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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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狩人達の楽園

 髪の毛を整えたモーガンが再び姿を見せた。全体的に短くまとめたツーブロック。眉も整えられ、ヒゲも全て剃り落としている。


 「おぉ。 男前だな。 やっぱし、髪型がクソだっただけか。 上位者をぶっ殺し、中々顔も良いと来た。 女紹介しようか?」


 「いいえ。 間に合ってますので」


 「お。 そうか。 武器は……まぁ、魔術師には不要だよな。 じゃ、島の観光と行こうか。 美人のネェチャンじゃ無いのは勘弁な。 狩人協会の人員不足はここでも同じでな」


 氷の入った飲み物を片手に島の道を歩く。 辺境の島だろうに、石で舗装がされている。随分と長い事使われているらしく、道には馬車の轍の溝が刻まれている。


 強烈な日差しに二人ともサングラスを装着し、ラフな格好でふらふらと歩いている。島にある施設の説明だとか、この店のソフトドリンクが美味いだとか。


 どうだっていい話だ。モーガンに話したい事柄は別にあるだろうに。すれ違う島民に店の従業員。誰もかれもが普通の奴へと向ける視線とは別口のを向けている。


 こんな話など、下っ端にやらせれば良いことだ。わざわざ地位のある人物が出しゃばる必要もない。


 「……んで、あそこの白い建物、アレが狩人協会の宿舎だ。 横のがレジャー施設で……どした? もう飽きたのか?」


 「いえ。 貴方の様に地位のある方が案内だなんて、妙な話だと思いましてね。……失礼、お名前をお伺いしても?」


 「……しゃ〜ないな〜。 俺の名前はレオだ。 ここ『狩人の楽園』の管理人、そんで島の所有者さ。 ちょっとした地元で有名なオッサンって感じよ……地味なもモンさ」


 飲み干したカップの氷を頬張り、ボリボリと噛み砕きながら続ける。


 「まぁ、そんだけ丁重に扱う相手だと思われてるって事よ。 機嫌を損ねると、島ごと吹き飛ばす可能性があるし」


 「……しませんよ」


 「出来ないとは言わないんだな」


 「お人が悪いですね。 他人から恨まれるのは勘弁ですよ。 強い術師の前でアレを使うのは、銃口を向けられているのにポケットに手を伸ばすようなものです。 早死したくはありません。 ところで、話の本題に入っていただけませんか? 観光ガイドのためにわざわざ出向いた訳じゃ無いでしょう」


 飲み干した紙コップを近場のゴミ箱へと突っ込むとレオの方へと手を差し出す。彼の分のゴミを受け取り、同じ様に箱へと詰めるのだ。


 近くに散らばった小汚い紙コップを掴んではゴミ箱へと放り込む。


 「上位者を殺した男がねぇ。 もっと豪快で粗雑な奴だと思ったのに意外だな。 まさか、他人のゴミを片付ける地味な奴だとは」


 「地味な奴が貧乏クジを引いたってだけです。 ありゃ、怖かったですよ。 今でも生きた心地がしてないですし。 昔っから小心者でね……」


 そう言いながらゴミを拾うモーガンの手は少し震えていた。


 「……すみません。 少し気になって」


 「いいさ。 時間ならいくらでもある。 まぁ、話したい事はいくつかあるが、路上で話すには少し不用心な内容でな。 ついてきな、そう遠く無い」


 男が指さした店。狩人達の天国という名前の派手な建物。夜中には、この洒落たイタリック体で並べられた看板がビカビカと光るのは容易に想像できる。


 店へと入り、レオを知る人間たちが次々と頭を下げている。地元の有名人の域に収まらない扱い。権力との関わりには用心する必要がある。


 モーガンはこの後どういう事が起こるのかと警戒を強めていた。分厚い扉を警備が開くと奥へと連れられていく。


 「まぁ、座ろう」


 水タバコとアルコール。少し時間の経った女物の香水のニオイ。非日常の匂いの中、ずっしりと沈み込むソファーへと腰を下ろす。


 葉巻の頭を切り落とし、咥えながら火をつけるレオを眺めながらモーガンも腰を下ろす。旨そうに煙を口の中で転がしながら脚を組んで背もたれに腕をまわしている。


 「吸うか?」


 彼の指に挟まれた葉巻が小さく見える。線が太く大柄な体躯が近くに座ったせいだろうか、より色濃く見える。


 「いいえ」


 「そうか……」 


 周囲へと目を向ければ、男の傍に美しく着飾った女が座っている。目の前に居る派手な女に夢中で客の狩人はレオに気が付いて居ないのが殆どだ。


 なるほど確かに。外よりも目を引かないのは事実らしい。 そんな声が頭の中で声が響く。


 「キャバクラで話? てっきり会議室か個人のオフィスかと思ったんですがね」


 「ここなら人目を気にせず話が出来る。 なに、別に女を交えて話をしようってわけじゃない……コレ、見覚えは?」


 小瓶の中に収められた白い粉。砂糖にしては粒径が大きく、塩にしては結晶が丸くささくれている。


 見覚えはある。もちろんだ。そんな目をしたモーガンが小瓶を掴み、手の上で何度も転がしている。


 「コカインの術式。 えぇ、戦った事がありますよ。 確か……マーベリックと呼ばれる男の術式だったと記憶していますが」


 「だな。 近頃、これが流行っていてな。 最初は主要な貿易港で確認されていたが、近頃は内陸部の都市国家にまで流通するようになってる。 狩人協会に非加入の地域で特に流通している」


 「テロの一派に資金が流れていると」


 「まぁそうだが。 そうでもないとも言える。 コレ10グラムで100クラウン、ちょっとした菓子くらいの値段だ」


 「薬物依存による人的資源の損耗、国力の減衰を狙った流通ですか」


 「……それよりも悪い。 依存性が高いのは以前と変わらんがね……」


 レオがメモリーグラスを置いて内容を展開した。右目の景色に情報をまとめた画像と文章が展開されている。網膜をディスプレイとして表示する手法だ。


 レオの右目の中にも似たような光の凝集体が宿っている。


 「この薬物をキメたマウス。 画像の通りに肉体が変質して、別の怪物に変化してる。 これは狩人協会の生化学部門のレポートだ。 そんで次のページ以降が本題でな」


 網膜内のページをスライドさせると、下着を履かされた老人の写真が飛び込んで来る。骨と皮だけの老人。傍に並べられた写真は口内の状態を撮影したものだ。歯が抜け落ちて、辛うじて残った奥歯にも気持ちの悪い斑点が浮かんでいる。


 ページの上に記載された経過日数が増えるにつれて老人の肉体に色艶が戻って行き、歯も新たな物が生えていく。眼球が膨張し、腐れ落ちると複眼の様な組織が形成されていく。


 「……使徒化」


 最後のページには見覚えのある使徒の姿へと変化している。あの日戦った無数の怪物に似た姿。


 「……死後3週間で変質を完了する。 ですか」


 「この結晶で中毒死した人間とマウスが高確率でこうなる。 ……現状ではそういう事になってる。 幸い、生殖機能は無いらしい。羽化した使徒による被害は今の所は無いが、目撃例がいくつか報告されている」


 「戦力を集めていると見るのが妥当か、内なる神秘性を集めていると見るか。 どちらにせよ、ロクな事は考えていないでしょうね……これが話ですか?」


 「そ。 旧フェイスレス一派に関する仕事。 実地での制圧等が必要な場合、君に依頼をすることになる。 なにせ上位者へと至る方法を知って実際に実行してしまう連中だ。 詳しい奴が居れば心強い。 討伐が必要な個体が出てきたら別途依頼を出すつもりだ」


 こちらばかり話をして申し訳ないが。 レオがそう断って更に続ける。


 「グルド系魔術師協会の事にも詳しい奴が欲しいってのがお上の考えさ」


 「一言で言えば、色々と都合が良いのが君だって話さ」


 話を聴き終わると何度か首を縦に小さく振り、聞いた話を頭の中で、噛み砕いているようだった。 


 結論だけを言えば、旧フェイスレス一派の依頼を適宜発注したいという話だ。


 「良いでしょう。 お受けします」


 返事をするまでに時間はそれほどかからなかった。何かを考え込む様子もなく、ほぼ即答という感じだ。


 「……」


 悩んだり、1度は返事を預かるモノだろうと踏んでいたのだが、この返事の早さは意外だったらしく、少々驚いている。


 「どうされましたか?」


 「普通は報酬の話をしてから、返事をするモンだが……」


 「まだ発注もされてない依頼に初期見積もりを出すのは難しいと思いましてね。 それとも、既に依頼があるって感じですか?」


 「いいや。 今のところは無いな。 まぁ、受けてくれるならそれで良い。 しっかりと報酬も用意させてもらうよ。 この件に関して予算が降りるのに時間は掛からなかった。 ピンハネされることは無いだろうさ。 そっちの要望があれば言ってほしいが……何かあるか?」


 少し考えた後、モーガンが口を開く。


 「私の狩猟団に属する人材、並びにプライベートでの付き合いがある人物に対して、身体的、精神的な危険を及ぼさない事。私から開示する情報はあくまでも私の善意の範囲での開示に限る事」


 レオが視線を泳がせて口をつぐむ。 あぁ、良いぜ。 そんな表情と頷きを見せる。


 「……他には?」


 「私に対しての背信行為に関してはあらゆる手段で報復をします。 狩人協会に関する施設、人的資源への術式行使も厭わない事を予めご理解をお願いします」


 「……ふふ。 強気だね」


 「愚者の太陽。 あれで周囲の街に有毒な油混じりの雨が降り注いだ。 甚大な経済的な打撃を引き起こしたし、実際に健康被害も出ている。 圧力をかけた交渉に出られる身だとは思わないがね」


 「怯えた犬みたいなもんですよ。 怖いからこうやって吠えてるんです。 実際に噛みつきはしないですし。 安心したいだけですから」


 大概は報酬の話だとか、税金の話だとかをするものだが、モーガンが頼んだ事は自身と周囲の人間に対する安全の保証だった。手間をかけて護衛をしたりをさせるでも無い。


 周囲の人間に関わるな、何もするな。 その姿勢から見て取れるのは、狩人協会との関係を必要以上に深めたく無いという考えである。


 (あるいは、狩人協会と揉めた過去があるのか……)


 モーガンの目には、決意じみた何かを感じる。そこだけはなんとしても譲れない。そうでなければこの話は無しになるだろう。


 契約を持ちかける方の弱みを理解してる面構えだ。実際にこの件に関しては狩人協会側からのラブコールであるし、お互いに強くは出られない。


 モーガンが暴れたとして、こちら側の手駒を失わずに鎮圧は不可能。 妥当な脅しだ。


 「おっけ〜……わぁった。 よろしくな」


 「よろしくお願いします」


 レオが葉巻を置いて、姿勢を緩める。 少し残念そうなため息をついて肘を膝においている。


 「さて、そんじゃ。 しばらくはこの島を観光でもしてな。 転移門のメンテナンスが終わるのは4日後。 世間的には行方不明っていう扱いになってるから、親しい人に会いに行くと良い」


 「……ところで、行方不明になって何ヶ月ですか?」


 「3ヶ月とまぁ、半分強くらいだ。 なんだ? 恋人と3ヶ月間行方不明なら縁切りの話でもしてんのか?」


 「…………」


 顔を合わせてしばらく過ごしているが、今日1番の困り顔を浮かべている。冗談のつもりで、マジの話だとは思っていなかった本人も気まずそうに頬を引っ掻いている。


 ストレス反応を互いに晒して、暫くの沈黙がその場を支配している。


 「おぉ……まじか。 すまん」


 「い、いえ。 こちらの話ですし……」


 「……ま、まぁメンテ明けまではウチに泊まって行け。 あぁ、親父には連絡しとくよ……大丈夫さ、きっと待ってくれてる」


 「……い、いいや。 そういう所とかキッチリしてる人なので……多分、無理かな……」


 「上位者の情報を狙う輩が居ないとは断定できなかったから、この島で隠す必要があったからな……。 お、俺は仕事をしただけだぞ……しがない下っ端だからな……う、うん!」


 「……あ〜。 絶対にブチギレてる……」


 「まぁ、振られたら……縁が無かったって話よ」


 「……ですね……」


 「んで、話の続きだが……はは、まだ終わって無いぞ? 君には新しいクラス区分が与えられる。 特務クラスってやつだ。 証明出来る物品を渡す事は無いが、データ上ではそういうクラス区分になる」


 「特務クラス……いまいちパッとしないですね」


 「まぁ、この島の出入りを許可するって区分だからな。 クラス3でも術式特性的に8は堅い連中を早いうちから囲おうってのが目的さ。 サポートの弱い地域で早死させるには惜しい。 特に今回みたいなのが出た時に戦力となる様に育てるってのがコンセプトだが、ランディとミリアはあまり戦力にならなかったらしいがね」


 「……彼らもここで訓練を?」


 「いいや、8まで上りつめて上陸を許可された口だな。 たまに砂浜で休暇を楽しんでるよ……じゃ、特務クラスの手続きを済ませるまで酒でも飲もう。 じきに狩人証が運ばれてくる」


 つづく

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