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狩人の生活  作者: 青海苔
第一章 血塗れの天使編
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渡り鳥が見た景色

 狩人協会の建物の下、モーガンがベッドに座っている。右足首の手錠はベッドの手すりに繋がれている。


 安いコーヒーに安いバゲット。何か食べたいかと問われて彼が頼んだものである。側のラジオからは先日の事件についての事が流れてくる。


「生物兵器を用いたテロから早2週間。クラス9の焦土作戦により、新たにグールの発生及び、媒介生物の確認がされなくなったとして、閉鎖が解除されました。献花に訪れる方々の姿が見られていますが、焦土作戦による建物等への被害は壊滅的で……」


 窓を少し開くと肌寒い風が流れ込んでくる。もう冬籠りの季節が近い事を教えてくれた。


 部屋の戸が開くと強面の男が入ってくるとモーガンの狩人証を乗せたトレーを片手に側の椅子へと腰掛ける。安いタバコのニオイが染み付いた男だ。


 かれこれ彼とは2周間の付き合いだ。本来はこんな湿気た仕事をする人間ではない。彼曰く、座ってるだけで金がもらえるならそっちが良いとの事だった。


 強面の男と称したが、そんな比喩では足りないくらいである。


 ヨレたシャツにくたびれた背広。ガッシリとしたエラの張った顔つきに、まばらな無精髭。


 側面の髪は刈り上げられ、残りを後ろで束ねている。人殺しも厭わない様な目つきで飄々とした表情を浮べている。


 「モーガン。今回の件だが……被害者全員、君に対して被害届けを出さないと結論が出たっぽい。久々に外で空気でも吸ってきな」


 手錠が外れた足首を擦ると、安堵した様な表情を浮べている。


 「……そうですか」


 「……それと、クラス7への区分変更だとさ。……おめっとさん」


 「……ありがとうございます。フードの女については?」


 「ウェイターの1人が顔を覚えてたらしい」


 「……他は?」


 フーシェンは胸ポケットからタバコを出して、断ること無く火をつけた。


 「まぁ、殺されてたよ。テロ屋の女が記憶映像の確認をした痕跡があるのが4人。3人は即死。残りは他と違って手を下されてなかった。石油の術式で仮死状態になったことが功を奏したと……気が滅入るな。この話は」


 「他の狩人ならもっと上手くやれてたでしょう。……化け物を退治する為に他人を怪我させる。化け物同士が喧嘩してると一緒ですよ。『良くやった』としか言われない。おかしな話ですよ」


 「……なんだ? 日光不足か? 南の島でも行って死ぬ程浴びてこい。 ……下に女が待ってるそうだが、彼女か?」


 「女……? 誰だ?」


 「ヘルメースだとかいうやつ。随分と若いが、隅に置けない男だな」


 「……まだ子供だ。飯奢る約束してたんだ……忘れてた」


 「口座も解凍済みだ。奢ってやれよ。それと……おじさん、仕事の斡旋もやってるんだよね。興味あるなら連絡しな……そいじゃ、おっさん帰るわ」

 

 外れた手錠とその鍵を置いて、名刺を掴む。事務所のアドレスと連絡番号。何の変哲も無い名刺。彼の名はフーシェンと言うらしい。偽名だとは思うが、狩人上がりの人物なら不思議な話ではない。


 (……大陸系の顔つきでは無かったと思うが、まぁ。いつか世話になるかもな。選択肢は多いほうが良い)


 名刺を狩人証の側に投げ捨てベッドに背を預ける。


 「……傭兵なんてやりだした日には、只の荒くれ者と一緒だな。ははは。……今も大差ねぇか」


 階段を降りてくるモーガンを眺めながらヘルメースは少し前の事を思い出していた。数日前、フーシェンとの会話を思い出していた。


 「よぉ。ヘルメース殿、今良いかね……」


 「飯奢ってくれるならな」


 「は。金ならあるだろうが。狩人協会のお偉方の依頼の続きだ。モーガンの監視だよ」


 「……おいおい。この間の生物テロ。あの時に監視した内容だけじゃ不満かよ」


 「……報告書の話じゃ、モーガンがテロ屋とお友達の可能性は無いと言う結論だが、臭い奴だ。この短期間でクラス区分を3つ上げてる。マッチポンプを疑うだろ?」


 「……腕を失っても疑われるとは、狩人協会は性格悪いねぇ……」


 「やっこさんも、仕事なのさ。それに、モーガンの術式。タール・ボウイとか言ったか。アレは脅威だ。広範囲に無差別攻撃が可能で、骨以外の組成を石油に置換するんだぞ?」


 「……そんな奴の監視なんて怖くてやりたかねぇよ……。モーガンには飯奢って貰ったらサヨナラだと思ったんだがな」


 「まぁ、金払いは良いはずだ。とりあえず半年の契約だ。前金で100万クラウン、成功報酬で400万。……今回のテロ加担者、共通点があってな。わかるか」


 「……さぁ。全員ゴミクズってことかい?」


 「……まぁ。それもそうだが。孤独な奴だってことさ。人間は孤独だと何れ頭がオカシクなるもんでな。モーガンも片足突っ込んでる口だ」


 煙草を咥えるフーシェン。ライターで火をつけようとすると、ヘルメースは咥えた煙草を取り上げる。


 「……まだ一服するなよ。商談中だろ?」


 「……割とヤル気だな。第2シェルターに施された術式避け。あれな、まじない程度のものなんだよ。ガチガチに組んだ魔術じゃないらしい」


 「……中抜きか?」


 「……今、下請け業者が詰められてるよ。あれが3億クラウンの仕事かとは思ったが。経営者は今頃海の底だったりな……。ナメた仕事するやつはどこの国でも嫌われるもんさ……話を戻そう」


 「まじない程度のもの。モーガンの術式が影響しなかったのは運が良かっただけの話なのさ。まじないが効いた。それと、モーガンが無意識下でストッパーを掛けていたからさ」


 「……逆を言えば、悪意を持って使ったら止めようが無い。無意識下のストッパーは彼の良心でどうにか保たれてる」


 「……恋人にでもなれとか言わねぇよな。500万積まれてもムリだねぇ……」


 「……いいや、奴の狩猟団に潜入してもらう。人間、失うものが多いとルールを守り、無いと破る。確実な話じゃ無いが、金と人間関係が良好なやつは犯罪を犯さない。それでも性犯罪でパクられるやつは居るけどな……男は下半身に脳味噌付いてるから」


 「キモい」


 「……はは。だと思う。良好な人間関係を築いて、狩猟団に潜入する。半年過ぎたら抜ければ良い。成功失敗に関わらず、まとまった金が入る。違約金はなし。どうだ? 奴に変な気を起こさせるなってこと。今回の"女王"討伐報酬にはオマケをつけてあるのもその為だよ」


 「……う〜ん。前金200。成功報酬を500」


 「……はは。前金150。成功450が依頼元の限界らしいぞ」


 「……受けよう」


 「……そう言ってくれると思ったよ。基本的には、モーガンが妙な動きをしないかの監視。遠方での仕事への同行な。……あいつは普通の男より賢いらしい。感づかれるなよ?」


 階段を下りるとモーガンは近くの売店へと駆け込み安いシャツ買い、修理した革の上着を受け取っている。


 「着替えたいんですが、良いですか?」


 「えぇ。右手奥にございます。貸し出した服は足もとの籠に入れていただければ……あの〜。あの人、お連れ様で……? 恋人さんですか?」


 モーガンが据わった目で右を向くとヘルメースが手を振り、爺さん婆さん世代でも珍しい、投げキッスだとかいう時代錯誤のエモートを繰り返している。


 「背中が痒くなってきた……自身があるのはいい事だが。ありすぎるのも問題だな……」


 「?」


 「あぁ……。知り合いです。空渡りのヘルメースだとか言う狩人らしいですよ。躾のなって無い子ですので、生暖かい目で無視していただければ幸いです」


 「……は。はぁ……結構大胆ですね……結構お若い」


 「勘弁してくださいよ……お姉さん。あれ、16歳ですよ。まだ子供」


 彼の左腕が少しだけ再生している。上腕の半分くらいの長さ。治癒術式の込められた湿布と包帯から漏れ出る緑色の魔力から察するに、高い金を積まないと仕事を受けない癒し手だろう。


 「……おぉ。良い医者引いたな」


 「そーね。座って待ってな」


 モーガンは魔術を用いずともある程度の欠損であれば治る肉体のためか、医者の腕の良し悪しに関して疎い。と言うよりも違いが良くわからないのだ。


 しばらく時間が経ち、食後のコーヒーを飲んでいる時だ。ヘルメースが話を切り出した。


 「モーガン。君の所の狩猟団に入りたいんだけど」


 「お。そうか。良いよ」


 「……随分とあっさり」


 「来るもの拒まず、去るもの追わず。よっぽどヤバい人じゃない限り断らないよ」


つづく 

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