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333話 勇者は最後の仕事に出かける

「全面勝訴だな」


 おれの要望がすべて叶う結果になり、非常に満足だ。


「勇者よ。そう言い切るのは、早計です」

「なんでだよ?」

「まだ、なにも成していません」

「それもそうだな。んじゃ、ちゃっちゃか進めようぜ」


 サラフィネがかぶりを振った。


「問題があるのか?」

「工程に問題はありません。アマメさんを蘇生することも、清宮成生(ゆうしゃ)を転生させることも可能です」

「ってことは、それを実行するサラフィネに問題があるのか」

「察しが速くて助かります」


 外見に変化はなく、問題なさそうだ。


「内面か?」


 サラフィネが首肯した。


「勇者に神力を譲渡した結果、わたしの力はほぼ失われています。これではどうすることもできません」

「回復する方法は? 可能なら、おれから吸い出せよ」


 …………

 サラフィネが腕を組み、なにやら考えている。


「本来なら勇者の手アカがついた神力(モノ)は遠慮したいのですが、神力(それ)を持たせたまま転生させるわけにもいきませんからね」


 チートやらなんやらの問題になるのだろうが、その言いかたは問題だ。

 まるで、おれが汚いみたいではないか。


「ピュアっピュアだぞ」


 …………

 キレイに無視された。


「仕方ありません。そうしましょう」


 苦み走った表情は、苦渋の決断を色濃くうかがわせる。

 それぐらい深く悩み、重い決断だったのだろう。

 だから、おれの声が届かなかったのだ。


「んん!?」


 心臓付近から、細い管が生まれた。


「なんだ? これ?」


 スルスル伸びた管が、サラフィネの左胸に繋がる。


「ご安心ください。これは無害です」

「そうだろうな」


 でなければ、自分に繋がることを許すはずがない。


「おおっ!?」


 優しい温もりを感じさせる淡い光が、管を通ってサラフィネに流れていく。


「これが神力か」

「その通りです」

「これ、どんぐらいで終わるんだ?」


 なんとなくだが、すぐには終わらない気がする。


「わかりません」


 おれの予想は的中した。


「マジかよ!? んじゃ、ずっとこのままなのか?」

「ご安心ください。この管は優れモノですからね。わたしたちがどれだけ離れても問題ありません」


 サラフィネが三歩後退したら、その分だけ伸びた。

 おれも五歩下がったが、問題ない。


「マジで優れモノだな」

「ええ。衝撃耐性も十分です」


 ペシペシ叩いても傷一つない。


「これなら大丈夫だな。んじゃ、ちょっと休んできていいか?」

「その前に言っておくことがあります」


 サラフィネの表情がキッとしまった。


「初対面のときに言いましたが、普通の人間にとって神界の水や空気は毒です。いままではわたしの神力を共有することで問題ありませんでしたが、その効果は時とともに薄れていきます」


 いまも管を流れる光が、その言葉を証明している。


「作業が終わり次第、アマメさんを蘇生させ、勇者を転生させますが、それを待つ間、神界に留まるのは推奨しません」


 毒を体内に取り込むわけだから、それは当然だ。


「理解していただけたようですね。では、異世界に転移します」

「はあ!? どういうことだよ?」


 足元に魔法陣が生まれた。


「お前、マジで転移する気だな!?」

「大丈夫です。これから勇者が赴く異世界は平和です」


 おれはポンッと手を打った。


「なるほど。そこで作業が終わるまでのんびりするわけか」

「違います。あなたはそこで、異形の邪神と呼ばれる大魔王を倒すのです」

「ふざけんなよ!」

「怒鳴る気持ちは十分に理解できます。しかし、勇者は無一文です。宿泊や飲食は当然ながら、ショッピングすらできません。なら、大魔王を倒したほうが有益でしょう」

「いや、現地の金を渡せよ」


 サラフィネがかぶりを振った。


「貨幣とはその星や国で管理するべきであって、神界の者が関わるべきモノではありません」

「そりゃそうだが、数万程度なら問題ねえだろ」


 偽造通貨を渡せと言っているわけではないのだ。


「ダメです」

「んじゃ、売って金に換えられるモノ寄こせよ」


 また、かぶりを振られた。

 これもダメらしい。


「理由は?」

「神界にあるアイテムは、世界のバランスを崩す可能性があります」

「いや、べつに竜滅刀クラスを寄こせ、って言ってるわけじゃねえよ。茶器セットぐらいでいいんだよ」

「同じです。素材と装飾だけでも、貴族の奪い合いになるでしょう。そしてなにより、神界の茶器には、毒探知や無効のスキルが付与されています」


 納得だ。

 そんなモノを、ホイホイ持っていくわけにはいかない。


「ってことは、マジで大魔王を倒さなきゃいけねえのかよ」

「ご安心ください。今度の異世界は自然豊かです。異形の邪神がいる沼まで行くだけでも、目の保養になるでしょう」

「旅先での食事も大事だろ」

「そこも問題ありません」


 サラフィネが透明な袋を投げて寄こした。

 中には、地球で見たことのある……ようでない、駄菓子が詰まっていた。

 若干違うのは、著作権や商標を侵害しないためだろう。

 ただ、そんなことはどうでもいい。


「遠足じゃねえんだよ」

「そこも問題ありありません。遠足よりはるかに楽な作業です」


 ダメだ。

 話にならない。

 そして、サラフィネはマジでおれを異世界に送る気でいる。


「勇者よ、最後にこれだけは言っておきます。異形の邪神の復活はもうすぐです。それを阻止してください」


 深く頭を下げられた。

 なにか、わけがあるのかもしれない。


「ああもう! 面倒くせえなぁ!」


 文句を言いながら、おれは人生最後の転移をした。


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