表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
36/193

星空の下で

 頭に麻袋を被せられた男が馬車に乗せられ、左右の座席には荒事が得意そうな男達が座している。


 馬車から引きずり出されるようにして連行された人物が人気ひとけの無さそうな建屋へと運ばれる。


 よく掃除が行き届いた床材の匂いを感じたと共に視界が開けた。エルフに短髪の男、そしてたぬき顔の女が男を見下ろしている。


「……さて、モーガン。 手荒な招待申し訳なかったな」


 「……あぁ……いいえ。 全然気にしれません……してませんよ。 痛いな……」


 手足の拘束を自ら引きちぎると傍にあった椅子へと腰を下ろす。金の返済が滞った奴の扱いで運び込まれたが、今現在はちょっとした来客の様に扱う雰囲気が流れていた。


 たぬき顔の女。神経質そうなエルフ。軍人上がりっぽい短髪の男の顔を眺め、そこはかとなく理解が出来た。


 たぬき顔の女は狩人協会の人間だ。1番拒絶する雰囲気を持っていない。


 神経質なエルフ。 いかにもレイシスト野郎の雰囲気を持つのを見るに、エルフの都市国家の政府職員だろう。


 そして、短髪の軍人上がりっぽい男は、フェレスドレアの政府職員と見るべきが妥当な筋である。狩人協会の人員が居たとて、どこの都市国家も軍隊程度の持ち合わせがあるものだ。


 「……ところで、フェイスレス。 其奴の居場所が割れたというのは本当か? グルド人」


 「……名前も知らない相手に教えることなど無いね。 エルフのナントカさん?」


 睨み合うエルフとモーガン。それを見た短髪の男がため息を漏らすと、たぬき顔の女性がモーガンとの間に割り込んできた。


 「……あ〜……、じゃ! 私の方からご説明させていただきま〜す! こちらのエルフの方がジェレミーさん。 こちらの方が、マシューさんで……私はシェリーです」


 狩人協会が2国間の仲介を行っている理由。フェイスレスは複数の都市国家でテロ事件を起こしており、両国間での共通の敵であり捕縛対象だ。


 共通の敵を持つ間柄であるというのに、政府職員同士の仲は良くは無さそうだった。


 外交で舐められては国として情けない話ではあるが、排他的な人員を派遣されては、無駄な手間が現場に降りかかるので勘弁して欲しい限りである。


 「……要するに、国の威信を賭けてでもフェイスレスの捕縛権を取り合っていると……おたくら、この間仲良く祝賀パーティーしてたじゃないですか」


 「……そのパーティーでテロリストの手先が次期国王を手に掛けようとしたのだ……エルフの差し金かもしれん」


 「……なんだと?」


 国家間同士の関係がやや良好と言えど、民族間、国民間での対外感情というものは良好とは言えないものだ。


 緊急を要する話であるのに、大の大人がみっともなく感情で会話をしているのだ。情報を渡して作戦を組む。其の為に来たのだ、ガキの喧嘩の仲裁に来たわけではない。


 「……おいおいおい。 マジで面倒臭いって……。 シェリーさん……予めどうにかならなかったんですか?」


 「……あはは……すみません」


 「お二人共。 お互いに協力しましょう。 捕縛した手柄の話は、捕らえた後にして下さい。 捕まえなければ手柄どうこうではない」


 「……エルフの中でも強者を揃えている。 さっさと情報を渡せば良い。 あとは」


 あとはエルフの都市国家に任せれば良い。 とでも吐こうとする口ぶりである。自国の僻地が壊滅の危機にあったというのに危機感が感じられない。


 「狩人協会の威光の届く国であれば、お任せしたいのですが。 ……奴が潜伏しているのは狩人協会の非庇護下の国です。 腕っ節が強い奴をいくら集めようが、都市国家の内部での活動には承認を得る必要があります。 外交経験の少ない貴方の国に任せていては、いささか確実性に欠ける」


 「幸い、金を握らせれば活動に支障のない権利を与える都市国家ですし、狩人協会から金を渡せば大丈夫でしょう……捕縛権だとかを取ろうとするなら費用負担割合の6割を国庫から負担する必要があります。 共同作戦なら安くなりますよ。 狩人協会を介している場合は全て均等の負担、恨みっこなしです」 


 エルフの態度から判る事だが、クリスタルリバーサイドのエルフは純血ではない。遠い祖先の代に他種族と交わった者たちの子孫とされている。


 グルド人のモーガンからすれば顔付きの違いなど、さっぱり判らないが、アリスから訊いた話ではそうだった。


 そういう方向に歴史を改竄されただけで、権力抗争に敗れて隔離された純血種の末裔である可能性もある。よそ者のモーガンにはどっちでもいい話だ。


 「それに、純粋なエルフの集まりで無いクリスタルリバーサイドで大きな被害が出たとして、そちら様の富裕層、投資家層からの支持が集まるとは思えませんがね……混じり物が死んでも……ってやつでしょう。混血は穢らわしい、その様なステレオタイプが実際多いでしょう?」


 「ふん。 口の回る男だ、気に食わないな」


 ほんの少し静寂が流れた。話が脱線したなと前置きしたマシューがモーガンへと質問をする。


 「……して、居場所について教えて欲しい」


 「……〈ディープポケット〉」


 モーガンの指先に黒い球体が浮かび上がる。悪臭と共に吐き出された何かを受け取ると、それを優しく拭ってシェリーへと差し出す。


 「私のオートマタに作らせた資料です。 私より強い魔術師、数名で事に当たるようにして下さい。 相手は強力な術式を有しています。 一度に近づけるのは2名、少なくとも1名です。 魔力の感知に引っ掛かってしまえば二度と見つからないでしょう」


 「……でも何故、場所が? 逆探知式の術式ではないでしょう」


 夢の中で奴の術式に触れた話をした。そこで奴の魔力を感知する代わりに制約を自身へと課したのだと。


 何を馬鹿な事を と一蹴されると思ったが、そうはならなかった。


 「あらゆる制約を自身に課すことで、フェイスレスが術式を使った際に場所を割り出すように調整しています。 1つ、魔力保有上限の9割をカットする。 2つ目、概念術式の2種類を奴の存命中は使用不可にすること。 3つ、制約を結んだ後、フェイスレスに対して、私の術式による身体的、精神的な損失を一切与えられないこと」


 「……ということは……戦力にはならないと」


 「えぇ。 間違い無く。 そこまでやって、相手の位置が判る程度。 不向きな傾向に術式を拡張出来ますが……代償として役立たずになる。 あとは、貴方達に任せます」


 「……いいえ、モーガンさん。 貴方にも来てもらいます。 本人には術式を使えないかもしれませんが、敵はフェイスレスだけじゃない。 フェイスレスの化け物を退ける実績を持つ人間も参加して頂きたい」


 「駄目だ、奴には魔力を覚えられている。 きっと、同じ街に近づけば勘付かれて逃げられる」


 シェリーが腕輪の様な影を机へと置いた。シンプルで無骨。手錠の片割れである。錆びついた鉄のような赤色、凸凹に膨れた金属には魔力を消す力を感じる。


 「……そのへんも考えています。 エルヴニウム鋼材……別名魔術師の枷、魔力を封じる道具です。 モーガンさんは良く知ってるものだと思いますが……」


 しかし、封じられるのはある程度、そこそこの術者に限る。2つ着けようが、100個着けようが効果は1つと変わり無い。


 「私の魔力は枷で消せるほど弱くはありませんよ。 勘付かれるのが最も避けたい事態ですし、無理だと思いますが」


 エルフが嫌な顔をしながら手錠の片割れを睨んでいる。それもそうだろう、魔術に長けたエルフを奴隷へと落とす際に、グルド人が進んで使っていた負の遺産が目の前に置かれているのだから。


 そんな訝しげな顔をしたエルフが口を開く。


 「いいや。 自身で魔力の痕跡を消す技術と併せて使えば、術者として透明になれる。 そのギトついた汚らしい魔力を隠せるだろう」


 「……人間だけが脅威じゃない。 小型生物を使い魔としていれば、見抜かれる可能性だってあります」


 「魔力を隠す方法はいくつかある。 2ヶ月以上の魔術を行使しない方法と抑える訓練をする方法だ。 筋が良いなら、数日で会得出来る。 適任な講師だって居る。 それともなにか、仇も取らずにソファーに座って事が済むのを待つつもりか?」


 エルフが続けて言う。


 「まぁ、出来なくても問題無いだろう。 こちらもクラス8相当なら何名かアテがある。 駄目なら座って待てば良い」


 フェレスドレアのマシューが口を挟む、エルフというのは嫌味を挟んで会話しないと喋れないのかと呆れた表情混じりではあるが。


 「決定事項だよ。 フェレスドレアも、狩人協会も、君を参加させる事で一致している。 無論、魔力を隠せる技術の会得が条件だが。 幸い、次回のテロ予告はまだ出ていない。 作戦立案まで早くて数日、遅くて数週間。 根回しにも時間が必要だ。 それまでに出来る事をして欲しい」


 「良いでしょう。 相手に一泡吹かせるには良い機会ですし……。 但し、フェイスレスを捕らえるのが最優先事項。 私が無理だと判断したら従っていただきますが、よろしいですね?」


 「もちろん。 報酬については後で連絡するよ」


 そう言うとエルフとマシューの姿が消えた。像が輪郭を失うように。


 残ったのは、モーガンと狩人協会の女性だけだった。そして穏やかな雰囲気の部屋に変化が訪れる。屋根には穴が空き、壁が崩れている。見るからに廃墟といった姿だ。


 「いやぁ〜。 緊張しましたね〜……」


 結界でボロ家を補修していたらしい。外気が入り込んで来る。今の今まで術式の中に居たと気が付かなかった。相当手練れの術者、素晴らしい結界術を見れてモーガンは満足そうだ。


 「いやぁ〜……凄いですね。 術式だと気が」


 頭に袋を被せられ、首筋にチクっとした感覚が走ると世界が暗転し、意識が途切れた。


 しばらく後。家の前に吊るしているベンチに横たわったモーガンをヘルメースが見つけた。何故か麻袋を被ったままで異質な雰囲気を放っている。


 「……大将、風邪引くぜ? てかよ〜、昨日どこ行ってたんだよ。 折角姉御が泊まりに来たのに……。 なんで麻袋被ってんの」


 「こうすればな、寝起きに鼻の奥が痛くなくなるんだ。 凄いだろ」


 「愚かしく、底無しの馬鹿だってことは凄く解った。 ヤダな〜、彼氏がこんな変人だと冷めるわぁ〜。 てかよ〜帰ってたんなら、家で寝ろよ。 なんでこんな雪が降る日にベンチで寝てんだよ。 死にたいのか?」


 「……ヘルメース。 お茶淹れてくんない……凍えて死にそうです」


 「……何か隠してない?」


 「……聴かないで……」


 「……おぉ、わかったよ。 早う入れ」


 つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ