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狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
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前歯で咥えた毒物

 ヘルメースは買い物え随分と楽しんでいる。モーガンの監視を行っている奴とは思えない表情だ。


 何かと助かっているし、しばらくは狩猟団に在籍して欲しいとは思っているが、監視の任期が終わればそれまでだろう。


 少し。いいや、大分寂しくなるな そんな顔に似合わない事が頭の中に浮かんでくる。 そうすればセシリーの保護監督権利を維持できるかは怪しくなって来る。


 極力早い段階である程度は制御出来るまで持って行きたいが、頼めば出せる様なものでは無いため、気長に待つしか出来ない。


 「大将〜……ひと通り買い終わったぞ! さぁ〜メシ食いに行こうぜ!」


 衣服に、筆記用具。防寒具。入り用の物を揃えたヘルメースが店から出てくる。新たな衣服に身を包んだセシリーを伴って。


 「ご馳走になります。 モーガンさん……」


 「おっけ〜。 ヘルメースの事だから、店とか見繕ってんだろ?」


 荷物を全てモーガンへと渡す。セシリーをおんぶしながらこの荷物は少し堪えるが、ヘルメースは気にしてすらいない。


 「フッフッフ……ようわかってるじゃん……私の舌に会うお店をな……あぁでもない、こうでもないと」


 「……はよ言え」


 「……ふっ。 ついてきな……前から行たかった店に連れて行ってやる……」


 「舌に会うかって。 行ったこと無いのに?」


 「ええい。 やかましい。 つべこべ言わずについて来い」


 十数分後。灯りの消えた店の前でヘルメースが気まずい表情を浮かべている。


 「……あはは……今日定休日だった〜♡」


 「ん。 見れば判る」


 「フォローしろよ! 全然気にしてないとかさ〜」


 「は〜……開き直る前に普通は一言あるでしょ? 嫌われるよ?」


 「すんませんでした……リサーチ不足でございました」


 「ん。 よろしい。 鶏肉食べに行くか。 この近くにあるから、そこ行こうか」


 そう呟いたモーガンを見ながら、ヘルメースは驚いた表情を浮べている、いいや、驚愕していと言ったほうが良い。


 「大将……外食とかしてるの……? 嘘だろ……いつも寂しく自炊、自炊。 外食するのは金の無駄とか言ってそうなのに」


 「貧乏臭いってか……? ああ言えばこう侮辱するなぁ。 私の様なやつでも稀に外食くらいしますよ。 失礼な」


 普段利用しているのは狩人協会の建屋に入った飲食店が主だ。商業地区を利用するのは以前からしていた事であるが、グルド人にのみ適応される割増価格のため、入れない店も多かった。


 串に刺された鶏肉の油が木炭に落ちる匂い。家族連れでも利用しやすい店なのだとか。 何よりも、煙草ヤニ臭くないのが良いとモーガンは声をもらした。


 「嫌煙家か〜?」


 「吸う吸わないはどうでも良いけど、冗談抜きで飯が不味くなるから勘弁なだけさ……16と12歳連れてれば気にするだろ」


 「術式が、タール・ボウイ なんて名前の奴にしては意外な事を言うと思っただけさ」


 「……かもな。 んで、何頼む?」


 「……グリフィンの肉が安いな〜」


 「金はあるから遠慮するな」


 「いやいや、グリフィンの肉とか滅多に食えないぞ……大将これ頼んで良い?」


 「イイヨ〜。 まぁ、適当に色々頼むか。 セシリーさんは?」


 「……えっと……ごめんなさい……文字読めないです……鶏は食べた事……無いんです。 売り物だったので……」


 ヘルメースとモーガンが同じ表情を浮べている。似た表情で今にも涙を流しそうな顔。ヘルメースはセシリーを優しく抱きしめ、モーガンは頭を撫でている。


 「これから読めるようになれば良いさ。 時間は沢山ある」


 「……ふ〜……。 とりあえず、ねぎ塩は外せないね。 色んな種類頼もうぜ、大将。 持ち合わせ足りる? 足りないなら出すけど」


 「心配すんな。 好きなだけ頼めば良い。 今日は君らが主役なんだから」


 「いようし……それじゃあ、遠慮なく……!」


 テーブルに肘を置くことも難しいくらいに皿が並ぶ。


 「マジで遠慮がないな……これ食べられるのか?」


 「……ふっふっふ。 でぇじょうぶだ……。 助っ人を呼んでいるからな……」


 「助っ人……? 待ったほうが良いか? アリスさんだろ?」


 「……何故判る……!」


 「だって他に知り合い居ないしさ。 ……セシリーさん。 遠慮せずに頂いちゃってください」


 「そうそう。 金持ってる男に遠慮する必要なし。 これ美味しいよ。 食べな〜」


 「……いただきます」


 お気に召した様で、食事の手が進んでいる。ヘルメースとモーガンが和んだ表情を浮かべたままセシリーをしばらく見つめる。


 「半年かそこらで抜けるみたいな事言ってたけど、いつまで居る?」


 「ん〜……。 居心地が良いからもうちょい続けるよ。 ここまで福利厚生が良い狩猟団も中々無いしな〜」


 「へぇ。 ……まぁ、辞めるなら3週間前には告知してくれ。 手続きとか色々やんね〜と駄目だからね」


 「……ヘルメースさん。 居なくなるの?」


 「わかんないけど、数年は居るんじゃないかな……! おい大将……飯が不味くなるだろうが」


 「普段はこういう話し出来てないから仕方ないだろ?」


 「今じゃないでしょうが……!」


 「……君の目から見て、私はどういう奴に見える? 狩人協会からは危険因子の可能性が大きいと踏まれているみたいだが……」


 そう言うと、何かを察したかのような表情になり、彼女は背筋を伸ばしてモーガンを睨むように見つめた。


 (……勘付いてたか)


 「……いいや? 危険因子では無いだろう? ただ、運のない奴だとしか思わないけどね」


 「ふ〜ん。 まぁ、君がどうして狩猟団に入った理由はなんとなく……。 大体、初対面で術式を知っていた上、求人非公開の狩猟団の事まで知ってる時点でなんとなく察しがつく」


 「……で、どうすんの? アタシを追い出す?」


 「いいや。 寧ろ逆でね、提案がある。 監視業務が終わっても、この寂れた場末の狩猟団に所属してもらいたい」


 「……考えておくよ。 まぁ、辞めたくなったら、スッと 居なくなるケド、許せよ?」


 「あぁ。 それで良い。 私の狩猟団は、去る者追わずの精神でやってるからな……」


 「……来る者は拒むのか?」


 「……無条件にホイホイ受け入れてたら、組織として破綻するでしょうが……お。 これ美味うまい」


 「おまたせ〜! 先始まってた?」


 「姉御〜! お疲れ〜!」


 「今始まったところですよ。 セシリーさん、こちらはアリスさんです。 狩人協会の偉い人です」


 「……はじめまして」


 「はじめまして〜。 いようし、すみませ〜ん!」


 仕事の後の酒は格別だと話しているうちにアリスの前に数種類の酒が運ばれてくる。


 滞り無く食事が終わり満腹の余韻でモーガン以外は動けずに居る。


 育ち盛り2人に、アルコールで食欲を刺激された大人1人。彼としては余り物でも食べようかと考えていたが、アテが外れたらしい。


 肉のキチン質が無くなるまで咀嚼を繰り返し、少量の水で流し込む。


 「……ふ〜……もう食えない……」


 「追加無しなら払って来るよ」


 モーガンが会計を済ませている間に話題がとある事へと移っていた。平たく言えば恋愛話。モーガンとアリスの関係に関して。


 「茶化さないでよ……」


 「ごめん……ちょっと調子のってた。 最近どうなのさ。 あんまし上手く行ってない感じ? セシリー、この人モーガンの恋人なんだよね」


 「ちょっ。 12歳に言うこと?!」


 「12歳でも同じ女。 あと4年もすれば大人の仲間入りなんだから、いいじゃん別に」


 「……あ〜。 まぁ、どうしても仕事が有って時間が合わなくてな……特に近頃は……」


 モーガンは遠くで復興作業。時間が合うわけがない。そう言おうとしたが、目の前に被害者が座っているのだ。あえて触れるべきでない単語を飲み、別の言葉に言い直した。


 「管理する狩人の数が増えてしまってな……壁内の治安維持だとかな。 シーズンオフではあるが、別の意味で忙しい。 未だにハグの1つもしてないんだ……放っておくと別の女に目移りするかも……」


 「あ〜……。 まぁ、大将って強面塩顔のタイプで、需要はあるよね。 目移りする可能性もあるか。 ……待って……。 ハグすらしてないの?」

 

 「……まぁ。 ははは……はぁ〜」


 ヘルメースが心配そうな表情と、これは面白いモノが見れるといった下衆じみた笑みを浮べている。


 「……よし。 明日は仕事を休みましょう。 んで、大将の家に泊まるついでにハグとキスでもすれば良いじゃん」


 「……えぇ……う〜ん。 でもなぁ〜」


 「仕事は金を稼ぐ手段であり目的ではない。 仕事の為に人生の若い時間を使い潰すには勿体ないでしょ。 さっさと結婚して子供作って仕事に復帰すりゃあ良いだけでしょうが」


 「……お。おぉ? ヘルメース……何か今日は雰囲気違くないか……?」


 「いやぁ……目の前で贅沢な悩みを聞かされてて。 ちょいと荒んでるだけですよ〜。 産める年齢も……エルフって何歳くらいまで生きるんだっけ? 200?」


 「大体80で寿命だよ。 数百年も生きるだなんて、御伽話だよ。 ……なんなら他の人種と大差無いし」


 「……へ〜。 まぁ。普通はそうだよね〜。 数百年若いままなら、人口的に世界の覇権取ってるのはエルフだよね〜……。 まぁ、それはそれで良いや。 とにかく、明日は有給でも何でも使う。 大将の家にお泊りして、ハグでも何でもして憂いを断つ!」


 「……着替えが……」


 「今なら店開いてる……早く決断するべきかと」


 「……ううむ……さて、どうするべきか」


 支払いを終えたモーガンが傍に立ち寄ると、少し苦しそうな表情を浮かべている。


 「……大将、どした?」


 「少しトイレに。 寛いでいてください」


 トイレに入ると灯りのついた鏡の前へと寄る。上着を脱いで傍に掛けると、右腕を照明の下にかざして何かを睨んでいた。


 彼の腕には気泡混じりの液体が踊っている。正確に言うと彼の術式の油が滲み出ているのだ。揚げ物油の中に肉を落としたかの如く、細かくて数の多い気泡を抱える油が彼の皮膚を這っている。


 油が這った部分が爛れて赤くなる。赤くなった部分には数字が浮かび上がり、ホラー映画の演出かと思えるような光景だった。


 「……そうか。 ご苦労だった」


 そう言うと、その火傷は跡形もなく消え去り、痛みも残らなかった。


 継ぎ接ぎした上着を羽織り、3人が座る席を素通りするように歩く。


 「少し急用が出来た。 帰りは遅くなる」


 「……おう……いってら〜」


 モーガンが店を後にする。あいつも忙しいんだなと鼻を鳴らしたヘルメースが視線を前に向けると、アリスが落胆した表情を浮かべて固まっていた。


 「……ヘルメース……。 もしかしてなんだが、私嫌われてるのか?」


 「大丈夫でしょう。 ありゃ、急用が出来たってツラでしょうよ」


 狩人協会の建屋にモーガンの姿があった。長距離の電話をかけるために受話器を取って狩人証をかざす。


 「……クラス7。 モーガン様。 掛かった通信費は所定の口座から引き落とされます」


 自動音声の案内を待たずに、慣れた手つきで番号を押す。頭の中に番号を記憶しているのは、相手に何度も掛けた経験があるか、よっぽど印象に残っている相手であるかのどちらかだ。


 「……フェイスレスの居場所。 判りました……。 座標の受け渡しを行いたいので、追って連絡下さい」

 

 つづく

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