表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/339

閑話 勇者と女神と誰かのエトセトラ

読み飛ばしてもらって構わない話です

「勇者よ。エンターテイメントを解さない勇者よ。少しいいですか」


 サラフィネが回顧するおれを、再び呼び戻した。


「なにかな?」

「回想……永くありません?」


 ぐうの音も出ない。


「大魔王が邪竜だったときは、正直驚きました。だって、舞台は森の迷宮ですよ? 件の異形の邪神を出すには、最適じゃないですか」


 仰る通りだが、出てこなかったモノはしかたがない。


「あれじゃね? あのときはまだフォールシールドはおろか、魔法自体使えなかったしな。おれ」


 出来ないはずのことをすれば、世界観が狂い物語が破綻してしまう。

 道中で魔法を覚えるという手段もあったが、その選択肢はなかったような気がする。


(なぜだ。なぜおれはこんなことが理解できるんだ?)


 自分が自分じゃなくなるような感じが怖い。


【問題ない。そして、清宮成生。君に非はないから、安心しなさい】


 聞き覚えがあるようでない声が、脳内に響いた。


【あれはこちら側のミスだ】

「それは聞き捨てなりませんね。具体的にお聞かせください」

「ちょっと待て。この声って、サラフィネにも聞こえてんの?」

「当然です」

「そ、そうなんだ」


 不思議な状況に混乱するが、そう感じているのはおれだけのようだ。


「早く説明してください」

【焦らずともそうする】


 サラフィネと謎の声は、淡々と話を続けている。


【清宮成生が二つ目の異世界に転移した時点で、こちらは異形の邪神に繋げるにはどうしよう? ではなく、入れたい小ネタがあるんだけど、どう紛れ込ませようかな。の一念に思考を支配されていた】


 それはよくない。

 そんな感じだから、おれが苦労する羽目になるのだ。


「抗議とともに、謝罪を要求する!」


 プラカードは持っていないが、持っている感じで両手を突き上げた。


【それはできない。なぜなら、なんだかんだで、無事冒険は終えたからだ】

「ですが、綺麗な進行と決着には程遠かった、のではありませんか?」

「いいぞ、サラフィネ。もっと言ってやれ!」

【それも問題ない。紆余曲折があったからこそ、得た物もある】

「具体的にお答えください」


 サラフィネの追及は止まらない。

 グイグイ攻め込んでいく。


【それは言えん】

「なぜですか?」


 敏腕弁護士のように質問を重ねる姿は、頼りがいがあった。


(これはもう、こちらの勝ちは揺るぎようがないな)


 そう確信した矢先……


【こちらにも都合がある。女神(きみ)と同じようにな】


 謎の声が意味深なセリフを吐いた。


(バカだなぁ)


 そんな曖昧な物言いで、敏腕弁護士を躱せるわけがない。


(イケッ!)

「そうですか。では、仕方がありませんね」


 おれの心中の発破はあっさりと無視され、サラフィネはそそくさと引き下がってしまった。


「待て待て待て。お前らだけで話を進めるな。ちゃんと説明をしろ」

【それはできない相談だ】

「ええ、わたしも同感です」


 ダメだ。

 こちらに就いていたはずの敏腕弁護士が、鞍替えしてしまった。


「いや、そこをなんとか頼むよ」


 両手をすり合わせ拝み倒すが、


【駄目だ】

「ダメです」


 にべもない。


「じゃあ、もういい! おれもボイコットする!」


 サラフィネに背を向け、おれは床に横になった。


「仕方がありませんね。勇者がそういう態度を取るのなら、わたしにも考えがあります」

(どうするつもりだ?)


 怖くて訊けないが、おれは全神経を後ろに集中した。

 ………………なにかが起こりそうな気配はしない。

 …………全然しない。

 ……まったくしない。

 根負けしたおれは、チラッと後ろに視線を送った。


「マジかよ!?」


 サラフィネが優雅にお茶を飲んでいる。


「ですから、ここはこうしたほうがスムーズな進行になるはずです」

【言いたいことはわかるが、それでは盛り上がりに欠けるのではないか?】

「ご安心ください。その分、勇者に苦労させればよいのです」


 聞き捨てならないセリフだ。


【なるほど。その手があるか】


 謎の声よ。

 お前も納得するんじゃない。


「では、それでいいですね?」

【うむ。異論ない】

「あるわ! ボケッ!」


 起き上がったおれは、走り寄って机を叩いた。


「急になんですか!? 大きな声を出さないでください」


 サラフィネが心底イヤそうな表情を浮かべる。


「ごめんごめん。なんて言うわけねえだろ。大体、お前の発言のほうが、問題大アリだろうが」

「はて? なんのことでしょう?」

「勇者に苦労させればいいって言ったでしょうが!」


 なぜかはわからないが、おれの脳裏には黒板五郎(くろいたごろう)が浮かんでいた。


「年がバレますよ?」

「やかましい。それより、先の発言を撤回してもらおうか」

「もう無理みたいですよ?」

「いや、なにを他人事みたいに言ってんだよ? お前自身の発言だろうが」

「わたしの発言の話ではありません」


 話がかみ合っていない。

 サラフィネはなにを言っているのだろうか?


「わたしが言っているのは、第三の異世界での話です」

「ああ、アレな。結構大変だったよな」


 ……んん!? まさか。


「お気づきのようですね。その通りです。大変さを増したのは、あなたの冒険の記録です」

「バカ野郎! なんてことしてくれてんだ」

「勇者よ。取り乱すのはまだ総計です。きちんと確認しましょう」

「おっ、おお、そうだな」


 頼むぞ! 平穏に終わってくれ! そして、無事に帰ってこいよ! おれ!


少し後にもう一本投稿します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ