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狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
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最悪で最高の数日間 3

 「術式使えれば容易いな……」


 近場の農場で牛が居なくなるってことが起きていた。人間が口にするものは美味い。拘った飼料を与えられた肉の味を覚えると定期的に食いたくなるのは人獣共通のことだ。


 「その結果がこれか……。 慎ましく生きられない奴は人間でもこうなるもんだ。 ざっとこれで80……連続討伐補正で100行くかどうか……」


 足元に転がった野生グリフィンの4頭。雄が1頭、雌が3頭。全て首を刎ねられて、傷口にはタールが付着している。


 「……こちらモーガンです。 オペレーター聴こえますか」


 拒絶する中指を握り、刃の背で肩を叩く。無線機の返事を見つめながら、近場の切り株へと座り込んだ。


 勢い余ってぶった切ってしまった切り株。尻に敷いた断面からは新築の木造家屋の匂いと、湿り気が伝わって来る。


 「……こちらオペレーター。 良く聞こえます。 もう終わったんですか?」


 「えぇ。 回収をお願いしたいので、回収班を回して下さい。4頭分」


 そう言うと、普段からよく話すオペレーターが感嘆混じりの笑い声をもらした。感嘆が2。畏怖が6。興味深さが2割といった具合だ。


 事実、クラス7の狩人はお目にかかれない。 毎度大災害クラスの怪物に遭遇する悪運の寵愛を受けし者、狩人協会に属する職員以外は例外だが。


 毎年、狩人協会に参加する人間が増えている。ほぼ全ての人員が5に届かず死んで行く。毎年希少価値が上がっていく、人の親しみやすい形をした化物とも揶揄されて然るべき存在。


 「ははは。 しばらくの間、一般家庭の夕食にはグリフィンの肉が並ぶでしょうな……了解モーガン、こちらから回収班を手配する。 それと、珍しい来客が来てたよ」


 こいつはそれを知ってでも結構フランクな通話をしてくれる。存外気に入っている相手でもある。顔は知らないのだが。


 (……絶対友達多いな……)


 声で性格を推定するだとかいうキモい事をしながら、トリガーを引き込む。


 「え。 来客?」


 「そ。 なんか、モーガンの友達って言ってましたよ?」


 血と脂。そして石油アブラで汚れたつま先を見つめる。視界の左から血液が迫り、血の鏡に自身の顔が写り込む。赤い色の中に汚れ1つ無い青空が見える。


 「はえ〜。 友達……友達ねぇ……」


 それに気がついて小汚い大地から美しい青空へと視線を移す。 いくら考えても友人とやら。 彼にとって、ソイツのツラに思い当たる節がある一切無いのだから。


 「あっべ……ボスが来た……。 それではモーガン、しばらくの間待機を」


 「ん〜。 おっけ。 そっちも、無理すんなよ……友人か」


 普段であれば馴染みのある魔力の持ち主の気配がするのだが、今日に限って違うのはその友人とやらが近くに控えていると考えれば合点が行く。


 「コソコソ見おってからに……。 誰だ?」


 切り倒した切り株から気配のする方向へと目を向ける。姿が見えないとその辺を凝視したが誰も居ない。


 「おぉ……バレてたか。 や、やぁ……モーガン覚えてるかな」


 針葉樹の枝木に掴まっているのを見つけた。随分と高い位置に居ると知ったと共に、危うくコイツの佇む木を倒していたかもしれないと考えると……少し惜しかったな等と考えている。


 「ナントカと煙は高い所が好きだと言うがね……。 んな場所から挨拶する無礼な知り合いはらんな」


 「っと。 こいつは失礼……」


 「(覗きに関しては何も言わんのな……まぁ、クラス7まで行った奴等に礼儀を求めても無駄か……)」


 「や。 元気してたか?」 


 「ぼちぼちね……。 もう1つ気配があるけど、そっちは紹介してくれないのか? フレッドさん?」


 あの壊滅した集落。 あの時に出会った狩人。元はグール騒動でチョロっと絡みがあったそうだが、グール騒動の時に話を交えた相手である確証はない。


 「え〜。 わかんの〜? 凄いねぇ〜……まぁ、隠してもしゃーないか。 移動用にかこってる術者。 非ワームホール系の転移術者だ。 気にすんなって」


 声が似ただけの他人。そういう可能性だってある。 狩人協会の中堅そこそこなら、通話記録でも何でも調べられる。


 「他人の術式について不用意に触れ回るのは如何いかがなものかと……」


 「ヘーキヘーキ。 クラス7の連れに喧嘩売る馬鹿は居ないだろうし。 夢の怪物をぶちのめした実力者がビクビクし過ぎだっての……タールなんちゃらの術者サン?」


 「実力者ね……。 結局は術式が強いか弱いかの違いだろう? 本人の実力でも何でも無い」


 「っは。 それにしちゃ、あん時……随分と楽しそうだったな……」


 「論点をズラすなよ。 口の軽い奴は嫌いだと言ってんのさ。 珍しく術式なら見せてくれよ……それとも、見せざるを得なくしてやろうか?」


 「へぇ〜。 俺って嫌われてる?」


 互いの魔力の揺らぎが大きくなる。先手は譲ってやるよ。撃ち込んで来な。 互いに出るとこ出てやろうと殺気立っている。


 「それ聴くか? 自覚あんだろ」


 「……グルド人に言われたかねぇよ。 蛮族が」


 「良いねぇ……泣かしてやるよ。 安心しなよ、ポケットティッシュなら持ってる。 鼻かむなら言ってくれや……」


 大きな砂埃が舞う。モーガンやフレッドの仕業ではない。間に立つ女の仕業だ。非ワームホールの転移術式。これが発現すれば、幼児であれどクラス6に分類される。


 当たり中の大当たり。 一生食いっぱぐれないし、有名所の専属契約も取れる。消滅の概念に近い攻撃も出来る。 


 「おーい! フレッド! 喧嘩しに来たんじゃ無いだろがぁあああ!」


 胸ぐらを掴みフレッドを持ち上げる。こんな状況にも関わらず、持ち上げられた男の方は心底嫌そうな表情を浮かべ、ため息をついている。


 「わぁった。 わぁった。 ただの挨拶だ。 悪かったよ、飯。 ご馳走させてくれ」


 白いパンの山に濃い味付けの肉。クリームシチューに魚の塩焼き。カリッカリに焼いたソーセージ。 


 「……モーガン、結構大食いなんだな……」


 「飯食うと魔力が増えるからな……体感だがね。 まぁ、高いとこから見下ろしてきた分は、これでチャラだな。 ……で、まだ居るの? 何か用?」


 「……自分と組まないか? 実は、団員を募集しててだな」


 「……一体どういう魂胆なんだ? さっき喧嘩売ってきた相手とは思えんな。 記憶消えた? 多重人格か?」


 「魔力量を推し量るには、キレさせるに限る」


 「……若いなぁ……。 で、何で私なんだ?」


 う~ん。 と鼻を鳴らしながら背もたれへと寄り掛かる。瞼を下ろして考え込んで居るのを見るに、深い理由は無さそうだった。


 「召し抱えるなら有能な奴が良い」


 それらしく聞こえるが、別の思惑が透けて見える。召し抱えるなら有能が良い。たしかにそうだが、これが本当にしたい話では無いのだろうとモーガンは気がついていた。


 「……私にメリットがあると?」


 「……まぁ、今までのコネを使ってより良い報酬を。 そして、より良い生活を。 まぁ、気が変わったら連絡してくれ。 名刺渡しとくよ。 見た感じ、乗り気じゃ無いそうだし」


 「……それで、何を狙ってる? もう1つくらい頼み事があるんだろう?」


 「……へへ。 お見通しか……やだね〜、長い事狩人やってる奴相手じゃ、隠すほうが難しいか……担当直入に言おう。 あの娘の監督権利を俺の団に譲って欲しい」


 特段、子供の世話が好きそうな相手には見えない。とすれば、考えられることの中でもっともらしいのは、狩人協会の目の届きやすい場所であの子を管理したいというものだろう。


 この男は外注の交渉人のようなものだろう。あくまでも仕事の範疇で動いているに過ぎない。


 「……ただの子供だ。 おたくらが世話する必要は無いだろう」


 「……ただの子供? 術者としての素養を気が付かないで言ってるのか……それとも、しらばっくれってんのか……多分後者だな。 あの子を若いうちから育成すれば、将来有望な術者になる」


 「断る」


 「……1人の努力で、数千、数万人の命が救えるなら……あの子はクラス7になりうる魔力量を持てる逸材だ」


 「聞こえなかったか? 断るって言ってんだ。 子供を死地に送るように躾ける趣味は無い。 自ら道を選ばせるべきだ」


 それを聴いて何故か微笑んだフレッドが名刺を置く。安心した様な表情を浮かべているのを見るに、どうやら試されていたのだと気がついた。


 「そっか。……狩人協会の動きにも詳しいんだ。 良いビジネスパートナーになれると思うぜ? 団員の件、考えてくれよな。 席はいつでも開けておく。 ……お偉方には適当に説明しとくよ」


 「元気でな。 アンタなら安心して預けられそうだ」


 独身男が12歳を引き取る。単純に犯罪の可能性がないかを調べに来た。団員募集の件は、ついでに訊きに来たってだけの事だろう。


 転移術式の女が彼の手を握った途端に姿が消えた。わざわざ回りくどい門の設置から起動までをしなくても良いのは快適だろうと思いつつ、顎を撫でる。


 「……気が立ってるな。 ふぅ〜……」


 名刺の裏に達筆な文字で、獣人には気をつけな。 アンタが思ってる様な相手じゃない。 そう記されていた。


 「……わざわざ親切にどうも……知ってるよ」


 飯を平らげた後の余韻を楽しむ。余韻ってのはすぐに、無くなるものだ。



 考えたくもない現実の悩みが余韻を食いつぶしてしまう。眠っている間と寝起きが最も幸せであるのはその為だろう。


 (……フェイスレスの術式。 恐らく、人から術式を奪い、移植する。 私の術式と同じ様に複数概念付与が可能な術式だと見るのが妥当か……奪って自身で使用ができるとすれば合点が行く)


 (無条件で抜き取る事ができるわけではないだろう……そうであるなら、私の術式も引っ張られる感覚がするはず……今まで戦ってそれはない)


 「となれば、瀕死にさせる。 死亡後の数分間に術式を抜き取るだとか……」


 (古びた偶像、爆破、消滅、血液操作、言霊。グール病に、操虫。 今までぶちのめしてきた奴の手札だ。 なぜそれを供与したのか……自身で使えない……いいや、使えば自身の術式と干渉して機能不全を起すのか……)


 (……拒絶する中指、制約の小指。 嘲笑う人差し指、肯定する親指。 私の術式の概念付与された部分だが……5指それぞれに術式特性を……)


 (……薬指のは? ……確かに5指全てに概念付与している筈だが……薬指……薬指……はて、何だったか。 忘れてしまっ――)


 その瞬間だった。あの夢の中での欠落した記憶が戻ってくる。あの場で殺せないと踏んで小指と薬指を使って奴に制約を。自身に代償を支払わせたのだ。


 記憶を消す概念術式。忘却の薬指。本来であれば相手の記憶を13秒程度消すだけのものだが、自身に制約を科すことであの人数全員に伝播させた。


 術式の方法を1時的に忘れる事。そしてタール・ボウイで負わせた傷を無かった事にする事。残存魔力の7割を捨てる事。 この3つだ


 13秒といえど、勝手が利く。触れてから13秒間の記憶が残らない様にするでも良し、触れた瞬間から遡って7秒、触れてから6秒の記憶を消し去る。


 再生させた腕攻撃を避け、セシリーの隣まで跳躍するには十分な時間だった。構え直した頃には、既に記憶が消え、振り出しに戻ったかのように見えたのだ。


 「使ったのか……忘却の薬指を。 なるほど……そうか。 ふふふ……まったく、私というやつは……博打が好きなんだな」


 モーガンは安心した様に息を漏らしてから、深く腰かけた。


 「……しばらく何もすることが無いな」


 つづく


 

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