表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
42/193

いつまでも変わる事無く

 「……作戦司令部、聴こえますか?! フェイスレス捕縛に失敗……術式阻害部隊(チーム・ジャマー)……私以外には生存者は……」


 「阻害部隊。クラス6部隊はどうなった?」


 「……は?」


 「クラス6部隊に生存者は?」


 「…………居ませんよ……全員……クラス8以外は全員……そうだ……モーガン、クラス7の姿がありませんでしたが……」


 「何を言ってる? 彼も作戦に加わっている筈だが」


 ランディが電波を傍受しながらもフェイスレスを逃さない様に付かず離れずの距離を保っている。


 (……モーガンの封殺命令が出ていた筈だが……この声、マジで知らない声色だ)


 「よそ見する余裕あるのかしら……狩人サン♡」


 「……やっべ!」


 薄暗い結界の下、数十の光の孤がランディを追尾している。雷へと姿を変えて瞬時に移動したところで容易く回避させてくれるほどに生半可な術式ではない。


 軌道上にある全てを焼き切り迫る孤が行く先行く先で待ち受けている。狩人協会の基準で建てられた工場の鋼鉄製の壁を容易く焼き切る術式。


 魔力で相殺することも可能ではあるが、タイミングがずれれば肉体が蒸発する。避けられるのならそれに越した事はない。


 追尾の効かなくなった光の孤が地面へと落ちる。セメント製の床に同じ型、同じ大きさの焼け焦げが刻まれる。


 「……ふぅ……おっかねぇ……マジで危なかった」


 「逃げ足だけならクラス9くらいはあるんじゃない? でもさ、逃げ回って勝てる相手じゃないよ?」


 「何だよ。 あんだけバラ撒いて一発も当たってないぞ? あの女と戦わせる前にここで潰す。 〈ブルー・スカイ〉 我が身に宿れ」


 ランディの毛髪が白く染まり、雷雲が彼の周囲へと立ち込める。まばたきをする(たび)に細かな放電。


 「ふふ♡」


 炎熱の孤を放つとランディの上半身と下半身をぶった切った。血が溢れ、なんとも無い地味な音と共に倒れる体躯が2つ。


 そうなるはずだ。 だがしかし、彼の輪郭は崩れることもなくそこにあった。 アイスティーに落とした牛乳が沈むかの模様を呈する下腹部だけが違和感の拠り所であった。


 何度かの小落雷の後、再びランディの姿が元に復元された。何を多く語る必要はない。彼の術式特性を言うのならば、


 「雷雲の化身。 なるほど、通りで定期的に熱感知追尾が無効化されるわけだ。 人間の範疇を飛び出た術式……コレクションするにも良いか? 操作性に難アリだと、譲渡してもねぇ」


 「はて、これしか使える術式が無くってね。 使い勝手の良し悪しはさっぱりだ。 おや……麗しのレディ、脇腹から血が出ているぜ?」


 部屋に満ちた雷雲の中が小刻みに発光すると軽い衝撃音と超音波が耳元で過ぎ去った。


 「ふふ……♡ やるじゃない……。 淑女(レディ)? アタシって、じゃじゃ馬なの」


 彼女の背後の壁には血飛沫がべっとりと(まみ)れている。それに混じって溶け焦げた金属片、空気抵抗で燃え残った残りカスだ。


 「工場に散らばってたボルトだとかリベット、拾い集めてたのか。 手癖の悪い坊やだ。 流石に馴れない術式で遊んでる場合じゃ無いか」


 琥珀の剣を投げ捨てる姿にランディは恐怖した。仕草に怖れを抱いたのではない。馴れない術式、そう口走った事にである。


 「……ねぇ、この世の中に良い奴と悪い奴。 どっちが多いと思う?」


 「さぁね。 少なくとも、俺はいい奴で、アンタは悪い奴だ」


 「本当かな。 実は、私がいい奴で、君こそが悪い奴の可能性だってある。 例えば、神様が人間を100人殺したいと言った。 んで、実際にそうしました。 これは悪であるか、いいや良い事だ。 善行である」


 「……」


 「ある民族が平和に暮らしていました。 その人々は神によって壊滅させられるべきと判断されたが、図々しくも生きながらえています。 文明を創り、他者を慈しむことができる素晴らしい人間達です。 あなたは天使の身で、彼らが繁栄している事を神に伝える義務がある。 貴方なら伝えますか……?」


 「……どうでもいい」


 「それも悪だ。 正解は1つだけ。 その事を伝え、その民族が滅ぶ事。 義務は善で、それ以外は悪だ。 半端は許されない、絶対でなくてはならないのだ」


 「……そして、君には見せよう。 これが私に宿った単一の魔術。 名を〈調律の天使〉という。 さて、これから私が行うことは、全てが善行で、邪魔立てする存在は……目に入る塵ですら紛れのない絶対悪だ」


 頭上に破片混じりの光輪が浮かび上がる。圧倒的な魔力量、雨漏りで出来た床の水溜りが彼女の方から押し寄せてくる様に干上がっていく。


 「……さぁ。 天使の脇腹に風穴を開けたことに対する審判(ジャッジ)を始めよう。 しょうもない術式風情で一矢報いた事、評価に価するよ……手品ってあるだろ? 魔術師としての才能がない人間が、トランプの山札の中から指定した札を当てたり。 アレと同じレベルで下らない」


 「……へぇ。 天使のクセして、俗世間の娯楽に詳しいじゃねぇか……。 存外、天使様も娯楽に飢えてそうだな」


 「……とびきり飢えているよ。 そこら辺の事象に対しての刺激に関するのには貪欲でね。 食事、旅行、金稼ぎ、趣味、魔術。 大概の事には飽きが来ている。 何をやっても渇くのさ。 でもさ、大義ってやつを心に持てば渇きも和らぐ」


 「それで狩人協会を標的にしたテロ活に勤しむと。 随分と勤勉な天使様だ」


 「天使ってのは、神に雇用されたリーマンだ。 働き者である事は美徳で善行だろう? それに、狩人協会を叩くのは、仕方のないことだ。 アレは文明的、技術的特異点の集合体のようなものでな。 今の人類には似合わない。 アレは必ず人類を滅亡へと突き進ませる。 必ずな」


 「……はぁ……思想家の話はよくわからん。 魔力量の差を見るに、もう勝てね〜ってことはわかった。 早くやれよ。天使さん」


 「……そうだな。 少しは話の出来そうな奴だと思ったけど、あの世には先に行くが良い。 狩人協会と手を組んだこの街の全員も後を追わせてやる」


 つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ