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狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
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到達点

 「……ふぅ〜。 君もそろそろ燃料切れじゃないか?」


 「……それはお互い様だろ。 アンタは上位者へと至ったらしいが、時空を超える神秘性が残っているとは思えないがね……さっきので殆ど無くなったのはお互い様だ」


 モーガンの上着は一部が炭化を始めている。自身の術式を中和出来ると言っても全てではない。耐熱性に優れた革もボロボロになり、下のシャツはほっとんど消えてしまっている。


 一方でフェイスレスはどうだろう。 脱皮を済ませたクマセミの様に白く筋張った薄緑色の翅。手脚も新しく再構築されたが別の生き物へと変化している。


 産まれたての上位者。貫かれた胸の穴が瞬く間に塞がると、頭に浮かべた光輪が2重の輪となって再構築された。蛍光色の淡い緑色を呈している完全なる円環。


 「……で? どうやって過去へと飛ぶ気だ」


 「魔力切れで頭が悪くなってる様だな……」


 彼女の手のひらから使徒が数十体生まれ出ると乾いた地面を転がり、みるみる内に逞しい肉体を得た。


 「チェックメイト。 モーガン、君の負けだ」


 使徒達の目は退化して、第3の目以外は機能を果たしていない。全ての個体巨大なが刈り取り鎌を携え、完全に砕けた光輪を頭の上に浮かべている。


 「……使徒……いいや。 少し違うか」


 「少し? 節穴かよ、君の目は。 〈喰っていいぞ〉」


 モーガンの肉体に数か所の穴が開いた。精巧な道具で時間と手間暇をかけてくり抜かれた木材の様に。


 空へと打ち上げられたモーガンの体が使徒によって啄まれていく。成人男性の一噛みなど可愛らしく思えるほどに肉が千切れ消える。


 即撃即死。相手の反応を許さぬ展開速度に常軌を逸した破壊力。


 「これが、使徒の完成形だ。 そしてこいつらを使って人類をアップグレードする。 いささか人間の神秘性では出力が足りなくてな。 元々このまま飛べる筈だったんだがねぇ……悪足掻きをする奴が3人も……はぁ〜。 厄介なものだな……狩人ってやつは……そんでもって君も」


 砂上に落とされると傷口から血液が溢れて地面へと吸われていく。脈打つ度に血が漏れ出て行くのを止める魔力は無い。


 傷を塞ぐ術式を使うくらいなら、相手と戦うための術式に割いた方が懸命であると考えているからだ。刺し違えてでも殺すと決めた者の覚悟とも言えよう。


 「……クソが……」


 まるで老人になった気分だ。思った様に体が動いてくれない。残った目玉で捉えたフェイスレスの姿も何重にもぼやけて見えている。


 「負けだ。 まぁ、案ずるな。 現存する全人類は全て、『元々存在しなかった』事になるんだ。 そこで眠っておけば、もう痛みを感じること無く緩やかに死ねる……だから――」


 フェイスレスの顔に心底うんざりした表情が浮かび上がる。潰したゴキブリが内臓を撒き散らしながらもヨタヨタと動き回るのを見るかのように。


 「もう立つな」


 槍を支えに体を地面から引き剥がし、片手で槍を構えてフェイスレスを正面に据える。倒れない様に力むだけで血が溢れ、表皮を伝って靴へと溜まっていく。


 「……やなこった……。 ここで倒れたら、誰が……」


 本当に嫌な目をしている。飢えた狼が、もう少しで獲物を食えると確信している目。不屈。反骨。頑固。それらを詰め込んだ目力。


 「見るに耐えないな……〈削ぎ落とせ〉」


 モーガンの脚が飛び、ほんの少し宙を舞う間に全てが裁断されて、液化した部位が地面へと染み込む。


 勢い任せで放ったせいだろう。傍にいた使徒の半数を細切れにして虚空へとばら撒いてしまう。


 「……斬撃じゃないな……この間……食らった術式だ……へへへ、次元断か」


 「ふふ。殺すのは惜しい。 お前も使徒になって私についてこい。 共に世界の本当の姿を見よう。 案ずるな、コイツらの様な無粋な器にはしない」


 「……ははは……! お前さ、矛盾してるよ……魔術の無い世界に魔術で移動して、魔術の塊である上位者が世界を見届けるだと……それが魔術の無い世界と言えるのかよ。 結局お前は、自分の好きな世界を創造して、悦に浸って広い世界に閉じこもりたいだけだろ……ウケるぜ。 馬鹿に力を持たせちゃ不味い。 ソレの典型じゃねぇか」


 「……負け惜しみか? 残った神秘性は3つ。 その3つで何を企んでる? 無駄な事だ、負けは決した。 終わりなんだよ。 英雄サン?」


 もう目も見えていないのだろう。瞳孔が開き、白飛びした世界を覗いている。先程まで宿っていた力も殆ど感じられない。


 「……くははは……英雄? 負けたらただの無能だろ。 世間様ってのは論理的に正しい、かつ勝利した者を英雄と呼ぶんだ。 お前が放ったこれまでの化け物とテロ屋に結構負けてるからなぁ……その肩書は貰えないさ」


 「……何を企んでいる?」


 「いいや、既に企み終えた。 もう手札はない……後は、彼らに……」


 モーガンが砂の上へと倒れるやいなや、使徒で囲むが何も起こらなかった。


 無駄な気苦労をかけさせられた事に舌打ちをすると、フェイスレスは全身の凝りをほぐす様に伸びをしだした。


 「……とりまこの街の人間全員……半上位者化させてから、吸収しますか〜……疲れた〜! マジでしつこ〜い。 飲み屋の客引きよりウザいわ〜……。 まぁ、いっかお前達……仕事の時間――」


 使徒の頭部から神秘性が漏れ出し、尻の穴までくり抜かれている。モーガンに食らわせた術式に似た何かの攻撃。


 水平方向ではなく、垂直からの攻撃。フェイスレスが空を見上げると、赤い光を点滅させる黒色の群衆が規則正しく空を泳いでいる。


 「……あれはっ」


 呟いた瞬間に円環の一部が削り取られ、術式を浴びた箇所は一切の存在を残さずに消えている。


 (……なんだ……これは使徒の術式だぞ。 いいや、モーガンの例がある。 人間でも似たものが行使出来る奴が居たか……)


 思考を巡らせる間に一撃。またもう一撃が体を削ってくる。


 「くははは。 そうか、魔術師協会か……へへへ、全員グルド人の魔術師……厄介な……くぅ!」


 (モーガンめ……! はじめからこれを狙っていやがったか……クソが、神秘性が足りねぇ……削り殺される……!)


 「お返しだ」


 同じ消滅術式が地面と空を削り合って行く。埋め尽くされた魔術師の群衆にボコボコと穴が空いて行き、血の雨とグルド人の死体が降ってくる。


 地面に飛び散る血に臓物。フェイスレスが攻撃を受ける度に向こう側では3倍の人数が死んで行く。


 (もう少しだ……押し切れる! 人間の神秘性でもなんだって良い! 補充して使徒を増やせば、勝てる!)


 「ははは……!」


 体が穴だらけになるとともに、空の群衆にも穴が目立ってくる。両膝を貫かれた瞬間、グルド女の頭が落ちてきた。


 周囲に乱雑に撒き散らされた大勢の遺体。


 (これじゃあモーガンと区別できねぇな……流石に死――) 


 「見失ってくれて助かったよ」


 妖しい光を放つ太陽が彼女の真後ろに出現する。抱きしめられるほどに近く、息遣いまでもが感じられる。


 血と臓物の降る中、一瞬時間が止まったかのようだった。


 「な……! いつの間に……」


 〈嘲笑う人差し指〉が腹を貫き、残りカス程度にしか残っていない神秘性を吸い取ると〈愚者の太陽〉の輝きが増していく。


 愚者の太陽を開いた口へと押し込む。歯に当たる度にカロカロと音を立てて、飴玉を転がしているかの様な音が鳴る。


 「何故、グルド人に滅ぼされた民族がいるのか。 冥土の土産に持ってくがいいよ。 力を求めて、御しきれない力を懐に入れようとした。 で、こう考えた。 全国民を使徒化すればより強い力を得られると。 だから滅ぼされた」


 「……その時から、グルド人はずっと準備してきたんだ……ソレにアンタが成ったのは不完全な上位者だ。 完成形になられたら流石に太刀打ち出来なかったよ……」


 「……歴史に学べ。 じゃあ。 一緒に死のうか。 フェイスレス」


 フェイスレスの喉奥に術式を押し込むと、その手を肩へと置いた。彼を振り解くと数歩くらいの距離を取る姿が見える。


〈タール・ボウイ〉で形成した粗雑な義足へと体重をのせて気だるげにフェイスレスの方を向いている。視点は定まっておらず、魔力の痕跡を頼りに近づいてきた事は想像に難くなかった。


 「……みんな……終わったよ」


 モーガンにそれらが見えていたか。それは定かではない。あのシケたエルフの村で利用した連中に子供達がモーガンの後に現れ、フェイスレスを見つめていた。


 「……やめ! 〈時間よ〉――」


 フェイスレスの頭部にひび割れが生じ、一瞬赤熱した後、大爆発へと飲み込まれる。時間の歩みが遅くなっていく。きっと走馬灯というやつだ。


 「……すみません。 アリスさん。 私はここまでみたいです……」


 嵐の中に放り込まれる様な轟音と炙られた様な痛みを最後に真っ暗な世界へと引きずり込まれていった。


 つづく

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