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292話 勇者はヘビ女を撃退した

「殺してあげる」


 身体にヘビを巻き付けた女は、嗜虐的な笑みを浮かべている。


(どいつもこいつも、性格悪すぎるよな)


 問答無用で殺意を向けてくるのは、いかがなものだろう。


(もっとこう、話し合いで解決できないモノかね?)


 すべて丸く収まるとは思っていないが、歩み寄ることはできるはずだ。


「おれ、なんか悪いことしたか?」

「存在」


 ものすごい簡潔な答えだ。


「そっか存在か」


 そこかダメだと言われてしまえば、どうすることもできない。


「んじゃ、このクマだけでも見逃してくんねえか?」

「無理」

「クウゥゥ」


 情けない声だ。

 まるで人生をあきらめたかのようなか細い鳴き声だった。


「元気を出せ! まだ死ぬと決まったわけじゃねえんだからよ」

「ううん。きみたちは死ぬよ」


 歩み寄りながら、女がパンチを繰り出した。

 距離は離れているが、届かない、と決めつけるのはよくない。

 魔法を撃つ可能性もあるし、ヘビが襲い来ることもあるだろう。


「シャアアアア」


 予想通り、女の手に巻き付いていたヘビが伸びてきた。

 大きく口を開き、長く鋭利な牙が覗いている。

 噛まれたら痛そうだ。

 しかし、それ以上に注意しなければならないのが、毒の有無である。

 ヒールで解毒はできないだろうから、一発アウトの可能性が高い。


「よっ」


 飛び退いて躱したが、躱し続けるのは難しいかもしれない。

 女に絡みついていた何匹かが、その身を離れリングを這っている。


「一つだけ確認させてくれよ。場外に落ちたら負け?」

「ルール確認など必要ない。下等種である貴様は、生意気なことをぬかさず、ただ戦えばいいのだ」


 にべもない。

 が、相手の気持ちはよくわかった。


「そっちがその気なら、こっちも遠慮しねえぞ」


 クマを左手に持ち替え、右手で竜滅刀を抜いた。


 ゴクッ


 だれかが息を呑んだ。


「シャアアアア」

「よっ」


 襲いかかってきた赤いヘビを、一刀に伏せた。


「許せない! ぼくの大事な友達をよくも!」

「仕掛けてきたのはお前のほうじゃねえか」

「うるさい! きみの命とぼくの友達の命じゃ、ぜんぜん釣り合わない!」

「そう思うのは勝手だけどよ。おれからすれば、おれの命のほうが大事なんだよ」


 至極当然な主張だが、お気に召さないようだ。


召喚(サモン)!」


 リング外の東西南北に魔法陣が生まれ、そこから四体の巨大なヘビが現れた。

 それぞれが赤、水、土、紫のカラーリングをしている。


「城外は反則じゃねえのかよ」

「そのようなルールはない」

「そうか。なら、おれたちが降りてもいいんだよな?」

「駄目だ。それは認めん」


 自分たちにだけ、甘いルールだ。

 呆れるを通り越して、むしろ清々しく感じてしまう。


(…………っていうか、なんでおれはこいつらの決めたルールに則ってるんだ?)


 よく考えれば従順でいる必要は微塵もないし、妖精たちに気を使う必要もない。

 むしろ、おれは案内して連れてこられた立場なのだから、客人である。

 最低限の礼儀を求めてもいいはずだ。


「なんか、腹立ってきたな」


 沸々と怒りが湧き上がる。


「キシャアアアアアア!」


 赤い大蛇が火の玉を吐き出した。


「風波斬!」


 怒りをぶつけるように放った斬撃が、火の玉と大蛇を真っ二つにした。

 ()らなければ()られる、と判断したのだろう。

 青い大蛇が勢いよく水を吐き出した。

 その勢いはすさまじく、直撃したら痛そうだ。


「シャアアアア」


 土色の大蛇が土の塊を吐き出し、おれの退路を断つように三方を塞いだ。


(跳び上がるのは、悪手だろうな)


 空はあいているが、紫の大蛇が狙ってる。


(たぶんあいつは、毒持ちだよな)


 赤、水、土が色から連想できる能力を備えていたのだから、紫も例外ではない。


(う~ん、紫が毒は安直か?)


 ただ、考えてもほかの候補が浮かばない。


(まあ、なんにしろ、君子危うきに近寄らず、だな)


 リスクを取る必要はないし、迫りくる水をどうにかすればいいだけだ。


「風波斬」


 火の玉同様、水も割ることに成功し、青い大蛇も斬れた。


「それっ」


 土壁に前蹴りを繰り出し、壊れた塊が土色の大蛇にクリーンヒットした。


「グアッ!」


 クマが驚くのもわかる。

 土の塊は当たるだけにとどまらず、大蛇の体を突き抜けていった。


「翼くんはこんな感じなのか」


 ゴールネットを貫くのも、こんな感じなのだろうか。

 そんなくだらないことを考えながら、紫の大蛇と向き合う。


「シャアアア」


 透明な液体がリングに降り注ぐ。


「避けるのは無理だな」


 瞬時にそう判断し、おれは上空にウインドボールを撃った。

 突風が降り注ぐ液体を吹き飛ばし、周囲に飛散させた。


「おいおいおい」


 当たったところを溶かしている様子からして、毒というよりは酸に近いのかもしれない。


「シャア」

「させねえよ」


 再度液体を吐き出そうとする紫の大蛇を、風波斬で屠った。


「絶対許さない!」


 顔を真っ赤にしたヘビ女が突進してくるが、動きは緩慢だ。


「ぼくの大事な友達を返せ! 返せ! 返せ!」


 パンチも腰の入っていない猫パンチ。

 間違いない。

 この女は使役したヘビで戦う方法しか持ち合わせておらず、自分で戦うスペックは持ち合わせていない。

 いまもヘビがおれやクマに噛みつこうとしているが、難なく避けられる。


(かわいそうだけど、しかたねえよな)


 おれは竜滅刀を振るった。


「えっ!?」


 剣先が眼前をかすめ、女が動きを止めた。

 次の瞬間、身体を這っていたヘビが床に落ちた。

 信じられないのか、女は目をぱちくりしている。


「前、隠したほうがいいぞ」

「きゃあああああああ!!」


 自分が素っ裸なのに気づき、女はヒザを抱えて丸まった。


「おれの勝ちでいいよな? ダメなら、トドメをさすぞ」


 切っ先を女に向けながら、VIP席に訊いた。


「いいだろう。では、これが最後だ」


 ヘビ女が消え、鎧をまとった騎士風の妖精が現れた。


「まだやんのかよ。勘弁してくれよ」


 辟易とするが、相手はやる気満々だ。


「覚悟なさい! あたしはいままでのやつらとは違うわよ」


 好戦的な笑みを浮かべ、女が斬りかかってきた。


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