相手は手負い。圧倒的なアドバンテージ。人型は腕を静かに上げてモーガン目掛けて振り下ろす。


 鈍い音と共に血飛沫が舞って、瑞々(みずみず)しい音が鳴る。


 タール・ボウイの腕が刺客の逞しい腕をちぎり取り、見せびらかす様に掲げていた。


 「……侮られたもんだ。 背後だとしても私の〈タール・ボウイ〉の射程距離内には変わりないのだがね……」


 空から出血する箇所を目印に武器を突き立てる。小さい粒状の血液が浮かび、握り手まで滴る。


 刺し傷を起点として刺客の相手の姿が見えるようになっていく。胸をピンポイントで貫き、ねじりを加えてずらすと鉄仮面の下から血が降り注いでくる。


 「……いい術式だった。 影に潜み、可視光を透過する術式。 光の屈折、吸収を操る術式と見た。 ……怪物が使うには繊細な術式だ。 玄人向けの術式。 君には過ぎたモノだな」


 天井へと目を向けて武器を構える。静かに腰を落としつつ、死骸から剣を抜くと狙い澄ますかのように瞼を絞った。


 死骸が倒れ来るまで、あと1秒もない。倒れ来る死骸の気配を感じながらも天井を見つめていた。


 「……!」


 切り払うと共に、地面に血液で描いたカーペットが広がった。タール・ボウイの右腕が腕のない遺骸の首根っこを掴み、乱雑に投げ捨てるとモーガンはカーペットの先を睨んだ。


 「……動きが読めればこっちのモンさ。 今のは愚策の極みだったな」


 半分にスライスされた人型の怪物の遺骸が徐々に姿を現す。踵とブサイクなケツ。前半分は朽ちかけた礼拝椅子に乗っかている。


 雨の日に濡れた足ふきマットを干しているかの様な、前半分。見ていて到底気持ちの良いものだとは言えないものだった。生々しい色と光沢を放つ肉と糞便の匂い。


 「……おい。 そこの綺麗な方持ってきて……生化学分析官に引き渡す。 あ〜。 びっくりした。 脇汗やべぇ〜……帰ろ」


 遺骸をロープで引きずりながら、洞窟の光を目指す。


 「っと。 忘れてた……こちらモーガン。 怪物と接敵。 回収班に保存設備を要求したい」


 「……」


 「……あれ? レオさん? ……故障か……初期の製品ロットはこれだから……」


 「……こちらは専用回線です。 君は?」


 「……え……。 いやいや、モーガンですよ。 クラス7の。 マナクリスタル採掘所跡地の調査派遣された狩人です」


 「……」


 「……? 混線でもしてんのか……これだから開発品は……カメラ機能積むと信頼性下がるのか……?」


 洞窟を抜けあの場所へと戻って来る。だが見覚えのある光景ではない。遺体も銃弾の穴も全てが無くなっている。


 変わりに立入禁止の有刺鉄線付きのフェンスが奥に見える。


 「……はて。 どういう事だ……」


 無線機に繋いだイアホンから馴染みの声が聴こえる。


 「……モーガン! レオだ! お前か?」


 「……はい。 捜索にの結果、地下に礼拝堂付きの祭壇を見つけました。 データと標本。 遭遇した怪物の亡骸。 映像もバッチリ撮ってきました」


 「……お前、どのくらい向こうに居たんだ?」


 「ざっと19分くらいですけど」


 洞窟の方へと目を遣ると、あの時の幽霊ゴーストがモーガンの方を見つめていた。


 「……信じられない話だと思うが、お前3日間行方不明だったんだぞ? 洞窟から出てきたとは言うが、何処から出てきた」


 「……横穴から出てきただけです。 お手数ですが回収班を再度要請します。 詳しい話は面と向かってやりましょう。 遺骸が新鮮な内に分析官に引き渡したいので」


 作戦指示室のマイクを切り、技術担当に確認を取る。


 「間違いなくモーガンなのか?」


 「えぇ。 通信を行っている端末コード。 識別信号も合致しています」


 「……わかった。 …………了解モーガン、回収班を送る。 死体は日陰に。 直ぐに向かわせる。 しばらく待て」


 「……あっ。 左腕飛ばされたので治癒術式を使える人を……はい。 ……よろしくお願いします。 では後で」


 腰を下ろして、死体の方を見つめる。


 「……ところで、君ら何者? ふ〜妙な話だ……まったく奇怪な話だよ」


 つづく

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