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313話 勇者は黒いオーラに驚いた

 空に浮かぶアマメの腹が撃ち抜かれた。

 茎を折られた花が倒れるように、落下を始める。

 数十メートルの上空から落ちれば、無事では済まない。


「アマメ」


 駆け寄ろうとしたおれの足元に、テンツカの魔法が撃ち込まれた。


「一度目は警告だけど、次からは当てるよ」


 アマメに手出しはできないが、おれには可能なようだ。

 が、知ったことではない。

 ここで躊躇していたら、受け止めてやることはできない。

 テンツカが放った魔法を蹴り飛ばし、おれは落下点に入った。

 目測に誤りはない。

 傘のように張っていた障壁も解除した。

 雨は痛いが、両手でキャッチできる。

 ……はずだった。


「えっ!?」


 文字通り腕をすり抜け、アマメは地面に強打した。


「うおっ!?」


 突如発生した衝撃波に、身体を弾き飛ばされた。


「くそっ。なんなんだよ。アマメ、大丈夫か!?」


 倒れ込んだまま、ピクリともしない。


「いま治してやるからな」


 触れなくとも、ヒールを施してやることは可能だ。


「そんなことはしてほしくないね」


 テンツカの魔法が次々と撃ち込まれる。

 次からは当てる、という言葉通り、容赦がない。


「お前、ふざけんなよ!」

「そう睨むこともないだろう。あの子がどうなろうと、君には関係ないはずだ」

「それはお前らのほうだろ。チマチマ意地悪してないで、さっさと帰れよ」


 神界山を指さした。


「そうしたいのはやまやまさ。だから、あの子を傷つけているんだよ」


 アマツカがアマメの足を撃ち抜いた。

 悲鳴もあげず、血も流れていない。

 けど、ダメージがない、わけがなかった。

 体を丸める様子からして、自分を守っているのだ。


「お前ら、それ以上は許さねえぞ!」

「君に許しを請う必要は微塵もない。それとも、君が実験台になってくれるのかな?」

「どういうことだよ」

「言葉通りの意味さ。あの子の代わりに、君が純粋な天使(そんざい)になれる証明を手伝ってくれるのなら、中断してもいい」


 悩む時間はない。

 数秒おきに、アマメはいまも傷つけられている。


「とりあえず、魔法を撃つのをやめろ!」

「さっきも言ったはずだ。私たちの行動に、君の許可は必要ない」

「んじゃ、おれも勝手にさせてもらうよ」


 アマツカに向け、風波斬を放った。


「無駄ね。それが当たらないのは、証明済みよ」


 一瞬消えた後、再び現れたその姿は、黒髪の女だった。


「お前が二号だったのか」

「正解」


 手品師のようにカツラと服を一瞬で脱ぎ捨て、アマツカがポーズを決めた。

 軽い感じも腹が立つ。

 アマメも同じ気持ちなのか、全身からどす黒いオーラが沸き上がり始めた。


「ふむ。ついに反応したね」

「ええ。これで充分ですね」


 アマツカが魔法を撃つのをやめた。

 攻撃するならいまがチャンスだが、アマメのことが気になって動けない。


「安心したまえ。これはあの子が純粋な天使になるために必要なことだ」


 とてもじゃないが、その言葉を信じることはできない。

 アマメから立ち昇るどす黒いオーラは、天使とかけ離れている。


「あれはあの子の中にあった業さ……それにしても、ずいぶん溜めたね」


 テンツカが目を見張るのも、理解できた。

 源泉の湯気のように、大量のオーラが湧き続けている。

 一向に枯れる気配がない。


「大丈夫なのか?」

「問題ない。というか、ここで停めるほうが危険だね」

「具体的にどう危険なんだよ」

「あの子は今、生まれ変わろうとしている最中なんだ。それを途中で停めるということは、中途半端なモノにしかならない」


 わかるようでわからないし、わからないようでわかる。

 ただ……


(いま、手出しをするのはダメだ)


 本能的にそれだけは確信できた。


「アマメ!」


 呼びかけると、ピクリと反応した。


「アマメ!」


 今度は無反応。


「おい! 本当に大丈夫なんだろうな!?」

「ああ、大丈夫だ。あの子は純粋な天使に近づいている」


 ガタガタ震える様は、とてもそうは思えない。

 けど、噴き出すオーラは、徐々に勢いを失っている。


「アマメ、大丈夫か!?」

「成生……さん」


 反応があった。

 焦点の定まらない目で、おれを見ている。


「アマメ!」


 駆け寄るおれを遮るように、どす黒いオーラがアマメを包み込んだ。


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