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狩人の生活  作者: 青海苔
第三章 4度目の大量絶滅
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焼け落ちる紅葉

 

 「……こりゃあ、壮観だなぁ」


 魔族の女が見る世界には同士討ちする白い光の交差が続き、映画でも観てるような姿勢で術式の足場に座った状態で今さっきまで行きてた女の腕を齧り取る。


 「クチャクチャ……あ〜。 最近のニンゲンは良いもん食ってるからか……太らせる手間が無くて良い。 は〜血うっま……」


 断面の血管を執拗に吸っては舐め回す。 下品な音と共に唾液と混じった血が垂れ下がり、若干引くくらいに長い舌で舐め取る。


 腕の骨ごと噛み砕き始め落ち着き始めた戦況を眺める。 奥から与圧服姿の4機が迫って来る。


 「だぁるいって……戦力の分散投入は」


 「一気に決める……!」


 「……っは。 こっちのセリフだっての」


 高高度機動機グライダーの光へと手をかざして握りつぶす。 魔力励起の起こった瞳にはよこしまな考えも宿っている。


 「……一撃程度は残ってるぞ」


 撃ち落された魔術師達の死体が空のグライダーに杖先を向ける。 死体となっても、たとえ肘が砕けようとも掌が潰れようとも。 


 撃ち合いになった戦場後を跨ごうとした魔術師。 数十の光線が全てを無に還す。 熱撹乱遮蔽は熱線に関する防護だが、消失の光には無意味だ。


 「使う程でも無かったか。 この堕落者達は……まぁ、蟻の巣の中で暴れさせよう。 こりゃあ、太陽が上がる前には終えられそうだな」


 施設内に残った魔術師の数について目を凝らすと力量に応じた魔力の輝きが見える。 有象無象が蠢き回り戦闘要員はそれ程残ってはいない様子である。


 数名の治療師の魔力に労働で疲弊した魔力。 非術師の微小魔力。 飛び込んでも害は無い。 無論、魔力を外に漏らさない熟練魔術師を見ることは出来ないのだが。


 「行ってこい。 〈増殖する肉塊〉」


 腰に吊るした堕落者を2つ手に取って投げつける。 華奢な腕から放たれた堕落者2体。 音速を超え、周囲に衝撃波を撒き散らすと目を開き、割れた円環を浮かび上がらせる。


 鋼鉄の甲板にめり込むと共に数センチ程の厚みがある鉄板が弾き飛ばされ魔術師の頭蓋を潰し散らせるのだ。


 箒を捨てた魔術師が穴に向かって消失の光を浴びせて着弾した2つのうち1つは完全に死んだ事がモーガンの目からは判った。


 もう1つの方は火加減を間違えて酷く煮立つビーフシチューの様な音と共に、気泡が加速度的に増殖して最寄りの人間を押し退ける。


 石膏が割れる様な音と共に悲鳴が聴こえた頃には、彼の姿は無かった。 あの蠢く肉と壁の隙間に押し潰されたのは間違い無い。


 消失の光を浴びせ、くりぬいた所で焼け石に水だ。 穴は数秒で癒合し、筒状になった傷跡を辿って肉が勢い良く飛び出る。 水鉄砲と同じだが、浴びて無傷で済まない事は決定的に違う事だった。


 杖を握った腕が取り込まれ、引いても抜けないのは生前の行動から理解出来る。


 「増殖する前に殺さねば……! 〈タール・ボウイ……レッドラム〉」


 酷く沸騰した黒い脂の巨腕を傍に浮かべて肉壁へと突っ込んで行く。


 「着火ァ!」


 燃え盛る術式が肉壁を押さえると共に肉壁の成長が止まり、高温で肉が溶け消えていく。


 「揚げ物火災に水は不味いよなぁ!」


 火災を検知したスプリンクラーが水を撒き散らし、タールボウイの引火点超えの脂が四方八方に撒き散らされる。


 他の肉壁にも脂が付着し、燃える脂が肉壁の油分を燃料にして拡大し、肉壁を焼き殺して行く。 その勢いは止まらず、肉壁の全面を燃やし尽くしても止まらない勢いだ。


 「……あの術式は」


 「皆さん! 下がって! 皮膚に触れると骨まで熱が通ります! 絶対に近付かないで下さい!」


 瞬き程の時間で現れた膨大な魔力。 そしてこの爆発的な威力。 魔族の方も誰であるかが何とはなく理解できた。


 「……モーガンか。 狩人協会……まさかここまで手を回していたとは。 流石と言うべきか……厄介な相手と言うべきか……!」


 肉の緞帳どんちょうが燃え上がると共に赤目の男が姿を現す。 足元に食い込んだ堕落者の種を拾い上げ脂の中に仕舞った。


 「〈ディープポケット〉」


 腕と隔絶された収納術式。 精々ポケットサイズの軽い物を収納出来る程度だが、おあつらえ向きな大きさで助かった。


 「……アンタがモーガン?」


 「そういうテメェはデクスターのパシリか? 個性的でカワイイ格好してるじゃないの」


 「……お、わかる〜?」


 「ぶっちゃけ、ダサい」


 「あ゛? 殺されてぇのか、この芋野郎……」


 「おやおやおや。 殺す以外に能の無い連中が何を言う。 ……それとも自分で自分をカワイイだとか思ってんのかな? 痛々しくてどうやって声をかければ良いか悩んじゃうな」


 苦虫を噛み潰したような顔でモーガンを見下ろす魔族の女。 少女の姿ではあるが、実際はタダの老婆だ。


 身体が若ければ考えまで若いのだろうかと考えながら数歩前に出る。


 「……にしても、がたけぇな……」


 見下ろしていたモーガンが消えた。


 「……は?」


 膨張する魔力に振り返ると、黒く変色したモーガンの拳が迫っていた。


 「お仕置きだ……!」


 耳をつんざく様な破裂音と共に字面から土煙が上がった。 頭が半分消し飛んだ魔族の体躯を見下ろしながら息を整える。


 「魔力で空飛ぶの疲れるな……」


 つづく

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