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288話 勇者と黒髪の女~遭遇

 艶のある長い黒髪に隠され、どんな顔でどんな表情を浮かべているのかもわからない。

 身長が低く、凹凸も薄い。

 着ているのは、足首まで隠れる真っ白な半袖ワンピース。

 そこから伸びる手は細く、透けるほど白い。

 有名ホラー映画の登場人物を想起させるが、それよりも病気で動くこともままならない末期患者、という印象を強く抱かせた。


「た、助けてくれ……このままじゃ……死ぬ」


 懇願の声をあげたのは、黒髪の女に首を握られているビアだった。

 いたるところから出血しており、いつ死んでもおかしくなそうだ。


(嫌なやつだけど、死なれちゃ困るんだよな)


 連れ帰って、アマメに謝罪させなければならない。

 そのためには一刻も早く救助して回復魔法をかけてやるべきなのだが、それはできない。


「ううっ」


 うめくほど食い込んだ指。

 黒髪の女がほんの少し力を加えただけで、ビアの首は胴体とさよならしてしまう。


(まあ、そうなったらそうなったで……)


 かまわない、と思わなくもないが、寝覚めが悪いのも事実だ。


(まずは平和的解放を模索するか)


 うまく説明できないが、可能性はある気がしてならない。


「きみの名前を教えてくれないかな? ちなみに、おれの名前は清宮成生だ」


 …………


「この惨状はきみが原因なのかな?」


 …………


「目的を教えてくれないかな?」


 …………

 なにを訊いても答えが返ってくることはなかった。

 ただ、無視をしているわけではない。

 声こそ聞こえないが、口は動いている。


「近づいてもいいかな?」


 …………

 イエスもノーもない。

 試しに、右足を一歩だけ前に進めた。


(ダメだな)


 黒髪の女が一歩後ずさった。


(っていうか、なんなんだ? こいつ)


 禍々しいオーラを纏っているわりに、内向的な雰囲気を感じる。


(なんか、凶暴な引きこもりやイジメられっ子と対面してる気分だな)


 無粋に踏み込んだら一巻の終わり。

 心を閉ざされ、問答無用で殺し合いになる気がしてならない。

 けど、対応さえ間違えなければ、話し合いはできそうだ。


「ボディーランゲージでもいいから、気持ちを教えてくれよ」


 意志疎通が可能なら、ビアを解放することも夢ではない。


「もう一度訊くけど、この惨状はきみが原因なのかな?」


 ……

 ほんの少しの間を空け、黒髪の女がうなずいた……ように見えた。

 ただ、その動作は最小限のモノであり、答えてくれた、とおれが受け取りたいだけかもしれない。


「理由はあるのかな?」


 …………

 今度は反応がなかった。


(やっぱおれの思い込みか)


 こくり、とうなずいた。

 心の声が聞こえているわけがないのだから、質問に対するリアクションだろう。


「恨みがあるのかな?」

「うがあああ」


 黒髪の女が力込めたのだろう。

 ビアが悲鳴を上げた。

 力を込めたということは、肯定なのだ。


「ストップ! それ以上は勘弁してくれ」


 悲鳴が収まった。

 力を抜いた証拠だ。


(ヒヤヒヤだな)


 コミュニケーションは取れているが、綱渡り感がハンパない。

 大きな間違いを犯した瞬間、ビアは死ぬことになる。


「これ以上は無理だ。頼む。殺される前に、助けてくれ」

「あっ、バカ」


 懇願は理解できるが、いますべきではない。

 グシャ、と首が握り潰され、ビアの頭部が地面に転がった。

 黒髪の女の真意はわからないが、助けてくれ、と言ったビアの願いを叶えたという見方もできる。


(ったく、最悪だな)


 辟易するが、こうなれば遠慮はいらない。

 実力行使を選択することも可能になった。


「うおっ! マジかよ!?」


 考えることは黒髪の女も同じらしく、全身を取り巻く漆黒のオーラが膨れ上がった。


(アレって……魔素だよな)


 観察する対象が大きくなったことで理解できた。


「んん!?」


 禍々しくウネウネと動く魔素を、黒髪の女は地面に撃ち込んだ。

 揺れることもなければ、穴が開くこともない。

 ただ単に地面に吸収されただけ。

 だけど、そんなことはありえない。

 必ず、なにか起こる。


 ゴウッ


 おれの予感は的中し、現存していた村の家屋が一斉に燃え上がった。

 今度はアマメの家も燃えている。


『うあああああっ!!』


 井戸の周りに寝かされたケガ人も一様だ。


「ちょ、お前、ふざけんなよ!」


 アイスショットを撃ったが、漆黒の炎は消えなかった。

 見た目以上に、濃く凝縮された魔素の塊だ。

 こうなれば、元を絶つしかない。


「風波斬」


 必殺の斬撃は黒髪の女を通り抜け、村の外壁を壊した。


「さようなら」


 空から降ってきた声に見上げれば、黒髪の女は宙に浮いていた。

 そして、蜃気楼のように消えてなくなった。


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