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35話 勇者対黒い人

「風波斬!」


 側面からの奇襲に、モンスターの群れに動揺が走った。

 しかし、最前列から遠く暴れられない連中にとっては、おれが現れたのは好都合らしい。

 隊列もなにも関係なく、我先にと襲いかかってきた。


「ちっ」


 乱戦は覚悟していたが、モンスターの知能がこれほど低いとは思っていなかった。


「グルアアアア」


 吠えながら、口からエネルギー波を放つヤツまでいた。

 射線に仲間がいても関係なく、おれもろとも殺す気だ。

 同士討ちもなにも関係ない。

 ただ本能に従い、力を振るうだけだ。


(マズイな)


 下手に止まれば、四方八方から攻撃される。

 それを防ぐ手立てはただ一つ。

 前進あるのみだ!


「風波斬!」


 全力で放った斬撃で道を開き、そこを突き進む。


「でりゃりゃりゃりゃ」


 すれ違いざまに屠れるモンスターは一掃する。

 剣が届く範囲は直接。

 届かない範囲は風波斬で。

 一匹でも多く数を減らすのと同時に、おれが攻撃対象だと認識させる。

 それが、だれかの延命に繋がるはずだ。


「風波斬! 斬! 斬! 斬! 斬!」


 道を切り開き、ひたすら前に進む。


「風波斬」


 何度か繰り返し、一回の風波斬で倒せるのは、精々十匹がいいところだとわかった。

 そして、自分の読みが外れていたことも。

 モンスターの数は多くても一〇〇〇に届かない、と高をくくっていたが、それを越すのは間違いない。

 倒しても倒しても一向に減らないし、三の村も見えない。


(進む方向を間違えたかな?)


 景色が変わらないことが不安だ。

 それに、モンスターの種類が変わってきているのも気になる。

 最初は知能の低い動物の変異種みたいなのが主流だったが、いまは人型の魔物が混在している。

 風貌は仮面ラ●ダーに出てくる雑魚、もしくは、推理漫画に出てくる黒い人だ。


「騒がしいぞ」


 ライ●―に出てくる雑魚が、振り向きざまにしゃべった。

 キーッとは鳴かないらしい。

 一抹の寂しさを感じながら、おれは雑魚を斬り伏せた。


(にしても、数が多いな)


 いまはまだ元気だからいいが、逃げの一手を選んだときに、体力が尽きている可能性もある。


(失敗したかな?)


 ふっと浮き上がる考えを振り払うように、風波斬を放った。

 弱気だったこともあり、威力も抑えめになってしまった。

 常時十匹前後を屠っていたのに、いまは眼前の二匹を倒すのがやっとだ。


(イカンイカン。気持ちで負けちゃ駄目だ)


 心が折れれば、心技体のすべてが衰える。

 それは地球で経験済みだ。


(こちとら、デスロードには馴れっ子なんだよ)


 やってもやっても終わらないのは、いまに始まったことじゃない。

 そして、それをこなしてきたからこそ、いまがある。


「頑張れ! おれ!」


 応援が力になる。

 それが自分自身によるものでも。


「風波斬!」


 力を込めて放った斬撃が、推理漫画に出てくる黒い人に命中した。


「イテェ! だれだ!?」


 リアクションは漆黒の三連星と同じである。

 けど、あのときの風波斬は威力が弱まっていた。

 こいつは、万全の一撃で倒せなかった、初めてのモンスターだ。

 注意深く観察すれば、全身タイツっぽい雑魚とは違い、黒い人はなめらかなインクを使用したような光沢がある。

 それが個々の強さと比例するかは謎だが、気を引き締めるべきだ。


「人間が、なんでこんなとこにいやがる」


 黒い人と目が合った。

 不謹慎極まりないが、目と口だけが認識できる姿は、ちょっとワクワクしてしまう。


「犯人はお前だ!」


 脈絡も意味もないが、どうしても言いたかった。


「ああっ!?」


 黒い人が表情をしかめた。

 残念ながら、犯人ではないようだ。


「一人敵陣に乗り込んだってところか? ザケんじゃねえぞ!」


 怒髪天を衝くとは、こういうことなのだろう。

 黒くてわかりにくいが、丸い頭頂部からトサカのようなものが生えた。


「ネイ! マール!」


 サッカー選手を呼んだのかと思ったが、違うらしい。

 異変は空と地面から伝わってくる。

 樹と大地も揺れている。

 その原因は滑空する全長二~三メートルぐらいのコンドルと、地面を突き破って出てきたミミズだ。

 こちらも二メートル以上はある。

 穴から全身が出ていないから、全長はその倍以上かもしれない。

 想像したら、ブルッと背筋が震えた。

 コンドルはともかく、ミミズのほうは気色悪い。

 斬ったら、変な色の体液が漏れてきそうだ。


「風波斬」


 近寄りたくないから、風波斬を放った。


「ケアアアアア」


 ネイが鳴き、翼を羽ばたかせた。


(……鳥がネイで合ってるよな?)


 などとくだらないことを考えてしまったが、それどころではない。

 風波斬とネイの生み出した突風がぶつかり、互いを消滅させた。


「がははははは。いいぞ、ネイ」


 黒ずくめが鳥を撫でる。


(よかった。間違っていなかった)


 正解にほっとしたが、そんな場合ではない。


(必殺技が無効化されちまったな)


 完全に使えなくなったわけではないが、ネイをなんとかしてからでないと、効果は薄いままだ。

 となれば、最初に仕留めるべきはネイである。

 ちょうど地上付近にいることだし、都合がいい。


「だりゃぁ」


 打ち込んだ袈裟斬りを阻むように、マールがおれとネイの間に体を割り込ませた。

 盾になるということは表皮が固いのかと思ったが、そうではなかった。

 簡単に真っ二つに斬れた。

 ドシンッという音を立て、マールが地面に横たわる。

 順番は違うが、これはこれでアリだ。

 予想通り体液は緑色をしていたが、量はそれほどでもない。

 飛び散ることもなければ、かぶることもなかった。


(マジでよかったな)


 これで安心して、残りをやっつけられる。


「くそがっ! よくもマールを!」


 日本刀のような形状の剣を大上段に構え、黒い人がむかってくる。

 速度は大したことない。

 問題は技の威力だ。


「くらえ!」


 振り下ろされた斬撃も遅かった。

 避けるのもカウンターを取るのも、容易だ。


「ケアアアア」


 ネイが鳴き、風を起こした。


 !!!!


 完全に油断していた。

 吹き付けた強風に、バランスを崩された。


「死神灯篭!」


 それとは反対に、備えのあった黒ずくめの斬撃は加速する。

 追い風をブースト代わりにしたわけだ。

 急な速度変化に対応できない。

 カウンターは無理だ。


「ちっ」


 回避動作に入ったが、バランスを保つために踏ん張った足は、容易に動かない。

 強風も行動を阻害している。


「もらったぁ!」


 切っ先が目前に迫る。

 四の五の言っている場合ではない。

 やらなければ死ぬ。


「ふんぬぅ」


 歯を食いしばり、上体を横に倒した。

 最優先は、頭を護ることだ。


(イテェ!)


 脳天直撃は避けられたが、左肩が削られた。


(鎧があってよかった。マジでよかった)


 無ければ、左腕が落とされていたかもしれない。

 背筋が凍るとはこのことだ。


(感謝! サラフィネ、マジ感謝! でも、今度は盾ももらおう)


 そう心に決め、おれは敵から距離を取った。


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