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91話 勇者対マリアナ

「おれが契約を結んだのは、ツベル・クリンとその家族! それだけだ!」

「そうですか。わかりました。では、あなたも処刑します」


 広場におれの宣誓が響き渡った瞬間、マリアナの目が据わった。


「話の飛躍がすげえな」

「そんなことはありません。犯罪者を断ずるだけです」

「罪状は?」

「暴行、傷害、王制への反逆とテロ組織への加担。細かく挙げればまだまだありますが、すべて言いましょうか?」

「いまので十分だよ」


 とどのつまり、聖法母団が罪だといえば、すべてが罪になるわけだ。


「なら、裁きを受けなさい! ホーリーショット」


 マリアナの放ったそれは、ほかのシスターたちが放つ上級魔法と同等に思えた。

 威力も同等なら問題ないが、上回っている可能性は十分にある。


「フォールシールド」


 念のために張った盾が、霧散した。

 唯一の救いは、光の矢も消滅してくれたことだ。

 けど、あれがマリアナの最高攻撃魔法であるはずがないわけで……


「う~ん。ピンチかもしんねえな」


 背中を冷たい汗が伝う。

 盾が役に立たない可能性があるのだから、ツベルたちを解放し逃がすのが先決だ。

 けど、現状マリアナ以外は脅威ではない。

 なら、盾を維持しつつ戦闘を進めることも選択肢の一つとして残しておくべきだろうか。

 悩むところだが、悩み続ける時間はなかった。


「フォールシールド」


 結局のところ、ツベルたちの残された体力や魔素が知れない状況で、賭けに出ることはしたくなかった。

 かといって、盾も心許ない。

 なら、二重三重に施しておこう、と、結論付けたわけだ。


「それでどうにかできるつもりですか?」


 マリアナを取り巻く魔素のオーラが集約されていく。


(あれはヤバイな)


 二日間の練習でわかったことだが、魔法の威力は魔素の多さというよりは、魔素の圧縮が出来るかどうかが肝のようだ。

 見た目派手でも、中身が薄ければ大したことがない。

 けど、マリアナが撃とうとしているモノは真逆だ。

 ものすごい圧力で凝縮された魔素の塊を、生み出している。

 あれを前にすると、おれの張り巡らせた盾は児戯だ。


(さて、どうしたもんかな)


 ……悩みたいが、悩めるほどの選択肢は持ち合わせていない。

 おれが盾になるしかなかった。

 頭の中で、おれ自身を取り巻く魔素を叩く。

 薄くなった箇所に再度魔素を展開し、その都度叩いて強度を増していく。

 慣れた者ならなんなくできるのであろうが、おれはこのように具体的にイメージしなければ体現できない。


「女神による裁きを受けなさい。ホーリーブロウ!」


 マリアナの撃ったそれは、光の大砲だった。

 射出速度と弾の大きさが、とんでもないことになっている。

 盾になるとはいったが、正面からぶつかればおれを貫いた後、ツベル、アベル、ニコルを粉々にするだろう。


(魔法はイメージ)


 なら、可能なはずだ。

 新たに生み出した魔素をぎゅっと圧縮する。

 機械でプレスするように、力のかぎりやり続ける。

 ボッ、と火が灯った。

 多少の齟齬はあるが、いわゆる圧縮法といわれる火の起こしかただ。


「ファイヤーショット!」


 迫りくる光の大砲に、撃ち出した炎を斜め下の方向からぶつけた。


「無駄です」


 言われなくても、そんなことは百も承知だ。

 相殺はおろか、威力を弱めることすらできないだろう。

 けど、目的は果たしている……はずである。


「フォールシールド」


 再度、鉄を叩くように強度を増した魔素を使い、掌より少し小さい盾を展開した。


「上手くいってくれよ」


 期待八割、信頼二割で、おれは盾を光の大砲にぶつけた。

 けど、真正面からやったわけじゃない。

 ファイヤーショットと同じように、斜め下から押し上げるように挑んだ。


「おっも!」


 思わず声が出てしまった。

 上空に受け流すつもりだったが、想像以上に手強い。

 ファイヤーショットで多少なりとも方向を変えたようと試みたのだが、出来ていなかったかもしれない。


「これイケる!?」


 疑心暗鬼になりそうになるが、魔法で大事なのはイメージである!


「やればできる!」


 自分に言い聞かせた。


「きっとできる!」


 言葉を重ねるが、心は正直なもので、盾にヒビが入っていく。


「ダメかもしんない」

「あんちゃん! 頑張れ!」


 後ろから、アベルの声がした。


(イカンイカン)


 諦めるところだった。


(おれはなんのためにここに来た?)


 ツベル、アベル、ニコルの三人を、ニナが待つ家に帰すためだ。


「約束したもんな!」


 契約書は交わしていない。

 けど、ツベルとは留守を預かるという約束をし、先払いで硬貨の入った布袋も受け取った。

 成すべきことと報酬の受領が行われたのだ。

 イレギュラーではあるが、契約とみなしてもいいだろう。


(なら、順守する! それが、フリーランスであるおれの矜持だ!)


 心の奥から沸きあがるモノがあった。


「でりゃぁぁぁぁ!」


 盾を押し上げた。

 バキバキッという音と同時に粉砕されたが、弾道を逸らすことには成功した。


「きゃああああ」


 刑場の斜め後ろに流れ弾が着弾し、巻き込まれた見物人が悲鳴をあげる。


「嘘でしょう!?」


 茫然とつぶやくマリアナ。

 ここがチャンスだ。

 一気に間合いを詰める。

 格闘戦なら、おれに分があるはずだ。

 少なくとも、魔法の撃ち合いよりはいくらかマシである。


「くらえ!」

「あっ!?」


 おれの放った拳に気づいたようだが、もう遅い。

 回避も迎撃も間に合わない。


「やらせはしないよ」


 マリアナの顎を撃ち抜こうとしていたおれの拳が、突如現れた大女によって受け止められた。

 その姿には見覚えがあった。

 謁見の間にいた、風神雷神のような貫禄を伴った女性である。


「あたしの名はラジ。今度はあたしが相手をしてやろうじゃないか」


 獰猛な笑みを浮かべての参戦だ。


(マジで勘弁してくれよ)


 心からそう思うが、戦いの火蓋は切って落とされた。


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