43話 勇者は五の村のご神木を伐り倒す
「五の村に案内して」
「わかりました」
森に入ると、すぐにワァーンの案内が始まった。
「右です」
「左です」
相変わらずよどみがない。
スイスイ進む。
順調ではあるが、もどかしくもある。
(直線で行けるんだよなぁ)
ただ、こればかりはどうしようもない。
一の村のことを考えると時間は惜しいが、森を破壊されたくないワァーンの気持ちも理解できる。
折衷案ではないが、一生懸命走ることに集中しよう。
「おっ!?」
村が近づいている。
けど、空から見たモンスターの群れが道を塞いでいた。
「ワァーン。この先に五の村があるよね?」
「はい」
「なら、ここまででいいよ。この先はモンスターの群れに突っ込むからさ」
「私も行きます!」
足を止めワァーンをおろそうとしたが、断固拒否された。
「手がふさがってると戦えないのよ」
「では、おぶってください」
これは困った。
ワァーンをおぶるのは簡単だが、振り落とさないように加減して動くのは簡単じゃない。
その状態でモンスターに圧勝できるかもわからないし、探り探りではどうしたって時間がかかる。
タイムリミットがある現状、可能なかぎり戦闘に時間をかけたくない。
けど、ワァーンが傷つくのも本意ではない。
(説得は……無理だな)
引く気はなさそうだ。
強く訴えかける眼差しが、一緒に行く、と主張している。
(どうすっかな)
と、悩んでいる時間も惜しい。
「ここから五の村までどれくらい?」
「あのモンスター群の少し先です」
なら、いけるかもしれない。
「おれにしがみついて」
「はい!」
ワァーンの両腕がおれの首に巻かれた。
「振り落とされないように、身体ごとしっかり密着して」
いままではお姫様抱っこの形だったが、それを木にしがみ付くコアラスタイルに変更だ。
顔を赤らめながらも、両足でおれの腰を強くホールドしたワァーンの腰に手を回し、体が密着するように支える。
両者を縛るひもがあればなお安心だが、無い物ねだりをしても、しかたがない。
(ほんのちょっと心許ないけど、後は臨機応変。出たとこ勝負だな)
短い距離を全力で助走し、跳躍した。
「きゃっ」
ワァーンが小さく悲鳴を上げ、おれを掴む手足に力を込める。
(ナイス! これで振り落とす危険性は、さらに低くなったな)
要は走り幅跳びの応用で、モンスター群を越えようと思ったのだ。
高さと飛距離は問題ない。
「ケアアアア」
そう思った矢先、鳥が襲ってきた。
ネイに似ているが、ネイよりは二回りぐらい小さい。
「勇者様!」
ワァーンも気付いたようだ。
「大丈夫。安心して。風波斬」
「ケアアア」
斬撃が鳥を屠った。
それからも二、三羽襲ってきたが、問題ない。
楽勝だ。
すでに降下も始まっているし、後は着地するだけだ。
予想通り、モンスターの群れも飛び越えられた。
着地場所も、五の村の広場だ。
「お前、なにしてんだ!?」
空を飛ぶおれたちに、最前線で戦っていたベイルが気づいた。
「前見ろ。敵が来てるぞ」
「うるせえ!」
善意で教えてやったのに、叱責された。
(まあ、ベイルからしたら、雑魚だろうしな)
よそ見のうちに入らないのだろう。
そうこうしている間に、地面が近づいてきた。
「あらよっと」
自分で言うのもなんだが、見事な着地だ。
「ワァーン。なんでこんなところに来た。バカ野郎」
「救援に来てくださったのですか?」
六の村と五の村の村長が、すぐに駆け寄ってきた。
「二人の相手よろしく」
首に巻かれた腕を解きながら、地面に立たせたワァーンの背中を押す。
「勇者様!?」
「巻き込まれたくなかったら退避しろ!」
戦場にむかいながら、おれは声を張り上げる。
「言っとくが手加減はしないからな。巻き込まれたら死ぬぞ!」
漆黒の三連星を屠ったおれの登場に、村人たちは戦場を離れていく。
(いい反応だな)
これで心置きなくやれる。
「風波斬!」
モンスターの群れに、特大の一撃を放った。
ワァーンや地元民には悪いが、おれは森ごと一群を粉砕した。
あまりの威力に村人もモンスターも呆気にとられ、動きを止めている。
「てめえ、ふざけんじゃねえぞ!」
ベイルだけは正気で、文句を言ってきた。
風波斬もしっかり避けたようだし、さすがは勇者だ。
(まあ、知ったこっちゃねえし、文句を言われる筋合いもねえけどな。おれは、ちゃんと避けろと事前通告したしな)
相手をしてやる義理もないが、
「ベイル。後ろ後ろ」
危機は教えてあげよう。
「わかってるよ」
振り向きざま、ベイルが襲ってくるモンスターを斬り伏せた。
(やっぱ強いな、こいつ)
これなら、ここは任せてもいいだろう。
「んじゃ、おれやることあるから行くわ。たしか……あっちだったよな」
うろ覚えだが、ここに来たのは初めてじゃない。
「駄目です! 勇者様」
おれが確認した進行方向で気づいたワァーンが、両手を広げて進路を塞いだ。
(勘がよろしいようで)
ただ、残念ながら、それには従えない。
「風波斬」
さっとワァーンをかわし、おれは剣を振るった。
放たれる斬撃。
『ああっ!!』
おれの標的がなんなのかを察し、みなが悲鳴に近い叫び声をあげた。
「ご、ご神木が……」
膝からくずおれる村長たちに同調するように、ご神木が根元から倒れた。