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狩人の生活  作者: 青海苔
第三章 4度目の大量絶滅
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-1日目

 モーガンがラジオの電源を入れて耳を傾けている。 目の下には寝不足の皺が刻まれ、何時でも出られる格好で装備を弄っている。

 

 「魔族連盟による襲撃予告まで1日。 魔術師協会の飛行部隊、狩人協会のクラス3〜7の人員が集結しており……」


 モーガンが電話を繋いだ先からは陽気な声が響いて来る。


 「よぉ、どした?!」


 腐れ縁の男リジェ。 随分と元気そうではあるのだが、奴の今居る場所はテロ予告のあった地域であって変わり無いかを心配したモーガンが念の為に連絡した次第である。


 「リジェ、そっちは問題無いか?」


 「問題? 問題といえば空には魔術師、検問に荷物全部ひっくり返されたくらいかな。 アイツら目つきヤバいぜ。 場合によっちゃ、ケツの穴まで見せなきゃ許してくれない目つきだったぞ? まぁ商品に傷が入ったのは度し難かったが」


 懇切丁寧な扱いを求めるのなら行くなと注意したが、既に手遅れの様で。


 「アレほど行くなと言ったのに」


 「あははは! バカ言え。 厳戒態勢だと言えど市民の生活は続くんだ。 消耗品の運搬程度で普段の15倍の報酬だぞ? こりゃ行くしかねぇだろ?」


 「お前の幸運を分けてもらいたいくらいだ」


 「世界中の人員を集めました見たいな光景だぜ? んな中犯罪する馬鹿は居ねぇよ。 軽口叩いただけで処刑されそうな空気だ。 そっちはどうだよ? 家燃えたんだって? 災難だったなぁ、旦那。 新築祝いついで結婚するのもありだ」


 「あぁ、そうか。 元気そうで良かったよ。 今度こっちに寄れよ、アリスさんも喜ぶ」


 「ちゃんと許可取れよ? どーせ女の家に転がり込んでるんだろ? 急な来客呼んだ事ですら数十年間根に持たれるなんてことも珍しくない」


 「ははは……なんで知ってんの」


 「今日のタロット占いさ」


 「ふははははは! 嘘つけ!」


 「しかも3年前の雑誌。 暖炉に焚べる前に見たページに書いてた」


 「お焚きあげされた占いが効くとは思えないがな……マジで気を付けろよ? お前の成れの果てを刺し殺すなんてゴメンだ」


 「ははは! それなら未練無くあの世に行けるって奴さ」


 「勘弁してくれ。 遠出するの億劫なんだ」


 「ははは。 薄情者めぇ……んで、そっちは暇なん? 世間様は大騒ぎだと思うけど」


 「世間様は……普段通りだな。 それよりも、かれこれ何時間も考えてる……奴の狙いは何か。 気になって夜も眠れない」


 「寝ろ。 この感じじゃ、ここは襲われねぇよ」


 「そりゃどうして?」


 「わざわざ最高警備の銀行に強盗するか? 狙うなら場末の地方銀行の貸し金庫だろ?」


 「あぁ〜。 ありがとう。 少し調べてみるよ。 切るぞ〜」


 「ういうい。 おやすみ」


 番号を変えて逐一面倒くさい暗号を伝えてレオへと繋いでもらう。


 「……レオさん。 今良いですか?」


 「お、どした」


 「魔術師協会の本部に潜り込める口実なんかありません?」


 「……ん〜。 魔術師協会の総本山に行きたいって事? あるぞ。 ただの技術屋としてだが」


 「手配お願いします。 多分襲撃されるんで」


 「魔術師協会の総本山がか?」


 「多分」


 「ん〜。 わかった任せるよ。 楽園に来てくれ。 別のIDを渡すよ。 技術見習いって事で同伴させる。 とっ捕まったら知らぬ存ぜぬ。 助けは期待するな」


 「わかりました」


 数時間後、作業着姿のモーガンと数人の技術者が転移門をくぐり、魔術師協会の総本山へと姿を現した。


 受け付けを済ませ、ゲスト用のセキュリティカードを受け取る。


 「担当者が案内しますのでお待ち下さい」


 髪を切らずに放置していた事がここで役立つとは思わなかった。 冴えない技術屋を演じるのに、少し束になった髪と伸び切った髭は良い隠れ蓑になる。


 実際問題、顔を知る奴は居る。 主に2人。 グライダーのテストパイロット、上位種のカサンドラ事件での生存者と、量産型上位種討伐の映像を見ていた男。


 肩書きは中間管理職クラスのものだというが、現場作業で会う可能性が高い。 もうちょっと上のポジションであれば顔も見ないだろうが、望んだ所でソイツのポジションが押し上げられるわけでもない。


 「……で、新入り。 配属早々グライダーのメンテとは、運がないな。 前は何してた?」


 「旧式オートマタの修理業者です。 交換がラクですから穴場ですよ結構儲かりますし」


 「こっちの方が数倍は稼げる。 ……どこで商売してたんだ?」


 「北方寒帯ですね。 暖かい場所とは勝手が違うので色々勉強に……とまぁ、経歴はどうであれ……今回はグライダーの点検でしたか」


 「貸し出し機体、のべ9機の調子が悪いらしくてな……1機を除いて」


 「それは今何処に?」


 「多分現場に出てるんだろう。 テスト機体の中でも反応炉を3つ積んでる機体でな。 熱撹乱遮蔽を使っても出力に余裕が……」


 「容量がデカいのと配線が高級素材で出来てるって事ですか」


 「良く知ってるな。 実際乗った事あんのか? ウワサじゃ、モーガンとかいう化け物並に強いと謳われる魔術師が乗ったとかいうのもメンテした事ある」


 「どうでした?」

 

 「それは秘密。 さ、仕事するぞ。 事前に教えた通りにやれば大丈夫。 不明点あれば……メンターである俺に、そこの無口なマシューに聴けば良い」


 「了解です」


 優男風のマシューがモーガンへと近寄り、軽く会釈を交わした。


 「(よろしく)」


 「よろしくお願いします」


 高高度機動グライダーの外装を外し、安定化した反応炉の入った筐体の固定具を外す。 魔力曝露の警告マークが手元にあるというのは中々にスリリングな感覚だ。 


 中で砕けているバッテリーを取り出し、不活性化液と制御金属の柱が入った回収容器へと格納して密閉する。


 「頑丈なもんだな……若干外装が傷んでる程度で他の内部機構は無傷だ……」


 左手のデバイスで拡張画面を操作して各数値に目を通す。 何れも既定値内で問題は無い。 搭乗者の使用感等も大事な情報だが、今は何処かに出払っているか、死んだかのどちらかだろう。


 跨って斥力場を発生させ操縦中の異常が無いかを確認する。 制御用の太いコードに4方向から牽引鎖が固定され、飛び回れる状態ではない。


 流石にここまで固定していれば、倒れたりしないしまさか怪我人が出るわけがない。 そう願いたい。


 斥力を増幅させ一定の出力で放出し続け、各軸に沿った回転を加えて出力の確認を行う。


 字面に固定された金具が鎖を張る音と斥力発生器の重低音が響く。


 「問題はなさそ……」


 しばらく後。 作業を終えた3人が休憩室へと入り、販売所から食事と飲料を購入して席へと腰掛ける。


 新人が入って来たとなれば、会話として挙がる内容は大体は次の話だろう。 出自、趣味。 どういった食い物が好きか。 会話のキッカケとしてばら撒いて、食指が動けば話を広げるのが普通ではある。


 この席でも例外ではなく、その手の話になった。 ただの世間話を済ませつつ、冷えた弁当を食う。


 「てか、結構鍛えてんのな。 まさか、狩人だったりしてな。 現場から外されたとかか?」


 「良く言われるんですよ。 腕が太いと現場上がりって。 ただ単に鍛えるのが好きなだけでして……まぁ、あんな殉職率の高い仕事は恐れ多くて出来ませんよ……聞いた話じゃ、自分の数倍ある怪物と殺し合うとか。 子熊ですら怖いのに……いやぁ、ムリっすね。 マシューさんどうです? 現場の狩人」


 「(え? 俺? いやぁ、無理だよ)」


 「私もです。 それじゃ、自分は浴場行って宿泊室で寝ます。 おやすみです」


 つづく

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