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狩人の生活  作者: 青海苔
第二章 星屑の反逆者達
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赤い瞳の男

 嫌な夢を見ていた。とても嫌な夢だ。ある女が居た。フェイスレスと呼ばれていたテロリストだ。並外れた術式の使い手で多くの人間が死んだ。


 いいや、代償となった。神へと至る道とでも言えば良いだろうか。人間の魂を土台として上位者へと押し上げる儀式へと利用された。


 これは夢だ。 そうモーガンが呟く。同じ記憶を夢で何度も見せられている。 終わらない夢の中で、何度も何度もフェイスレスと対峙する自分を俯瞰している。


 〈愚者の太陽〉をフェイスレスの口へと押し込み、吐き出せないサイズに拡張。押し込めるサイズへと縮小してフェイスレスへと挿入。


 何度も見た。 暫くはノイズ混じりの酷い映像だったが、ここ最近更に鮮明な映像へと変化している。


 初めは、死後の世界というやつなのかと思っていた。


 「……あと30秒でリセット」


 俯瞰をするモーガンが過去の映像を眺めている。普段通りの映像だ。爆発を期に映像が途切れて再び馬車の中。


 同じ1日を夢の中で何度も繰り返す。目新しさは無い。


 ランディからもらった幸運のコイン。無線の会話を盗聴も出来るし、持たせた相手に音声を届ける事もできる。電気信号を音へと変換しているのを見るに、磁石でも仕込んであるのだろう。


 お陰でフェイスレスの思想を延々と聴く羽目になっているのだが。


 退屈そうに記憶の追体験をしていると、妙な物が漂ってきた。


 蝶々だ。何気なく左手を翳すと指先で羽を休めている。普段とは違う光景。それを眺めていると奥の方で流れる記憶の光景が停止した。


 フェイスレスの体躯から光が漏れ出る瞬間。そこで止まった。映像が初期化されるのはあと少し後の筈だ。


 フェイスレスの傍に誰かが立っている。いいや、出てきた。小さい水たまりを超えるかのような足取りで出てきた人物。


 過去の記憶だ。視界が潰れかかっていたが、こんな奴は見たことも無い。魔力の性質に関しても覚えはない。間違いなくだ。


 「……ん? へぇ……こいつがモーガンか。 いつの時代にも優れた魔術師がいるもんだ……()()き」


 止まった世界の中で男が記憶の中で死にかけているモーガンを見つめている。


 身につけているものはダルダルのズボンだけ。癖っ毛混じりの洒落た髪型。背中と胸には入れ墨が彫られ、背には砕けた2重の光輪。胸には茨に絡まった眼球のデザインが入っている。


 「……くふふふ。 あ~良いねぇ……派手な術式は好きだよ」


 ダウナー系の嗄れた声。シャープに整えられた筋肉質な肉体。


 そこまで言うと映像の中で動いていた男も固まった。時間が止まった世界。気味悪そうにその男を見つめる。彼を見ていると目の裏側に鈍い痛みがじわりと拡がっていく。


 「見えているな?」


 俯瞰するモーガンの目を直視して、歪んだ笑みを向けて来る。俯瞰しているこの半透明な肉体を確実に捉えているのだ。


 「……!」


 気がついた時には後ろへと回り込まれ、首を締め付けてくる。身体の自由が利かず、視界の縁から真っ黒い影が伸びてくる。


 「……縁があれば、また会おう」


 喉に詰め物でも入れられたかの様な息苦しさの中で目を覚ます。知らない天井とカーテンの隙間から射し込む強い日差し。


 ほんの少し磯の匂いが漂って来る。それでもって視界の端から誰かが覗き込んできている。


 「おぉ。 起きたよ〜!」


 女の子だった。モーガンの覚醒を確認すると、彼女は祖父を呼びに何処かへと行ってしまった。セシリーくらいの歳だろうかと考えながら周囲を見渡す。


 何処かの病院という訳では無い。民家だと思うのだが、エルフやグルド。そういった人種が住む土地の建物としては様子が異なる。


 窓から覗く外の景色には砂浜が広がっている。栄養の少ない海なのだろう。透き通った海水が打ち付け、晴天の色を呈している。


 「…………いい景色だな」


 暫く景色に見とれていると、微睡んだ脳味噌に血が回ってくる。そう言えば、あの後どうなったのだろうかという疑問が最初に浮かび、次から次へと考える事が湧いて出てくる。


 ストレス反応で顔を撫でつける。撫で終わって膝上に左腕を置いた瞬間にあることに気がついた。左目が再生しているのだ。


 そして、えらくヒゲが伸びている。もみあげと顎先までの髭が繋がっていて、刈り上げた左右の毛も伸びに伸びている。視界に自分の髪の毛が垂れ下がっているのは随分と久しぶりの感覚だった。


 「……どのくらい寝ていた」


 「運びこまれて3ヶ月。 刺し網に引っ掛かる前の事は知らんがね。 アンタ、グルド系か……」


 随分と逞しい体をした男が部屋へと入ってくる。日焼けした肌、分厚い手の皮。潰れた爪。漁師を生業としているのは明らかだ。


 「……貴方も赤い瞳ですけど」


 「あぁ、俺は2世でな。 移住したグルド人と地元民の混血さ。 親父が移住してきたグルド人でな。半分はグルドの血が流れてる。 お前は?」


 「……いえ。 捨て子だったので。 詳しくは無いです」


 「ふーん。 で、住所は?」


 「クリスタルリバーサイドという、エルフ族の街で狩人をしています」


 「おぉ〜。クリスタルなんとかは知らんが、美人の多い場所だろ? 知ってるぜ。 なんたってエルフの街だ。 うん」


 「……ここはいったい」


 「ヘレンス島。 まぁ、本土からクソ離れたクソ田舎の離島だな」


 「……地図で言うとどの辺りでしょうか……? 緯度と経度とか」


 「知らね」


 「……ですよねぇ……はは。 渡船だとか、通信設備だとかは……」


 「週1で交易船が来るケド、通信設備はねぇな。 狩人協会もだいぶ前に出て行ったし。 ざっと、20年前くらいかな〜?」


 財布を紛失したかのように絶望しているモーガンをしばらく眺める。その表情がなんとも面白くて、老人は悪びれること無く、大笑いするのだった。


 「……冗談だよ。 ここは、狩人協会の所有する島さ。 地元民兼漁師。それと、管理人の手伝いってところだ。 まぁ、気楽にしてくれよ」


 状況を把握する相手に冗談とは、腹立たしい奴だと眉間に皺を寄せる。


 「……左様で」


 「待てって、そらぁ知らなくても仕方ないさ。 島に入れるのはクラス8から。 それか特例措置の相手か。 心当たりはあるか? ああっと、口にするな。 一応部外者だからな」


 モーガンが無言で視線を落とした。 老人は冗談が過ぎたと少し申し訳無さそうに口を開く。


 「……網に引っ掛かってたのも冗談だよ。 ただ眠り続けて3ヶ月弱だ。 ベッドの空きが無いってんでここで面倒をな。 医者が来ては帰りを繰り返してな。 ようやくお目覚めだ」


 「……そうですか」


 「まぁ、じきにお迎えの連中が来るだろうさ。 ……いいか」


 紙タバコの箱を振りながらモーガンへと視線を向ける。貴方の家だ。 お気になさらずと言うと、老人は旨そうに煙を味わっている。


 「……孫の前じゃ、吸えんでな……ふ〜。 兄ちゃんもどうだ?」


 「じゃ、1本もらいます」


 「ん……ほれ」


 浅く咥えて唾液が付かないようにする。 老人は結構深めに咥えるタイプらしい。 タバコを咥えながら仕事をしているのだろう、普段からの習慣だ。 せっかく火をつけたタバコを海に落とすのも勿体ないし、船へと火種を落とすリスクもあるだろう。


 「火は」


 「あぁ、大丈夫です」


 モーガンの人差し指の先端から小さい火が浮かび上がる。 ガス化した可燃オイルを燃焼させている。 少し湿気たタバコに火をつけ、深く吸うと先端の燃焼部が全体の3割を灰へと変えた。


 「やっぱり、魔術師か」


 「……存じ上げないのに家のベッドを貸したんですか?」


 「いいや、倅(バカ息子)の頼みでな。 暫定クラス7の面白い奴がいるだとね。 今から連絡してくるから待ってな……あぁ、灰皿……ほれ」


 「ありがとうございます」 


 しばらく経つと、狩人協会の職員が医者を伴いやってきた。


 「いや〜。 すみませんね〜。 お世話になっておりますぅ〜」


 「あっはっは。 良いってことよ。 俺は網直して来るから好きにしといてください」


 そんな会話が玄関口から聴こえてくる。


 医者にしてはラフな格好で現れた男。 流石にこの炎天下で白衣を着ていないのは当然とも言えるだろう。汗をかきまくった衣服で診療するのも衛生的では無いだろうし。


 「袖を捲って下さい」


 「……」


 血圧だとか一般的な検査を済ませる。次は目の検査だと言い小型のライトを取り出して右目を照らす。


 「ふぅん……」


 左目を照らした時だ。 医者の後ろに控えた狩人の眉が動き、違和感を感じた反応を見せた。 その反応について患者である本人は気が付いてはいない。


 やたらと長いこと左眼を照らしているな。 そんな事しか考えず、大して気にしていない様子だ。


 医者が気取られない様に右眼と交互に照らして何かを探している。


 左眼の瞳。虹彩の中に鎮座する瞳孔のすぐ横。光の反射方向の違いによる円形の筋が見える。瞳孔と同じ形同じサイズ。


 2つ目の瞳。未発達ではあるが、今回の件を引き起こしたフェイスレスの瞳に出現した形質と同じものだ。


 医者の表情が少し曇る。あの場に居たコールドウェルにはこの兆候は見られていない。 上位者へと成る儀式に巻き込まれながら戦った。 何かしらの影響を受けていても不思議ではない。


 (魔術師協会の言った通りか……)


 「……先生? ……何かありましたか」


 「いやいや。 少し充血がみられるくらいですね……いやぁ。 歳のせいか、パッと見つけられんでね……検査の結果は、まぁ問題ないでしょう」


 背中側に置いた医療鞄へと手を入れて医者は今後の事について考えを巡らせているようだった。


 その時だった、豪快で低い声色の男が割って入ってきた。 あの老人を若返らせた姿のよう。生き写しとも言える姿。 彼が言っていた バカ息子御本人だろう。


 黄金色の髪の毛。蓄えられた太く密な髭。赤い瞳。筋ばって肥大した全身の筋肉。片手で人の首ごとへし折れそうな大柄の男。


 「……お。 英雄のお目覚めか……親父には言っといてくれ。 俺はこいつを借りていくぜ」


 後ろに控えた若い女狩人が睨みを利かせている。白銀の髪の毛。澄んだ空色の瞳。整った顔つきに、薄い唇。


 「……この島の外には連れて行かないでくださいね」


 「お前居たのか……わかってるって。 ええっと……モーガンだっけか。 ついてきな、この島を案内しよう。 ついでに、その不細工な髪の毛もどうにかしようか。 腕の良い美容師知ってんだ」


 つづく

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