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94話 勇者は交渉を持ちかける

 ツベルたちに襲い掛かる死神に、驚きはなかった。

 それは充分に予想の範疇であり、想定内だ。


「させるかよ!」


 ラジとフジを突き飛ばし、即座に反転した。


「でりゃ!」


 振り下ろされる鎌の柄を、蹴りで弾いた。


「クックックッ、ヤルデハナイカ」

「おれとお前は似てるからな」

「ホウゥ」


 骸骨だから表情は読みにくいが、どこか楽しそうだ。


「フォールシールド」


 三人を囲む盾を、再度顕現させた。


「ソレハ無意味ダ」

「お前にはな」


 上空から放たれた魔法の一矢が突き刺さり、盾にヒビを入れた。

 おれはこれを防ぐために、盾を展開したのだ。


「クックックッ、ヤハリ面白イナ」

「お楽しみのところ申し訳ありませんが、さっさと契約を全うしてください」


 魔法の矢を放ったタローが、空から降りてきた。


「フォールシールド」


 ヒビを修復し、今度は三重に盾を設置する。


(サラフィネなら、こんなにも厚くする必要はないんだろうな)


 おれが閉じ込められたあそこなら、ここにいるなに者の攻撃も意に介さない。


(ったく、やんなるな)


 実力の差に辟易する。

 そして、必要ならあの高さまで到達しなければならないのだから、余計に気が滅入ってしまう。


「まあ、んなことも言ってられねえか」

「なんのことかは存じ上げませんが、あなたはあの場で殺しておくべきでしたね」

「そうしときゃ、こんな苦労はしなかった、ってか?」


 タローが無言でうなずいた。

 あの場がブドー村での一幕であるのは間違いない。

 そして、それは圧倒的に正しかった。

 あのときなら、おれの勝ちは万が一にもなかったはずだ。


「これでも私は、あなたを評価していたのですけどね」

「それは理解してるよ。じゃなきゃ、おれはここにいねえからな」

「なら、今一度慈悲を与えましょう。私の配下になりなさい」

「やなこったい」


 おれは胸の前で腕をクロスし、全身で拒否した。


「やはり、殺すしかありませんか。ラジさん、フジさん、マリアナ。やりますよ」

『応!』

「はっ」


 すぐさま全員が戦闘態勢に入った。


「あなたも手伝いなさい」

「断ル」


 にらむタローを気にする様子もなく、死神はかぶりを振った。


「ふざけているのですか?」

「フザケテナドオラヌ」

「では、契約を全うしなさい!」

「供物ヲ捧ゲヨ」

「ふざけるんじゃないよ! あんたにはあたしらの魔力をくれてやっただろ!?」


 タローだけでなく、ラジもイライラしている。


「アレデハ足リン。貴様ラノ願イヲ叶エルニハ、更ナル供物ガ必要ナノダ」

「ちっ、ほらよ」


 フジが前回と同じように、魔素の塊を魔方陣に投げ込んだ。


「足リン」

「馬鹿にすんじゃないよ!」

「コレヲ見ヨ」


 いきり立つ面々に、死神が鎌を突き出した。

 おれが蹴った個所に、ヒビ割れが確認できる。


「貴様ラガ捧ゲタ供物デハ、コレスラ回復デキン」

「これならどうだい?」


 ラジも魔素の塊を放り投げたが、死神の鎌は修復しなかった。


「謀っていませんか?」


 マリアナの視線が鋭くなる。


「ソウ思ナラ、貴様モ供物ヲ捧ゲヨ」


 無言で要求に応えた瞬間、死神の鎌が元通りになった。

 タイミングがよすぎて、逆に怪しい。

 おれでそう思うのだから、マリアナたちからしたら、なおさらだろう。


「直ったようですね。では、契約を全うしなさい」

「更ナル供物ヲ捧ゲヨ」

『!!!!』


 四人がブチ切れたのがわかった。


「死神などという低俗な神を信じた我らが間違いだったな」

「デハ、ドウスル?」


 仲間割れをしてくれるなら好都合だが、そう上手くはいかない気がする。


「殺してやるさ。セイセイを殺した後にね」

「クックックッ、出来ルトイイナ」


 死神の嘲笑を無視し、ラジが突っ込んできた。

 有言実行だから驚くことはないが、確認しておきたいことがある。


「なあ、タローがアキネってことでいいんだよな?」


 ラジとフジに動揺は見られないが、タローとマリアナはピクッと動いた。

 眉を動かすくらいの極小のモノであったが、たしかに反応した。


「お前は知らないのか?」

「知らないわけじゃないさ。ただ、アキネが外で名乗ってる二つ名に興味がないだけさ」


 受け止めた拳を、ラジが押し込んでくる。

 力比べでは勝てないと教えたはずだが、まだ理解していないようだ。


「まあ、あんたの本名なら聞いてやってもいいけどな」


 見た目ほど脳筋ではないらしい。

 下手くそではあるが、誘導尋問をするだけの知恵はあるようだ。


「セイス・セイドリクス。それがお前を倒す者の名だよ」


 ウソと一緒にラジを殴った。


「ぐあっ!!」


 大げさに吹き飛んだが、当たる直前に自分で飛び退いただけだ。

 カスるぐらいはしているかもしれないが、ダメージはないだろう。


「聞いたね。フジ、やっちまいな」

(アホなんだな)


 満面の笑みを浮かべるラジを見て、おれは心底そう思った。


「供物を捧げしフジが命ずる。セイス・セイドリクスを抹殺せよ」


 魔素の塊を再度放り投げるフジも、同じくらいアホらしい。


「グゥ~アッハッハッハッ! 主ラハ、度シ難イ阿呆ダナ」


 死神が腹を抱えて笑っている。

 同じ立場なら、おれもそうしているだろう。


「なにが可笑しい!?」

「ラジさんが訊き出したのも、偽名でしょう」

「まあ、あの状況で本名を語るバカがいるとは思えませんけどね」


 マリアナとタローは肩をすくめている。


「じゃあ、こうしようぜ。おれの質問に正直に答えてくれたら、本名を教えてやるよ」

「お、おい!? 兄ちゃん、本気か!?」

「おう。心配すんな」


 後ろから聞こえたアベルの声に、おれはひらひらと手を振って答えた。


「サラフィーネ様に誓えますか?」

「おうよ」

「いいでしょう。なにが知りたいのですか?」


 タローはおれとの取引に乗るようだ。


「ブドー村とダライマス盗賊団を壊滅させた理由は?」

「どちらも用済みでした」


 シンプルな答えだ。

 それだけに、納得はできない。


「清」


 一瞬タローが眉を寄せたが、すぐにそれがなんであるかに気づいたようだ。


「ブドー村は王都から一番近い村ですが、自然との共存を重んじる村民たちがいるせいで、村を貿易や防衛の拠点とすることが叶わないのです。彼らは再開発はおろか、聖法母団の騎士の駐在にも非協力的でしたからね」

(なるほど)


 なんとなく理解できた。

 聖法母団にとって、ブドー村は邪魔だったのだ。

 壊滅するのが手っ取り早いが、理由もなく実行すれば自分たちの名前に傷がつく。

 だから、ダライマス盗賊団を手駒にした。

 嫌われ者のゴロツキに罪をなすりつけたところで、だれからも非難の声はあがらない。

 むしろ、感謝されるぐらいだ。

 そして、資産没収だなんだと理由をつけて、ダライマス盗賊団の領地も手に入れる。

 結果、聖法母団は広大な土地に貿易と防塞拠点を築くことができるわけだ。

 セコイ方法だが、自分たちの宣伝にもなるのだから、上手いと評してもいいのだろう。


「私は答えました。次はあなたの番です」

「焦んなよ。ついでに、タローと名乗った理由も教えてくれよ。み」

「立場がありますからね。本名を名乗るわけにはいきません」


 最後に『み』をつけたのが、効果的だったようだ。

 アキネはすんなりしゃべってくれた。


「部下にやらせたほうが安全だろ」

「最初に躾が必要でしたからね。私とマリアナ以外では、苦戦する可能性もありました」


 純粋な力関係だけでいえば、他のシスターでも十分なはずだ。

 けど、大勢で動けば足が付く可能性もある。

 だからこそ、絶対的な戦力を持ち合わせる二人のどちらかが動くしかなかったのだ。

 ただ、マリアナは人気があって注目を浴びやすいという点において、大勢のシスターが動くのと大差がない。

 だから、変装を解いたアキネが暗躍したといったところか。


「じゃあ、これが最後だ。聖法母団の真の目的は?」


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