愛しの我が家
瞼の下に黒ずみを浮かべたモーガンが手慣れた様に料理をしている。側には複数の容器が並んでおり、弁当を準備している。
「……トランク。 ヘルメース起こして来て」
トランクの作業開始時間よりも早い時間に起き、元来オートマタに任せる家事をやっている。
その分、トランクを他の事に回せるメリットがあるが、他のオートマタの保有者からすれば笑われるだろう。楽をするための装置に楽をさせていると。何もしなければ、弁当も家事全般をオートマタがこなしてくれるのだから。
「お早いお目覚めで……他に手伝う事は」
「……無いね。 次に採る従業員は18以上にするべきだな……学校に通わせる。 自分の決断には間違いは無いと思っているが、思ったより大変だわ……こりゃ」
「……でしたら、私がやりますけど」
「いいや。 暇だからさ……。 手を動かすほうが落ち着くのさ」
「……おはよ……うぅ……寒い……。 おぉ大将。 どした寝不足か? ははぁん。 さては、姉御に告って派手に振られる悪夢でも見たのかよ?」
その逆だ。 その姉御から好意を告白され、地味に了承の返事をしてしまったのだ。
「ふ〜。 あれは夢だ。 そうに違いない。 ……ほれ、弁当。 昨日の余り物でスマンな」
「……大将、どしたん? ホントに悪夢見たの?」
「……悪夢ではない。 むしろいい夢だ。 夢だと信じたい」
「ふぅん。 良く知ら無いけど、どんまい」
弁当におかずを素早く盛り付けていく。カメラの駆動音を聞いた感じだが、自分の目を疑っているといった状況だろう。
「……モーガン。 茶色が多すぎです……もっと野菜を」
カウンター席からキッチンを覗き込むヘルメースが満面の笑みを浮かべている。
「おっほ〜。 肉! やっぱりこうでねぇと!」
それとは対照的にトランクの周辺には落ち込んでいる様な雰囲気が感じ取れる。チラッとモーガンの方を覗いて首を左右に振っている。
「……」
「……育ち盛りには肉と炭水化物食わせときゃ良いんだよ」
寝不足気味の枯れた声で吐き捨てる様に言うと、トランクが顎を引いて距離を詰めてくる。
「……何です? 勝ったつもりですか? 私だって毎日作って……」
「……人間ってのは、定期的に栄養バランス破綻飯を食いたくなるんです」
多少なりとも険悪な雰囲気を他所に、ヘルメースがラジオに電源を入れた。除雪状況がどうだとか、昼過ぎには晴れるだとか。
トランクにも情報を受け取って要約する機能が備わっているけど、ちょっとした言い合いに夢中でそれどころではない。
(……犬も食わねぇ痴話喧嘩だな……)
「ふぁ〜……あ〜……。 ううん……眠い」
機能が限定的である装置のほうが融通が利く。マルチタスクが可能なオートマタの弊害が垣間見えた光景を尻目に見ながら食事を済ませる。
「てか、めっちゃ降ってんじゃん! 転移門使うね〜! トランク、着替えよろしく! ひとっ風呂浴びてくるわ!」
「……子供は元気で良いですね」
「……そだね」
モーガンがヘルメースを背中を眺めているが、その表情は少し曇った表情であった。何かを疑っているかのようで、憂いているかのような。
「……なぁ、ヘルメースの事だが……いいや。 忘れてくれ」
転移門でヘルメースを送り出すと賑やかだった部屋に静寂が訪れた。
入院中の帳簿の説明をトランクから受け、狩人協会に受注可能の仕事を確認。ヘルメースの活動実績を纏めて支部へと郵送。
この雪で仕事が無いとの事だ。休みを自分で決められるのが個人で活動するメリットの最たるものだろう。
「……休みか。 ふ〜ん」
火掻き棒で暖炉をイジリながら物思いに耽っている。無い事のほうが少ないのだが、他の狩人が増えたお陰で楽が出来るのだと いい方向へと考える事にした。
「とはいえ、通信設備のメンテナンスだとか。 普通はあるもんだけど……なんか普段より担当の人が、よそよそしい感じだったけど。 なんでだろ?」
この家の二階で眠っている、誰かさんの指示であるとは、考えつきもしないままに時間が過ぎていく。
「……まさか、クラス7だから渡す仕事が無くなってしまったとか……」
「……いやいや。 クラス4の1,5倍の値段で仕事を受けると申し出ているんです。 需要が無いわけがありません。 だって、2〜3人分の人手がかかる狩猟対象でしたら、払う報酬も安くなるでしょう?」
何か仕事で不味い事でも起こした可能性に考えを巡らせる。
ヘルメースの仕事ぶりは支部長からもお墨付きを頂いているのを鑑みるに、遺体回収以外の仕事でヘマしたのではないかと不安になった。
「……設備メンテナンスは?」
「そちらに関してはクラス区分等は関係無い固定報酬ですし……モーガンに頼む事でも無いでしょう……オフシーズンなので……仕事の取り合いでも起こってるのでは?」
仲良くソファーへと腰掛け、暖炉の火を眺めている。
「嫌われたのかねぇ……。 干されてるとか」
「以前と変わらないでしょう。 その2点においては」
「……だよね。 暇だなぁ……」
薪が爆ぜる音と揺れる炎が心地の良い雰囲気を作り出している。オートマタであるトランクも暖炉の火に見入っていたらしく、しばらくの間 返事が無かった。
「……良いじゃないですか。 たまにはのんびり、傷を癒やすのも。 フードの女。 その案件は私に直接連絡が来るようになってますから、安心して休養すれば良いでしょう」
モーガンは眉間に皺を寄せたまま、トランクの顔を覗き込んだ。知らない間に妙な機能がインストールされていたのだ。説明を求める表情になるのは当然である。
「……知らないんだけど。 入院中に誰かに設定された?」
「えぇ。 支部長の方から特例措置として。 この辺ですと、オートマタは珍しいですから……便利なモノを何故導入しないのでしょう?」
彼の中ではどういう判断が下されているのだろうか。
モーガンが頭を掻きながら、まぁ良いかと言い放ち、思考を放棄している。
「技師がほっとんど居ない。 維持費が高い。 まあ、理由なんて幾つかあるだろう。 そこまで必要性が無いとの判断じゃないか?」
「……ふぅん。 人間とは良く判らないですねぇ……。 それも人類の面白い所ですがね……警備員だとかをオートマタに変えるだけで労力も資金も低減されるのに」
「非合理的にしたほうが、儲けられる場所があるのさ。 利権ってやつかな。 オートマタだと人材紹介業者が儲けられない。 それに、世話になった相手を切るのは難しいのさ」
「モーガンには無いのですか? リケンとやらは」
「無いよ。 狩猟団をデカくすれば、従業員の働きで贅沢出来るだろうが……あんまし好きじゃ無いからな。 中抜きして自分の懐が潤うよりか、全体に利益が出た方が総合的にはプラスになる」
「……そうなのですか?」
「そ。 全体が豊かになれば経済が潤うのさ。 特に自分みたいな、趣味もなく消費もしないやつに金を渡すと金を溜め込んでしまう。 消費しないのは経済的に言えばマイナスなんだ」
「……あぁ。 なるほど。 ヘルメースの報酬金の8%を別の口座に移してますけど……あれは?」
「積立金だよ。 あの性格だ、有ればあるほど使い込んでる。 辞める時にでも口座ごと譲渡する予定だよ……」
「溜め込むのは、経済にとってマイナスなのでは?」
「個人にはプラスだよ。 私がこんな涼しい顔してソファーに座ってられるのも、貯蓄があるからだ。 生活を守る金も要るのさ」
「……というか、その口座ごと渡すって事は……」
「……代わりに、私の貯金を溶かしてるよ。 飯代、燃料、学費……」
「……大赤字ではないですか」
「別に赤字でも問題無い。 若手が育てば数字化出来ないプラスが見込めるだろうさ。 駄目なら人選ミスって事だ」
「……う〜ん」
「私も非合理的な事が好きだったりするのさ。 人間の面白い所だと君も言ってただろ。 まさしく、ソレだな」
「……解らないですが……う〜ん」
「……理解出来ない方が良いさ。 本人ですら馬鹿だと思ってる。 こんなモノが理解出来た日には、おそらくトランクは人間となんら変わらない存在になるだろうさ。 ……さてと、今日は何をしようかね」
モーガンがソファーにもたれ掛かる。
「……そう言えば、武器ですよ。 武器。 結局フェレスドレアでは買えなかったんでしょう?」
「……まぁ、良い物が無かったね。 前のはぶっ壊れちゃったし、ここの鍛冶師は鍛造してくれないからな……金物は高いし、新規の鍛造依頼も受けてくれ無いと来た……参ったね」
そうやって愚痴っていると首元に熱が纏わりついた。華奢な美しい腕。アリスがモーガンの首に腕を回している。
「……ほぉ〜……。 そうか。 話は聞かせてもらった……グルド人が住むには向いてないと言ったが、狩人の武器も打たない腑抜けが居るらしいな……どれ。 モーガン、今日は買い物に行こう」
「……おはようございます。 支部長」
「……支部長はよしてくれ。 呼び捨てでも良いぞ」
「……ほら、モーガン。 言ったではないですか。 夢では無いと」
トランクが余計な事を言い放つ。後々になって考えてみれば、弁当の件で根に持っていたのだろう。
「……ばっか! トランク、お前!」
「……おっ、お前! 昨日の事を夢オチで片すつもりだったのか……! めっちゃ、恥ずかしかったのに……っ! 君というやつは……!」
回り込んだ腕が締まると共に、背もたれに沿って体が少し浮き上がった。
「うぐぁ……! わ。 わかってますよ……! 自分ら恋人同士って事ですよね……! 何と呼べば良いでしょうか……?! ぶっちゃけ、破局した時の事も考えておいたほうが良いのでは……ビジネスマン的にぃ……!」
「……う〜ん。 確かに……うん。 関係性が一瞬で拡散されるからな……ビジネスマンとして相応しい交際を。 なるほど、難儀なモノだな……ここは妥協して、互いに『さん』付けで呼び合うか」
「お〜い。 お二人さん。 早めの昼食にしましょう。 狐の友人はまだ寝てるんですかね。 起こして来ま……」
「寝かせとこう。 まぁ……疲れてるだろうし」
「そうね。 寝かせときましょ。 彼、口軽そうだし」
他種族同士ではあるが同じ表情、同じ目をしていた。疲れているだろう等と言っているが、口が軽いから、この件に関してはしばらくの間は伏せておこうと判断したのだ。
「友人よりも恋人とはこの事か……まぁ、口軽そうですし」
誰も反論する者が居らず、微妙な雰囲気が流れる。
まぁ、それはともかく。 そう切り出したのはアリスだった。
「初デートしますか……武器選び……武器選びか……おっし、モーガンさん。 支部長である私が、この狩人協会 クリスタルリバーサイドの案内人を務めさせてもらおう……」
「ついでに、美味しいスイーツがあるから食べに行こう。 その、アルコールとアイスクリームが美味しいんだ……いいや、らしいって話なんだがな……」
(……この季節にアイス? エルフってのは、寒さに強いのか……? いや、部屋が暖かいとかそういうやつか)
考え事をしているモーガンの表情を見た途端に急いで説明を継ぎ足した。
「……1人で行くのもな……部下を誘うにも、その……」
「良いですね! 行きましょう!」
あーだこうだと時間を潰していると、空に晴れ間がのぞく。群青色の眩しい空。雲と青空の境が異様な程に鮮明に見える。
空気を吸い込むモーガンの格好は普段と変わらない。白シャツ以外に何か下に着込むわけでなく、狩猟団の上着へと袖を通している。
「寒くない?」
「そうでもないです。 良いんですか? 鍛冶場なんて見ても楽しくないでしょうし」
「どこでも良いよ。 時間を共有するのが楽しいんだ。 暇さえ潰せれば良いよ」
「期待されて無いですか……」
「……行きつけの店とか無いっしょ?」
「……まぁ、そうですね」
「じゃ、まっかせなさい。モーガンさんには案内とかしてなかったからね~」
「他の方は案内とかしてもらえる感じですか?」
その問いかけに対して、歯切れの悪い返事が返ってくる。負い目がある様な表情を浮かべて目を合わそうともしない。
「まぁ、普通は……。 あぁっと、まぁ正直。 君はもっと早い段階で出て行くと思ってた……というか、追い出そうとしてたからさ。 周囲のエルフ達だとかがさ……私は指示とかしてないぞ!」
「わかってますよ。そういう人じゃないと思ってます。 ……しっかし、自分でも自身の忍耐強さには驚きます。 また、お墓参りにでも行こうかな……そういえば」
昔の事を思い出していると、やっぱりというか。あの子達の事が真っ先に思い浮かんだ様子だ。
住民の間で噂はになっていた話を耳にしており、誰の墓であるかにピンと来た。信頼を捨てるには早いと言ったのはこの噂を知っていたからでもある。
「……子供達のお墓でしょ?」
「そうですね。 墓参りのあとには引っ越す予定でしたし。 挨拶くらいは済ませておこうかと」
「……私には?」
「……正直、挨拶するつもりはありませんでしたよ。 引越したら手紙を出そうとは思ってましたけど……まさか、こうなるとは……」
「だね〜。 最初会ったときとか、マジで不審者が来たって思ったよ。 ぶっちゃけ、最初は早く出て行けとも思ってた。 遺体を持ち帰って来て、都合良く子供の亡骸を持ち帰れる男と噂になって、聞き取りして」
「ふふふ……あんときの支部長……アリスさんの目ヤバかった。 喋る生ゴミを見るみたいな……」
「……あ〜。 確かに……あの時はさ、その。 うん。 喋る生ゴミだと思ってた」
「はははは!」
「……マジで。 いやいや、冗談じゃなく」
「……お。おぉん……そうでしたか」
「まぁ、次第に妙な奴だと思うようになったね。 意味わかんねぇもん。 口汚く罵られようが、家に石を投げ込まれようが、チンピラに絡まれてボコボコにされようが……なんとも無いねって顔でさ。 大雨だろうが、熱波だろうが、行方不明者の捜索依頼の紙を持ってくる」
「……妙な奴。 喋る生ゴミから大出世してますね」
「ふふ。 それに、手を出して来なかったからな~。 そこが気に入った。 昨日の夜も来なかったし……うん。 」
「……ただ単に度胸無しですから」
「そうかな?」
「……まぁ、現場仕事なので早い内に死ぬかもですし」
「そーね。 死んだらそれまでさ」
「あれま、意外とドライですね」
「……まぁ、狩人同士でカップルが成立するとよくある話さ。 片割れが死んじゃって、もう一方も後を追う。 どの界隈でもある話だろうし、君が初めての恋人ってわけじゃない」
「……そうでしたか。 死なないように頑張ります」
鍛冶場の販売所に入ると、モーガンへと視線が集まっていた。拒絶されるような雰囲気は薄くはなっていたが、やはり余所者ということには変わりが無いらしい。
「……ここか? 客を選ぶ鍛冶屋ってのは」
アリスが姿を見せた途端に空気が凍りついた。 来訪の予定が無いのにも関わらず、ふらっと狩人組織のボスが立ち寄ってきたのだ。
ゆったりと歩いていた職人が駆け足に。受付の女性達は椅子から立ち上がり背筋を伸ばす。全員の顔に緊張が走っている。
「……アリスさん。 目ぇ怖いですけど……」
「……今は支部長と呼んでくれ。 ……さて、こんにちは」
支部長がカウンターへと立ち寄る。後ろに控えたモーガンにまで緊張感が伝わってくる。
「い、いらっしゃいませ……!」
「……すまないな。 突然寄ってしまって。 彼の武器を鍛造して欲しくて同行して来た次第でね……。 狩猟鉈のカタログを見せてくれ」
「……こ、こちらになります」
「……モーガン。 ほれ」
「……お。 おぉ〜めっちゃ種類あるじゃないですか〜……支部長殿……怒ってます?」
彼の方へと手のひらを見せて黙るように頼んでいる。完全に仕事中のカッチカチな表情である。
「……以前彼が来た際に追い返したと耳にしたが、本当か」
「……えっと。 当日の担当者についてお調べ致します……少々」
「……依頼受けもしていないのに、対応者リストに載ってるとは思えないが……確実に当日の担当者を絞れるのかい? それとも、その場しのぎをしようとしているのかな?」
「……支部長殿。 ま、まぁ。 私怒ってないですし……。 落ち着いてくれませんか……?」
「怒るか怒らない以前の話でね……。 狩人が万全を期せる為にある鍛冶場だ。 こちらも助成金を出している。 私は怠慢が嫌いでね……君の成功報酬の一部からも――……ひゃあ?!」
モーガンがアリスの耳を指で撫でつけている。モーガンの手を弾こうとするにも、執拗に耳輪を撫で続けている。
「……アリスさん。 怒らないで下さい。 まぁ、良いじゃないですか。 それに、今日はプライベートなんですから、楽しみましょうよ。 んなことよりも、このタンブラー良くないですか? 記念に買っていきましょうか」
「……お、おい。 プライベートで来てるとか言わないでって!」
「……いやいや。 休みの日に一緒に買い物て。 すぐに噂になるでしょうし、妙な尾ひれが付く前に拡散しちゃいましょう」
「……その通りでもあるが……恥ずいな……あぁ、君との関係が恥ずかしいだとかじゃないぞ?! 耳撫でるのやめろ! くすぐったい!」
「威圧的だったから、しばらく止めませ〜ん」
しばらく後。 アリスがぐったりとしてベンチに腰掛けており、不機嫌な目でカウンターのモーガンへと睨みを利かせている。
「えっと……設計通りに鍛造出来ます? 先払いで全額お支払いしますので〜……」
用事も済んだ。スッキリとした表情でアリスへと近づく。
「……おい。 モーガンさん……」
「……すみません。 ちょっと執拗にしすぎた様で……」
アリスの耳が桜色に染まり、肩で息をしている。
受付の後ろの方に座っている奥様達がはしゃいでいる。そんでもって、男性の職人が冷ややかな笑みを浮かべているのだ。悪意のある笑みではない。おぉ〜。大胆だねぇといった 半分呆れ、半分関心したという表情だ。
「……人の前では止めていただいて」
「……文化的に良くない事だったり?」
「……べつに」
40分後。アイスクリームに酒を垂らしながら目を伏せたアリスへと頭を下げている男が居る。
「……すみませんでした」
「……いや、良いよ。 まぁ、家でならね?」
「気をつけます」
エルフの耳輪上側には他種族とは異なり、神経が多く通っている。荒く触れられると他種族よりも痛みが走り、優しく撫でれば、くすぐったい。
親しい仲であれば何も問題はない。 ただ、他所様の目が届く場所では控えるべき事というのが常識らしい。
「……頭に血が上ってたし。 止めようとしてくれたんだろう?」
「……そうなりますね。 いい案だと思ったんですが……すみません」
「いいさ。 ……明日には全員の知る話になるだろうな……噂は秒で広がるし……耳撫でやってるのは、間違いなく恋仲だとな」
「例えばだ。 男が女を連れてたとしよう。女の脇下を擽ってたらどう思う?」
「……あ〜。 なるほど」
「……まぁ、いいか。 恋仲になったんだ、君の事を教えてくれないか? 狩人協会の施設育ちとは聞いたが、どんな場所だった?」
「……当時は普通の場所だと思ってましたが、今から思えば、あの場所は異常でしたよ。 あの時に死んでしまった同期たちには悪いですが……悪いことばかりでは無かったです」
「その後はどんな人生を?」
「家を失った子供の生活は過酷なもので……。 まぁ、私は人間にも何度も殺されかけた稀有な子供でした。 怪物の巣に連れ去られたり、人身売買業者にとっ捕まったり。 お陰で、身体の特異性を知ることが出来たのは予想外でしたが」
「……どうやって生き延びたんだ?」
「……自分の臓器を売って、お金を稼いだり……ひと月も寝ていれば再生するので……。 売れる臓器では肺が高単価で……まぁ、悪い大人に見つかって、攫われそうにもなりましたが、術式が大いに役立ちました」
「……殺したのか?」
「えぇ。 それも大勢。 中には命乞いしてくる人も居ましたが……子供を捌いてマリファナ吸ってる連中でしたよ。 それに、当時の私は慈悲の欠片もない獣の様な人間でしたし」
「……すまないな」
「いえいえ。 過去は変えられないですし、つらい過去があって……なんて言って、ネチネチ引きずる性格じゃ無いのでね。 それに、運が良かったと思いますよ。 今までの人生、出来すぎてるくらいです。 普通なら土に還ってるか、変態趣味の大人に性病うつされて、適当な街の裏路地でうずくまってるか。 良くて奴隷でしょう」
「間違った事もしたとは思います。 ただ、後悔はしてませんよ……仕方なかったってやつです。 それより、心配なのは今の状況でね。 これを話した相手はしれっと居なくなるんですよ」
「……すまない」
「……シラケたでしょう? 野蛮なグルド人だとか、人間として故障してるだとか。 ……この後はどうします? お開きにしますか……支払いは私が持ちますので……」
「待て。 なんだ、嫌われたと思って逃げるつもりか?」
「いやいや、引くでしょう。 散々、人間を殺めた相手です」
「……知らんな。 人を殺した事のある狩人なんざ山程居るさ。 それに、ここのパフェが中々イケるとの話だ。 付き合えよ」
顎で座るように促すと、面白い女だなと微笑んだモーガンが隣へと腰掛ける。
「……へぇ。 物怖じしないだなんて」
「信頼しているからな。 是が非でも、信頼を損なわ無い様に努力してくれ。 そこいらの若造と一緒にするな」
「……エルフって長寿らしいですけど、アリスさんって今、お幾つなんですか?」
「……君と同い年だ。 20歳」
「20で支部長やってるんですか?!」
「……あぁ。 そうだよ。 後任が居なかったからな……それに、腕っぷしなら他のエルフには負けないし。 自然とな……私を幾つだと思ってたんだ?」
モーガンがアリスの顔に近づき、頬をつまんだり、あらゆる角度でまじまじと見つめている。
「役職から考えても、早くて27くらいかと。 それでも若すぎだと思ってましたけど……。 はぇ~……こんな美人で頭も良くて、20でトップとは……現実は小説より奇なりとは……」
「お。 おい。 人も居るんだぞ……」
「はぇ〜……」
「やめんか! こっ恥ずかしい! 何やってるんだ!」
「……照れさせると素直になるから、遊んでんの〜」
「……こいつ……マジで! もー……腹立つ!」
つづく




