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49話 勇者は見た……穴から出てきた竜を

「いよっと」


 着地と同時に、おれはもう一度宙に跳んだ。


「どれどれ」


 上空から現状を再確認するため、目を凝らす。

 森の中央に、大きな穴が開いている。

 穴はいまだ拡張中で、周辺の地盤を消失させながら、樹やモンスターを呑み込んでいる。


(……いや……違う……のか?)


 違和感を覚えた。

 穴はたしかに開いていて、拡張もしている。

 けど、そのスピードが遅い。

 初めが重機で掘っていたとするならば、いまは人力作業といった感じだ。


(拡張スピードが、数秒前と比べてぐんと落ちたな)


 距離はあるが、それは間違いない。

 なのに、いまも樹やモンスターが、絶え間なく呑み込まれている。

 穴の拡張と、そこに落ちる物体の数が合わない。

 動けない樹はともかく、走って逃げられるモンスターが、あれほど落ちるはずがなかった。


(ひょっとして……中にいる魔王が、周囲のモノを吸い込んでる……のか?)


 可能性としては考えられるが……なんのために? という疑問が湧き上がる。

 第一、上から物が詰まれば、下にいる魔王は出にくいはずだ。


(あえてそれをする理由があるんだよな? あるとすれば、理由はなんだ?)


 自己紹介を兼ねた破壊の挨拶。

 悪の帝王による殺戮ショー。

 魔王はまだ完全体じゃないから、魔物を吸収したい。


(ダメだな)


 少年漫画みたいなことしか、思い浮かばない。


(……考えてもわからないなら……行くしかねえか)


 そこに答えがあるのだ。

 不測の事態も考えらるが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、でもある。

 そしてなにより、後始末をつけるのは、おれの仕事だ。


「よし。行くか」

「ガアアア」


 覚悟を決めたおれの耳に、聞き覚えのある咆哮が届いた。

 はらわたに響く強烈な叫びをあげるのは……たぶんあいつだ。


「蘇ったみたいだな」


 予想は的中し、森の中からロナウドが飛び出してきた。


「マジかよ!?」


 もともとデカかったロナウドの体が、さらに二回りぐらい大きくなっている。

 肉の厚みもすごかった。

 手中にある大きな針葉樹が、小さな槍に見えるほど逞しい。

 こうなるともう、モンスターではなく怪獣だ。


(マジでキングコ●グだな)


 見た目は瓜二つの怪獣が、おれをにらみつけている。

 瞳だけでなく、全身から憎悪の炎がメラメラと燃え盛っている。

 蘇ってすぐ、おれを見つけて飛び上がったのかもしれない。


「ガアアアア!!」


 ()る気満々だ。


(魔王の前に、またロナウドと戦うのか)


 …………


「めんどくせえなぁ」


 本音が漏れてしまった。

 ただまあ、距離も離れているし、声も小さかったから大丈夫だと思う。


「面倒なのは、我も同じだ」

(ヤバイ)


 ちゃんと聞こえていた。


「今すぐ殺してやりたいが……」


 ロナウドが歯噛みした。

 よほど悔しいのか、あごからギリギリと音が鳴っている。


「貴様を殺すのは後だ。今は、より面倒な方を始末する」

「より面倒なほう!?」


 ベイルや甲冑騎士が思い浮かんだが、ロナウドが二人と闘っているとは思えない。


「だれのことを言ってんだよ?」


 …………

 答えはなかった。

 それどころか、視線も合わない。

 ロナウドが見据えているのは……穴だ。

 鬼の形相でにらんでいる。


(意味がわかんねえな)


 魔物たちは、魔王を復活させるために、活動していたはずだ。


「ガアアア!」


 穴にむかって針葉樹を投げつけるロナウドからは、魔王崇拝の気配は一切感じられない。

 というより、敵意しかなかった。

 ドンッというものすごい衝撃と音を生み、穴に針葉樹が突き刺さる。

 目覚めの一撃、などという生易しいレベルではない。

 確実に穴の中にいるなにかを殺す、もしくは粉砕しようとしていた。


「総員! 進撃せよ!」

『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


 ロナウドの気勢に反応するように、森からモンスターの叫び声があがる。


「どういうことだよ!?」


 落下するおれは、首をひねることしかできなかった。


「あいつらは、魔王のために働いてるはずだよな?」


 そう聞いていたが、違うのかもしれない。


「勇者様」

「なにが見えた。説明してくれ」


 着地したおれのもとに、ワァーンと甲冑騎士が駆け寄ってきた。


「う~ん」


 どう言ったらいいかわからず、おれは腕を組んでうなった。

 説明しようにも、おれ自身が理解できていない。


「わりぃけど、ちょっと待ってくれ」


 おれは三度、上空に跳んだ。

 地面に降りたロナウドが、穴にむかって進軍している。

 周りの樹々が揺れているので、部下たちも追従しているのだろう。

 そこから考えられることは……穴から出てくるのは、魔王ではない。


「……じゃあ、なにが出てくんだよ?」

「グゥルァァァァァァァァァァァアアア」


 答えは竜だった。


「怯むな! 殺せ!」


 モンスターたちが鋭利な牙や爪を、竜に突き立てる。


「グゥルァァァァァァァァァァァアアアアアアアアア」


 竜が吠えたその声は、とても不機嫌そうだった。

 わからないでもない。

 硬い鱗に守られてダメージはなさそうだが、自分に対して執拗に繰り返される攻撃は、煩わしいものだろう。


「竜神様なのか?」


 それなら、モンスターが攻撃している意味が解る。

 けど、あそこから出てくるのは、魔王であるはずだ。

 矛盾する出来事に、頭がこんがらがる。


「ああもう! 世の中わからないことだらけだな!」

「グゥルゥァァァァァァァアアアアアア」


 吠えた竜がモンスターを捕食しだした。

 すべてを呑み込みそうな勢いだ。


「ああ、これはあれだ。魔王も竜だったってオチだな」


 その姿は、まさに災厄だ。


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