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狩人の生活  作者: 青海苔
第三章 4度目の大量絶滅
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初めての人殺し

 「……魔術師協会に……狩人……まったく毎度毎度懲りないねぇ」


 モーガンが死にかけた人間の頭を掴んで持ち上げる。 優秀な魔術師だったろうに、今はその辺に転がる死体と変わらない結末を迎えようとしている男が鋭い視線をモーガンへと注ぎ続けていた。


 「……化け物め」


 「魔術師が純粋な人間だと考えるその能天気さには辟易するよ。 前回の君はもう少し歯ごたえがあって良かったんだけどねぇ……翼も1本持っていかれたくらいにはね」


 モーガンの背中からは鷲の翼が生えていた。 大きく開いた翼には眼球がついていて、掴み上げた男をじっと見つめている。


 「……何を」


 「ん? 平行世界ってやつ。 知ってるかな? 僕の場合は少し違って、同一の世界を何度かやり直してる。 7回かそんくらい? 同じクセに微妙に違う世界なのは、時代を先に進めたい何かの干渉かもしれないが……今回も僕の思い通り……ってあぁ……死ぬのが早いね……」


 死体の山に亡骸を投げ捨てて、ポケットから煙草を取り出す。 指先を近づけ魔力を込めた時の摩擦熱で火をつけ、うまそうに一服するのだった。


 「消失の光。 最後の継承者達も死んだ。 ふ〜。 もし僕がループしなきゃ、代わりの粗悪品が継承されるのかな……? ……あと1分くらいかな、あの子が来るのは」


 そう言い、煙草の燃焼部を輝かせた時だ。 穏やかな殺意に包まれたゼノスが瓦礫の山を越えて姿を見せた。


 「……お……意外と早かったな。 やぁゼノス。 どうしたんだい?」


 「……」


 死体の山に腰を下ろしたゼノスが赤い目を体液溜まりに映った異形化した恩師だったモノへと向ける。


 「なぁ……先生。 なんでこんな事になったんだ?」


 「ん? 上手く行かなかったからかな」


 そんな理由でやり直せるのなら人生楽なもんだなとため息を漏らし、諦めたような目を浮かべた。


 「……そうか。 お前の未熟さからこうなったと……」


 「術式が出たから嬉しくて、大口叩いているのかな?」


 「……そっちこそ、自分が無敵で頂点と錯覚する力があるから、この惨状見てヘラヘラしてんだ。 この間の3人の馬鹿と同じで……あんたは悪い意味でガキなのさ」


 「今回の君は本当に口がよく回るし、頭も良い。 そんでもって謎の根性があるなぁ。 前のはひ弱で馬鹿で……」


 そう言うと共に、モーガンは口に手を置いた。 そんな筈は無い。 と言った表情で手を置いたモーガン。


 「……どうした。 舌でも噛んだか? 前のは……というとループでもしているのか。 前の俺はどうだった?」


 「みっともなく泣きながら助けを乞うていたよ」


 「……そうか。 そうしたいのは山々だけど……」


 ゼノスが術式で構築された無骨な槍を片手に握り、目を細めている。 吐き出す吐息からは陽炎が漏れ出て表情をゆがませる。


 「アンタはここで死ぬべきだ……」


 「ガキが……」


 踵を鳴らしたゼノスの顔がモーガンの傍に迫っていた。 翼の瞳もかつて彼が座っていた場所を見つめていて、槍の矛先が迫ってようやくゼノスを捉えた。


 「……大勢殺しやがって……!」


 身体を捻るとともに、切っ先が翼の目を抉る。 怪我をしたと言え、擦り傷の様なものだ。 数秒で再生すると念じて距離を取る。


 「……まったく。 酷い子供だ。 培養槽から取りあげた僕を刺すなんて。 反抗期か?」


 「アンタを親父の様に思ってた。 それも幻想だったと思い知ったけど……夢のような時間だったよ。 だから、残念だよ」


 翼の片方が脱力して地面を撫でる。 翼に得た眼球の擦り傷からは茶色い体液が滴っており、少しすると枝が落ちるかのように片翼が膿溜まりに伏して肉が蒸発する。


 「……その槍」


 「……どういうわけか。 死人が力を貸してくれる……アンタが殺した死人達がここに宿っている様に思えるんだ。 脈打つ怨恨が力を貸してくれるとでも言えば良いのか……はたまた、被爆して術式が変異したのか……」


 そう言えばさっき、なんだか言っていたなよなと続けるゼノス。


 「……早いと言っていたな。 ループするのに何か……いいや、起点を定めてループすると考えれば。 培養人間たる俺の生誕を起点としてループすると仮定すれば……早かったなと気に掛ける理由に筋が通る。 ループを開始するには……俺を殺すことが必要だとか?」


 (……繰り返す度に、君も意図せず繰り返していたのか。 リセットするタイミングを君の出生時に縛った弊害がここで出たか……)


 「そうさ。 その制約を課してこの程度の神秘性でループ出来るものか」


 「……この程度? ……この程度だと? 大勢の人生奪っておいて何抜かしてやがる……」


 「まぁまぁ、怒んなって。 それに、もう一回やり直せばみんな元通りだ。 誰も死なないしさ」


 「……ダメだ。 同じ事を繰り返すだろう。 お前の様なイカれ野郎はな……なんだよ、妻が死んだからやり直すのか。 どうせならそんな化け物になるのなら、その力で治せば良かっただろうが」


 「……そうだなぁ。 でもそれじゃあ不十分なんだ。 僕は人間として幸福に生きたいんだ。 妻はそうまでして生きたくないと今回言われたからさ……次の彼女に期待したいんだ。 本人の意思は大事だろう? それに、彼女を無理に生かしても……君が死んでしまう。 僕と君、妻。 全員で幸福に生きたいだけなんだ。 培養槽で生み出された君は僕らの息子なんだよ……家族なんだよ」


 「……黙れ。 もういい。 これ以上生き恥を晒すな……!」


 「……ど〜して判ってくれない?」


 「俺を息子だと言ったな。 遺物の幽鬼と戦った時もそうだ。 怪我をしているのに治療の手伝いもしてくれなかったよな……なんでだ?」


 「そりゃあ、まだ全員納得出来る方法が確率されていないんだもん。 今回のループも実験さ。 怒らないでくれよ? もちろん、手法を確立したのならちゃんとするからさ。 どうせ今回も君を殺してループするだろうと思って……どうしたんだ、そんな顔して?」


 「……もう、なにも言う事はないよ」


 「……なんでだ……? 何故理解しないんだ? この点も次回の改善点か……前のゼノスの様な性格の場合は前のやり方を使えば……」


 「……もうね。 例え、全てうまく行ったとしても長続きしないよ。 奥さんはそれを判ってたんだろ」


 「ま、ループするからさ死んでくれよ。ゼノス」


 「……言ってろ」


 片翼の上位種がその羽根を広げ、光の十字剣を握る。 彼の周辺には重力球の星々が浮かび、ゼノスの身体を消し飛ばそうと、一斉に迫った。 地面が捻り伸びて穴が穿たれる。 黒い星々が地面へとめり込み数秒経つと空洞化した地面が崩れゼノスが重力球の集まった地底へと落っこちていく。


 「はい終わり〜」


 黒い槍を地底へとぶん投げると共に切っ先に亀裂が入った。 散弾の様に飛び散った切っ先が重力球に吸い込まれ、泡に砂を撒いたかのように弾けて消える。


 「……神秘性ってのは、人間の魂って事だよな。 アンタの言い分を聴いた感じ、長期戦には向かないだろうしな……その状態をいつまで維持できるかな」


 「はて、どうだろうね」


 そう言った瞬間、ゼノスの左腕が重力球によって消し飛ばされる。 地面に潜っていたのが飛び出て来て右足までも消し飛ばされた。


 「……クソ!」


 かき消された術式の槍の残骸を背中側に置くかのように手を


 「……勝てるわけ無いだろう? 自惚れたな……どうしてそう歯向かうんだ……? 苦しむだろうに」


 「……ははは。 んなもん決まってる……こんだけこっ酷くやられて……あぁ敵わねぇって絶望して死んで行っちまったら、俺自身が満足しねぇんだよ」


 「死ぬのが怖くないのか?」


 「あぁ。 さっき死んだからな。 眠る様なもんだったよ」


 「そうか。 じゃあもう一度眠るが良い」


 瞬く間に目の前に移動したモーガンが剣を振り上げる。 振り下ろされる熱の権化たる剣が迫る中表情を和らげる。


 「バイバイ。 父さん」


 振り下ろされた熱が左眉を焼き焦がし、浅く裂かれた傷から沸騰した脂が煙を立てている。


 ゼノスの脇腹から突き抜けた槍がモーガンの胸を穿っている。


 「……はは。 食えない馬鹿息子だよ」


 空を飛ぶ魔術師達の一群が窪地に光るモーガンを見つける。 それを見たモーガン


 「……ようやっと理解できたよ。 僕はなんで躍起になっていたのか……妻と君と生きたいんじゃ無かったんだ。 僕は君と妻とで生きたかったんだ……愛している。 ゼノス……長生きしろよ」


 ゼノスの体の周辺に魔術陣が浮かび、優しい光に包まれる。 傷が不完全に修繕され、体が浮かび上がるとコレが転送の前段階であると気付いた。


 「なんのつもりだ」


 「父親から渡せる最後の餞別だよ。 生きるも死ぬのも好きにしろ。 お前は自慢の息子だった」


 爆薬が爆ぜる様な音と共にゼノスが消えた。 ボロボロと崩れ出した震える左手を見て微笑むのだった。


 「動くな!」


 「ははは……君達狩人の下っ端はそればっかりだな。 動けないよ。 もう、動く必要も無いさ。 君等には申し訳ないが僕と一緒に死んでくれ」


 夜空の星々が光の尾を引き始め、そのうちの1つが傍の地面を抉った。 手投げ弾が爆発したかのような衝撃を放ったのは地面の砂利かのような小粒な隕石だった。


 狩人達が見上げた閃光はとてつもない石塊が燃えて迫ってくる光だった。


つづく

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