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狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
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道連れ

食事会が始まり、穏やかな時間が流れる。

 フェレスドレアの王が宴の挨拶を終える。大広間から数名の近衛このえを引き連れてその場を後にするのを眺めている。


 「言うことを聴かない……。 そもそも、頼みを聴いてくれるものなんですかね?」


 部屋には食事の匂いが立ち込め、穏やかな曲が奏でられている。幾つもある国とはいえ、王族の催す食事会だ。プレートに並んだ食材は一級品の物ばかり。


 支部長の護衛。 っていう名目で肉を数切れだけでもご相伴に預かろうかと考えていたが、彼女の謎の不機嫌でこの状況に陥っては無理な話だ。


 「……まぁ。僕の精霊というより、家で管理してるといいますかね……酒は好きかい?」


 モーガンに手渡されたグラス。痩せ細った握り手がグラス全体の半分以上を占めている。大量に摂取するのではなく、お上品に少量の酒をチビチビ味わうグラス。


 (量は飲めないな……。残念)


 「家全体で管理……ですか」


 王が退場する姿を眺めていると、彼に追随するエルフの女性に目が行った。豪勢なアクセサリーを身に纏った絶世の美女。間違いなくエルフの女王様だ。


 (世界の王族ってのは、あれなのかね。美男美女を嫁婿に貰う傾向からか、容姿のレベルが段違いだな……)


 「フェレスドレアの王様、エルフの女王様と何話すんですかね……」


 「……さぁ。 先日のテロ対策についての会合でしょう」


 「……その件について、そちら様はどう思ってます?」


 「……只々、残念だよ。 あんな事は二度と起こらないようにしなければならないと、本気で思ってる」


 「……国民を更に絞め上げるだとか? 内政が乱れるような方法は流石に無いと願いたいですな」


 都市国家間での会合。話す内容は先日のテロについての話が主だろう。強硬な姿勢を取るとして、冤罪での処刑が増える事は避けて欲しいとモーガンは切に願った。


 決定権のない人間に話しても無駄な事だと思い、腕にしがみつく精霊へと目を移して話しかける。


 「そろそろ、主の元に戻りな。 ……どうも動かないな」


 「近頃散歩に連れて行ってないからか、拗ねているんでしょう」


 「……拗ねる? そんな事があると感じた経験が無いので、拗ねてるかは不確かですけれども。 ……ところで、お名前を伺っても?」


 「私はハロルド。フェレスドレアの王子です。……因みにさっき演説してたのが、私の父。 驚いた?」


 「顔つきがそっくりですし。主催者ホストの顔に、親族一同の情報は頭に入れております。」


 「……知ってるなら、言ってくれよ〜」


 「申し訳ございません。サプライズ好きだとお伺いしていたのでして」


 来賓として招かれる以上、他の主要ゲストと主催者の親族までは調べていたのだ。支部長殿もある程度は知識を入れていたと思うが、王子の事は知らない様だった。


 王位継承。馴染みのある言い方をすれば家業を継ぐといった具合だろうか。基本的には精霊を見ることの出来る子供が継承するのが通例である。要するに、この青年が次期国王なのだ。


 見える子供が産まれない場合は、血で血を洗う権力抗争か、王の意思で次期国王を選出。


 他の子は国政の役職を担うか。他の国に婿入りか嫁入り。時代によるところも大きいが、それらが主な人生のレールである。


 「…はぁ〜。クラス等級の高い狩人ってのは……もっとさ。こう……リアクションというのかな? あるでしょうよ……こう、驚く仕草とかさ……」


 「……申し訳ありません」


 普段はクラス等級の高い狩人を近衛にしている様だ。10区分の中で6以上の者を召し抱え、反応炉には二人のクラス10。狩人協会としても、別格のお客様であるのだろう。地政学的、物流の要衝でもあるからか。スフィアを与えて関係を強めているのもその為だろう。

 


 ※スフィア:反応炉の動力源。ほぼ無限のエネルギーを生み出し、超臨界に達すると対消滅を起こす物質


 「何なんだろうなぁ〜……狩人ってのは驚かないように設計されてるのかと錯覚するよ……。んでさ……本当に申し訳ないんだけど……この後の挨拶回りに付き合ってくんないかな……?」


 「仰せのままに。ハロルド殿下」


 「……そう硬くならなくとも……。こちらが客人に頼んでいるのだ。普段は別の狩人を従えておるのだが、やつは見えない者でな。精霊が言うことを聞かずにしがみついた相手が狩人であるなら都合が良い」


 深々と頭を下げるモーガンの姿に、王子としてのペルソナで返事をする。


 ※ペルソナ:社会生活を営む上での人格の側面


 彼の言葉を要約するとこうだ。精霊の世話と次期国王の警護を出来るモーガンが宴会の間に近くにいると都合が良いとの話だ。


 「……では、今から来賓のほうへと参ろうか」


 「……多いのですか?」


 「今日は少ない方だ。70組に挨拶をだな……。後でお礼するから、頼むよ〜!」


 モーガンが少し嫌そうな顔を浮かべていた。彼自身、自覚は無かった。近頃の事で疲れているのだろうと念じて表情を引き締める。


 「……顔に出てましたか……とんだ無礼を」


 腕が切断されて元通りに()やす事自体、生きていれば自然と行えることだ。もちろん、モーガンにとってはであるが。


 それを数日間で再生させ、リハビリを行い、機能を以前の状態と変わり無いまで持ち直すにはかなりの気力と魔力を必要とする。


 簡潔に言えば、身体強化の術式〈発気揚々〉を寝ずに3日間使い続けている状態だ。 理性的な考えでは今すぐにでも仮眠を取った方が良いと警鐘を鳴らしている。 しかし、不思議な事であるが、体は眠たいとは感じていない。緊張のためか、はたまた、権威による圧力のためかは判断しかねるが。


 「……大丈夫! 大丈夫! 軽く挨拶するだけだから! 軽くね。かる〜く。うん」


 「身に余る光栄にございます。 必ずや、このモーガン――」


 「良いって! もっとフランクな感じで良いから!」


 しばらく後、69組の挨拶回りが終わり、最後の相手の場所へと向かう。


 「次の所は長くなるかもしれないけど……すまないな。礼儀のなっとらん招待客が多くて」


 「いえ。グルド人ですから、こういう事には慣れております。殿下が気に病まれる必要はございません」


 「……次はそういう人では無いと思うから、あまり気を張らなくとも良い」


 「……婚約者ですか」


 「……まぁ。そうだな。君、頭の回転早いな……ははは」


 「……随分とお待たせしているのは、喧嘩でもしたのですか?」


 「……以前は最初に行ってたんだが、父上から制されていてな。女の尻を追いかける前に他の者との親睦を深めよ。ってさ。庶民上がりの父上だが、すっかり風格を持たれている……」


 「へ……?」


 「……ぶっちゃけさ、我が家の精霊が見える奴が継ぐから、相手は誰でも良いんだよね〜。お忍び下町旅行で出合ったんだとさ」


 「……へぇ………データには無かった情報ですね」


 「……結構、機密情報だから言わないでね……! 片田舎の領主の息子ってことになってるからさ……ははっ!」


 「……結構どころか、マジのやつですやん……」


 「……おほん。モーガンよ。何の話をしている? さ。次へ行くぞ」


 「……仰せのままに」 


 退屈そうに食事が並んだ机をを眺める女性が居る。他の来賓だとかは友人や用心棒を従えていたが、例外も居るようだった。


 ハロルドの姿を捉えると女性の方から歩み寄って来る。モーガンの紅い瞳を見ても顔色1つ変えずにこうべを垂れるのだ。どこの馬の骨とも解らぬ蛮地の者に。


 「ハロルド様。お久しぶりですね。 ……さて、お隣にいらっしゃる、グルドの御人について紹介頂けますか?」


 品性の塊のような人。パッと見た印象はそういった感じであった。親切な人間の放つ雰囲気を持っている。


 誰しもが感じたことのある言い換えをするのなら、同族のくさみがしない。というのだろう。粗雑な連中に囲まれていたからか、人間性の差という物が明らかである。


 透き通った肌。おおらかそうな、丸い目に整った顔。次期王妃ともなればこの様な者が選ばれて相応しいと言えよう。


 「……この者はモーガンと言う。精霊が彼にくっついて離れなくてね……」


 「そうでしたか。……居心地が良いのでしょうね~」


 そう言いながらモーガンの腕に掴まる精霊の腹を撫でている。このかたも同じく見える側の人間であること、高貴な出身であるのなら、兄妹、姉妹に同じ性質を持つ家柄でもあるのだろう。


 「ってことは、この方も見えるってこと? 蛇……でしょ? わかるの。というよりか、痕跡?」


 精霊を視られる者は多くない。マイノリティな共通点を持つモーガンに、次期王妃は傍目から見ても危ないくらいに警戒心を解いていた。


 「……驚いた……。自分はそこまで視えないですが……蛇ですね」


 「ほぇ〜……。懐の深い精霊ですね〜。追い出しちゃう子が多いのに」


 「精霊にも性格があるんですかね……」


 「ありますとも。しかも、棲み着いた家の主人に似た子が引き寄せられるんですよ?」


 「……これこれ。根拠無い事を広めなさらんでくれ」


 「……根拠ならありますぅ〜。ハロルド様が鈍いだけですぅ〜!」


 微笑ましい男女の会話を眺めているモーガンの表情が緩む。未来ある若者たちが笑顔で過ごせる世界。安心して過ごせている姿を見ているだけで何故か嬉しさが込み上げて来る。


 「……ん?」


 毛が指先から逆立つと共に、モーガンが周囲を警戒し始めるのだ。


 (……〈アブラムシ〉の魔力センサーに違和感は無かった。魔力を込めた武具、未登録の魔力……ほぼ全ての出入り口に配置していた筈だがな……)


 「……どうしたんだ? モーガン」


 「私の後ろに……。 今は離れないでください」


 (ここまで来るのに最短で7箇所扉を通る必要があるのに……一切気がつかなかった。まるで……この広間で……今さっき産まれたみたいに……! 間違い無い……コイツは)


 入口で騒動が起きている。干からびた人間が積み上がった騒動の中心には人型の異形が佇み、モーガン。いいや、ハロルドの方を向いている。


 真っ黒い肌に逆関節の脚。3本指の手足。眼球が無い。というよりも頬骨より上が無い。


 工具で平たく加工したかの様にまっすぐ平らな頭部。誰かの術式だ。


 「……オマエ、コイツノ……ナカマ?」


 タールボウイの右腕が浮かび上がり、モーガンの瞳から光が漏れ出ている。


 「宴の礼儀がなってない奴だ。 誰の術式かは知らんが、ぶっ壊す……!」


 つづく

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