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331話 勇者とは

「そうか。答えを見つけたか」


 上級神は感慨深そうだ。


 …………


 しかし、サラフィネは口を閉じたまま、顔を伏せている。


「まだ……のようだな」


 肩を落とす上級神は、非常に残念そうだ。


「大丈夫です。ちゃんとありますよ」


 おれの言葉に根拠はないし、その場しのぎのでまかせだ。

 けど、大丈夫だ。


「サラフィネは自分が裁判にかけられることを理解し、覚悟も決めていたはずです」


 これはでまかせじゃない。

 ちゃんと理由もある。


「先の異世界をもって魂のカケラの回収が終わり、サラフィネの願いは達成します。だからこそ、瀕死におちいったおれを、禁忌を破ってまで助けにきたのです」


 すべてが終わり、おれが神様の地位に就けば、大事にはならない。

 クリューンはいちゃもんをつけるだろうが、すべての責を自分が引き受けることで幕引きをはかるつもりだった。


(それはいまも変わらないんだろうけどな)


 おれが的外れなことを口にしていたとしても、


「違います。わたしがあの異世界に降りたのは、あの世界を救うためです」


 と否定し、自分の敷いたレールに戻せばいいだけだ。


「だとしたら、なおさらアマメを生き返らせてやれよ、って言いたいところだけど、この話は脇に置いておこうぜ。いまは、お前が答えを提示する時間だ」


 …………


 サラフィネは、ない、とは口にしなかった。

 大事なところをウソはでごまかさない。

 それは女神としての矜持、ではなく、サラフィネの矜持だ。


「はぁあああ」


 大きなため息を吐きながら、サラフィネが顔を上げた。


「答え……と言えるかはわかりませんが、一つの結論には辿り着きました」

「言ってみなさい」

「勇者とは、人間のエゴです!」

「エゴ……それは、エゴイズムのことで相違ないか?」


 サラフィネがうなずいた。


(マジかよ!?)


 エゴイズムとは、利己主義や自己中心主義といった意味だ。

 一般的な勇者像とはかけ離れている。


(う~ん。理解に苦しむな)


 勇者としてのおれとも、正反対だ。


「その象徴が、清宮成生です!」

「うむ。その通りだな」


 指さされただけでも心外だが、ためらいなくうなずかれるのは許せない。


「異議あり!」

「君は黙っていなさい!」


 間髪入れず、上級神にたしなめられた。

 ここで引くのは情けないが、大人しくしておこう。

 言葉にこそしていないが、殺すぞ、みたいなオーラが溢れている。

 おれが黙ったことで、サラフィネが再度口を開いた。


清宮成生(ゆうしゃ)は秀でた人間ではありません。数々の異世界で大魔王を屠れたのも、女神であるわたしが助力したからです」


 後半はその通りだが、前半はいただけない。

 少なくともおれは、IT屋としてのスキルは人並み優れている。


「竜滅刀という宝具に巡り合えたのも、幸いしました」


 そこに反論はない。

 竜滅刀がなければ、おれは志半ばで死んでいただろう。


(ありがとうな)


 柄を撫でると、カタッと音がした。

 どういたしまして、と言ってる気がする。


「女神の力と宝具を備えたからこそ、アレだけの無茶をやり遂げたのです」


 それもその通りだ。

 地球にいたころのおれでは、なにも成せなかった。


「言い換えれば、清宮成生(ゆうしゃ)は他人のふんどしで相撲を取っていただけです」


 強制的に異世界という土俵にあげられ、取り組みが行われただけだが、間違ってはいない。


「ですが、大事なのはそこではありません。注目すべきは、その行動理由です。清宮成生(ゆうしゃ)は、どの異世界においてもワガママでした。気に入れば全力で守り、気に入らなければ猛烈に反発します。相手の主義主張もおかまいなしです」


 まるで聞かん坊のような言い回しだが、思い当たる節もある。


(ここは黙っておこう)


 おれの思考を読み取ったように、サラフィネが肩をすくめる。


「ほんの少し妥協すれば、流れる血も少なかったでしょう」


 胸に刺さる言葉だ。

 なぜなら、おれが矜持を貫き通したがゆえに、傷ついた者もいる。

 それこそ、命を落とした者だって少なくない。

 けど、何度繰り返しても、同じ道を歩む。

 それだけは、間違いない。


「目に映る者を救うのではなく、目に映り、救いたいと思った者を救う。清宮成生(ゆうしゃ)には、そんな生き方しかできないのです」


 あらためて言われると、ひどい生きかただ。


「ただ、だからこそ、救われる者もいました。大局を見れば捨てらてもおかしくない小さな願いを大事に抱え、すべての事象をうっちゃる姿勢は、評価に値します」


 おれがやったことは、そんな大層なモノではない。

 報酬に納得し、結んだ契約をまっとうしただけだ。

 そこに、大きいも小さいもない。


「仮に自分が死ぬ未来しかなくとも、清宮成生(ゆうしゃ)は生き方を変えません。強者に尻尾を振れば幸せになれるのだとしても、最後まで「やなこったい」と言いながら死ぬでしょう」


 そこまでバカじゃない。

 と言いたいところだが、たぶんそうなる。

 実力と運がなかった、と歯がみしながら命を落とすのだ。


「そんなエゴにまみれた人間だからこそ、勇者になれるのです。大局に流されず、自分の価値観で突き進み、納得できるまでとことん騒ぎ、暴れ続けます。そこに周りの損得は関係ありません。他者が幸せになったとしても、それはたまたまです」


 間違いない。

 そいつはエゴイストだ。


「そのよくわからない強さに、不思議ななにかが力を貸すのでしょうね」


 サラフィネが上級神を見つめた。

 その表情はほころんでいる。

 的外れではない証拠だ。


「なぜ勇者という存在があらわれるのか? その答えは、ワガママな人間がワガママを貫き通しす姿を楽しむモノがいるからです」


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