最終話 フリーランスの勇者
「転生先の希望はありますか?」
第一候補は地球だろう。
けど、そんな無難な選択はしたくない。
(どうせなら、違う人生がいいよな)
剣と魔法の世界はどうだろう。
(お腹いっぱいだな)
勇者として、十分に味わいつくした。
一般市民ならいろいろと違うのだろうが、やることに変わりはない。
(んじゃ、思い切ってSFか)
ガン●ムのようなロボットを操縦するのは、悪くない。
けど、現状の興味だけでいうなら、設計や開発のほうが好きだ。
(いろいろイジくり回して、魔改造してみたいよな)
白い悪魔を、ゴッドやフリーダムに進化させてみたい。
(でも、ロボットがあるとはかぎらねえしな)
ウルト●マンも立派なSFだ。
(変身か……)
捨てがたい。
宇宙を救うとかはどうでもいいが、巨大化してのプロレスには心躍る。
(でも待てよ)
それでいうなら、漫画もアリだ。
(キン●マンなんて、最高だよな)
プロレスというエンターテイメントの極致である。
知識も持ち合わせているのだから、すべての技を再現できるかもしれない。
(ヤベェな。胸熱だ)
興奮冷めやらないが、ここは冷静になるべきだ。
たった一度の転生を、テンションで決めてはいけない。
(やっぱアレだよな。ドラゴン●―ルも捨てがたいよな)
子供のころに撃てなかった必殺技に、トライするべきかもしれない。
「か~め~●~め~波ッ!」
撃てた。
正確にはレーザーショットだが、突き出した手のひらから光線が出たので、満足だ。
あとは竜の神様に願いを叶えてもらうわけだが、正直興味がない。
願いや未来は、自分でどうにでもなる。
(ってなると、アレしかねえか)
人生で一番、影響を受けた主人公。
「都会のスナイパーだな」
「長々と妄想していただきましたが、それは無理です」
「なんでだよ!?」
「転生場所は選んでもらってかまいませんが、特定のだれかに生まれ変わることはできません。そして、それが架空の人物であるのなら、尚更です」
もっともな意見だ。
「お忘れかもしれませんが、記憶も引き継げませんよ」
たしかに、それも言われた覚えがある。
(マジで時間の無駄だったな)
いろいろ考えたが、どれもダメだ。
(それによく考えたら、都会のスナイパーは地球に転生する、ってことだよな)
一番最初に否定したことを、実行しようとしていた。
(イカンイカン)
冷静なつもりだったが、テンションは爆上がりだったらしい。
(ひとまず、落ち着こう)
深呼吸を繰り返した。
(うん。もう大丈夫だな)
頭もスッキリした。
………………
「ねえな」
冷静になればなるほど、その結論に行き着いた。
「では、わたしが選んでもよろしいですか?」
「おうよ」
「辛く厳しい世界かもしれませんよ?」
「どんな環境でも、楽しいことは存在するよ」
ワァーン、ツベル一家、ユウキたちが脳裏に浮かんだ。
そしてそこには、アマメの姿もあった。
「っと、そういえば、アマメの蘇生はどうなった?」
「ご安心ください。彼女の蘇生はすでに完了しています」
サラフィネが空中にスクリーンを顕現させた。
そこには牧歌的な村と、赤子を抱いた一組の男女が映し出されている。
「あの子がアマメか」
安らかな寝顔だ。
優しい表情を浮かべる両親もいい人そうだ。
今度こそ、幸せな人生を送れることだろう。
「よかったな」
おれに応えたわけじゃないが、アマメが小さくうなずいた。
「あの世界はすべてが安定しており、長らく戦火に包まれた過去がありません。そして、それはしばらく続くでしょう」
最高だ。
「同じ場所を選ぶことも可能ですよ?」
おれはかぶりを振った。
「ないとは思うけどよ。万が一、再会したら大変だろ」
漫画や小説のように、記憶が蘇るかもしれない。
「そんな心配はいりません」
「だとしても、遠慮するよ」
おれのような偏屈な人間は、過度に満たされた場所にいてはいけないのだ。
幸せすぎて、それがイヤになってしまうから。
適度な不幸があるからこそ、そのありがたみを尊べる。
「難儀な人生ですね」
「お前に言われたくねえよ」
残された仕事を考えれば、神界にいることだって幸せとはかぎらない。
「まったくです。はあぁ、これもそれも、すべて勇者の責任です」
「ふざけんなよ。元凶はお前だろうが」
「それもそうですね。ですが、わたしだけが不幸なのは気が収まりません。ですから、勇者にも相応の場所に転生してもらいます」
「八つ当たりだろ」
「問題ありません」
話し合いの余地はなさそうだ。
「わかったよ。そこでいいよ」
「本当によろしいのですか?」
サラフィネは、驚いたようにまばたきを繰り返している。
「まあ、なんとかなんだろ」
大魔王を倒す者。
畑を耕し作物を作り続ける者。
国の政治を動かす者。
漁業に励む者。
犯罪を犯す者とそれを取り締まる者。
どの人生も大冒険だ。
そこには神界の女神だって加わるし、フリーランスのIT屋だって例外じゃない。
「生まれた場所で、精一杯生きるだけだ」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
「ああ。だから、どこでいいよ。サラフィネが選んだ場所ならな」
「わかりました。では、転生します」
足元に魔法陣が生まれた。
「おっ!?」
鎧と手甲足甲が消えた。
「竜滅刀をこちらへください」
「ありがとうな」
感謝と労いの意味を込め、一撫でしてしながらサラフィネに渡した。
別れを惜しむように、竜滅刀がカタカタ音を鳴らしている。
「その場で跪き、目を閉じてください」
言われた通りにすると、おでこにキスされた。
「勘違いしないでくださいね。今のは女神の祝福を授けただけです」
ここにきてのツンデレは意味がない。
だから、言葉通り、祝福をくれたのだろう。
もしかしたら他意があるかもしれないが、追求するのは野暮だ。
未練を残した別れにはしたくない。
立ち上がり、おれはサラフィネと目を合わせた。
「サンキュー」
「こちらこそ、ありがとうございました。清宮成生とはこれでお別れですが、次の人生を存分に謳歌してください」
「おうよ。今度は布団上で死んでみせるからな」
「そうなることを、わたしも願っています。では、いってらっしゃい」
サラフィネの笑顔を最後に、おれの体は神界を離れた。
(契約完了だな)
満足のいく結果だ。
胸に広がる達成感も心地よい。
「あとは、次のおれに任せるか」
なんにでもなれるし、どこにでもいける。
それだけは間違いない。
「おぎゃぁ、おぎゃぁ」
世界のどこかで、産声があがった。
これにて完結です。
お付き合いいただいた皆様に、感謝申し上げます。
ありがとうございました。
そして、最後の記念に書かせていただきます!
ブクマ、ポイント評価、いいね、よろしくね!