表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

339/339

最終話 フリーランスの勇者

「転生先の希望はありますか?」


 第一候補は地球だろう。

 けど、そんな無難な選択はしたくない。


(どうせなら、違う人生がいいよな)


 剣と魔法の世界はどうだろう。


(お腹いっぱいだな)


 勇者として、十分に味わいつくした。

 一般市民ならいろいろと違うのだろうが、やることに変わりはない。


(んじゃ、思い切ってSFか)


 ガン●ムのようなロボットを操縦するのは、悪くない。

 けど、現状の興味だけでいうなら、設計や開発のほうが好きだ。


(いろいろイジくり回して、魔改造してみたいよな)


 白い悪魔を、ゴッドやフリーダムに進化させてみたい。


(でも、ロボットがあるとはかぎらねえしな)


 ウルト●マンも立派なSFだ。


(変身か……)


 捨てがたい。

 宇宙を救うとかはどうでもいいが、巨大化してのプロレスには心躍る。


(でも待てよ)


 それでいうなら、漫画もアリだ。


(キン●マンなんて、最高だよな)


 プロレスというエンターテイメントの極致である。

 知識も持ち合わせているのだから、すべての技を再現できるかもしれない。


(ヤベェな。胸熱だ)


 興奮冷めやらないが、ここは冷静になるべきだ。

 たった一度の転生(チャンス)を、テンションで決めてはいけない。


(やっぱアレだよな。ドラゴン●―ルも捨てがたいよな)


 子供のころに撃てなかった必殺技に、トライするべきかもしれない。


「か~め~●~め~波ッ!」


 撃てた。

 正確にはレーザーショットだが、突き出した手のひらから光線が出たので、満足だ。

 あとは竜の神様に願いを叶えてもらうわけだが、正直興味がない。

 願いや未来は、自分でどうにでもなる。


(ってなると、アレしかねえか)


 人生で一番、影響を受けた主人公(ヒーロー)


「都会のスナイパーだな」

「長々と妄想していただきましたが、それは無理です」

「なんでだよ!?」

「転生場所は選んでもらってかまいませんが、特定のだれかに生まれ変わることはできません。そして、それが架空の人物であるのなら、尚更です」


 もっともな意見だ。


「お忘れかもしれませんが、記憶も引き継げませんよ」


 たしかに、それも言われた覚えがある。


(マジで時間の無駄だったな)


 いろいろ考えたが、どれもダメだ。


(それによく考えたら、都会のスナイパーは地球に転生する、ってことだよな)


 一番最初に否定したことを、実行しようとしていた。


(イカンイカン)


 冷静なつもりだったが、テンションは爆上がりだったらしい。


(ひとまず、落ち着こう)


 深呼吸を繰り返した。


(うん。もう大丈夫だな)


 頭もスッキリした。

 ………………


「ねえな」


 冷静になればなるほど、その結論に行き着いた。


「では、わたしが選んでもよろしいですか?」

「おうよ」

「辛く厳しい世界かもしれませんよ?」

「どんな環境でも、楽しいことは存在するよ」


 ワァーン、ツベル一家、ユウキたちが脳裏に浮かんだ。

 そしてそこには、アマメの姿もあった。


「っと、そういえば、アマメの蘇生はどうなった?」

「ご安心ください。彼女の蘇生はすでに完了しています」


 サラフィネが空中にスクリーンを顕現させた。

 そこには牧歌的な村と、赤子を抱いた一組の男女が映し出されている。


「あの子がアマメか」


 安らかな寝顔だ。

 優しい表情を浮かべる両親もいい人そうだ。

 今度こそ、幸せな人生を送れることだろう。


「よかったな」


 おれに応えたわけじゃないが、アマメが小さくうなずいた。


「あの世界はすべてが安定しており、長らく戦火に包まれた過去がありません。そして、それはしばらく続くでしょう」


 最高だ。


「同じ場所を選ぶことも可能ですよ?」


 おれはかぶりを振った。


「ないとは思うけどよ。万が一、再会したら大変だろ」


 漫画や小説のように、記憶が蘇るかもしれない。


「そんな心配はいりません」

「だとしても、遠慮するよ」


 おれのような偏屈な人間は、過度に満たされた場所にいてはいけないのだ。

 幸せすぎて、それがイヤになってしまうから。

 適度な不幸があるからこそ、そのありがたみを尊べる。


「難儀な人生ですね」

「お前に言われたくねえよ」


 残された仕事を考えれば、神界(ここ)にいることだって幸せとはかぎらない。


「まったくです。はあぁ、これもそれも、すべて勇者(あなた)の責任です」

「ふざけんなよ。元凶はお前だろうが」

「それもそうですね。ですが、わたしだけが不幸なのは気が収まりません。ですから、勇者(あなた)にも相応の場所に転生してもらいます」

「八つ当たりだろ」

「問題ありません」


 話し合いの余地はなさそうだ。


「わかったよ。そこでいいよ」

「本当によろしいのですか?」


 サラフィネは、驚いたようにまばたきを繰り返している。


「まあ、なんとかなんだろ」


 大魔王を倒す者。

 畑を耕し作物を作り続ける者。

 国の政治を動かす者。

 漁業に励む者。

 犯罪を犯す者とそれを取り締まる者。

 どの人生も大冒険だ。

 そこには神界の女神だって加わるし、フリーランスのIT屋だって例外じゃない。


「生まれた場所で、精一杯生きるだけだ」

「ふふっ、そうかもしれませんね」

「ああ。だから、どこでいいよ。サラフィネが選んだ場所ならな」

「わかりました。では、転生します」


 足元に魔法陣が生まれた。


「おっ!?」


 鎧と手甲足甲が消えた。


「竜滅刀をこちらへください」

「ありがとうな」


 感謝と労いの意味を込め、一撫でしてしながらサラフィネに渡した。

 別れを惜しむように、竜滅刀がカタカタ音を鳴らしている。


「その場で跪き、目を閉じてください」


 言われた通りにすると、おでこにキスされた。


「勘違いしないでくださいね。今のは女神の祝福を授けただけです」


 ここにきてのツンデレは意味がない。

 だから、言葉通り、祝福をくれたのだろう。

 もしかしたら他意があるかもしれないが、追求するのは野暮だ。

 未練を残した別れにはしたくない。

 立ち上がり、おれはサラフィネと目を合わせた。


「サンキュー」

「こちらこそ、ありがとうございました。清宮成生(あなた)とはこれでお別れですが、次の人生を存分に謳歌してください」

「おうよ。今度は布団上で死んでみせるからな」

「そうなることを、わたしも願っています。では、いってらっしゃい」


 サラフィネの笑顔を最後に、おれの体は神界を離れた。


(契約完了だな)


 満足のいく結果だ。

 胸に広がる達成感も心地よい。


「あとは、次のおれに任せるか」


 なんにでもなれるし、どこにでもいける。

 それだけは間違いない。



「おぎゃぁ、おぎゃぁ」


 世界のどこかで、産声があがった。


これにて完結です。

お付き合いいただいた皆様に、感謝申し上げます。

ありがとうございました。


そして、最後の記念に書かせていただきます!

ブクマ、ポイント評価、いいね、よろしくね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
遅ればせながら完結、ありがとうございました、とても楽しかったです。 自分の矜持を貫くために、時に理不尽に苦しみ、選択に悩み、それでも突き進んでいった成生さんが泥臭くも格好良かったです。 上級神とサラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ