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282話 勇者はラシール村を追い出された

「これはどういうことなのか、説明していただけますか?」


 ビアがおれをにらみつけてくる。


「ご無事でなによりです」


 ビシが間に入るように口を開いた。


「おや? あなたは……ラーシル村のビシ様ではございませんか」

「覚えていてくださり光栄です。我々はラシール村に異変が起こっている、という情報を聞き、調査に来た次第です」

「異変? そんなものはございません……いや、一つだけありますね。わが家が消失しております」


 イヤミだ。

 たぶん、おれたちの仕業だと思っているのだろう。


「我々は無関係です」

「この状況では信じられませんね」

「証拠ならございます」

「ほう。どのような?」

「あの火災に我が村の民が巻き込まれております。もし仮に我らの仕業なのだとしたら、そんなバカなことはいたしません」


 ビシの声には、沈痛な響きがある。


「そうですか。では、我が家が消失したときの状況を教えてください」

「先ほども申し上げたように、我々は商人からの情報でラシール村を訪れました。そこで村民より村長に話を聞くように言われ、ここに足を運びました。ただ、外出中でだれもいらっしゃらない様子でしたので、あきらめて出直そうと考えました。しかし、玄関が一人でに開いたのです」

「玄関が一人でに開いた。そんなことがあるのでしょうか?」


 そこはおれも同感だ。

 ただ、ビシがウソをついてるとは思えない。

 もしつくなら、もう少し信憑性のあるモノにするだろう。


「あなたたちが開けたのではありませんか?」

「そんなことはいたしません」

「信じられませんね」

「なぜですか?」

「あなた方が連れてきたのは、我が村から子供を連れ去った男だからです」


 ビアがおれをにらんでいた理由がわかった。

 けど、濡れ衣もいいところである。


「ちゃんと代金は支払ったよな」

「さあ、なんのことでしょう?」


 薄ら笑いを浮かべるビアが、真実を認めることはなさそうだ。

 こうなってしまえば、話は平行線をたどるだろう。


(領収書や支払い証書をもらっとくべきだったな)


 悔やまれるが、ないものはどうしようもない。


「やっぱり、てめえが俺のおもちゃを盗んだのか! 返せ!」

「まあ、待ちなさい」


 ケンカ腰に詰め寄るショウを、村長が肩を押さえて止めた。


「息子の言ってることは本当なのですか?」

「ウソだよ。さっきも言ったけど、おれはちゃんと、アマメを引き取るための代金を支払ったからな」

「では、息子がウソをついている、というのですね?」

「ああ。お宅の長男はウソつきだ」


 空気が張り詰めた。

 息子を悪く言われて腹が立つのは理解できるが、事実なのだからしかたがない。


「では、賠償金の話をしましょう。自分としては、一〇〇パーセントの保証を求めます」


 急に話が変わった。

 そして、言ってる意味がわからない。


「村長、それでは端折りすぎです。あらためて、私から説明させていただきます」


 ビアが一歩前に出てきた。


「本来なら成生殿とお呼びすべきなのでしょうが、あなたは罪人ですので、敬称は省かせていただきます」


 この世界でも札付きにされてしまった。


「我々としては、犯罪者が連れ去ったアマメという子供の返還と、アマメがこなすはずだった仕事を肩代わりした者への金銭的補償を要求します。さらに、あなた方によって焼却された我が家の建築費と家財道具一式の購入費を要求します」


 厚顔無恥もここまでいくと清々しい。

 支払うつもりは一ミリもないが、感心してしまう。


「そんなふざけた要求が通ると思っているのですか?」


 ビシも目を吊り上げ、声に怒気が感じられる。


「ふざけてなどおりません。我々としては、そちらの非を追求しているだけです」

「我々には、あなた方がおっしゃるような非はございません!」

「では、この状況に納得がいく説明をお願いします」

「清宮様はアマメ様を引き取るための代金を支払っておりますし、村長宅の消失に我々は一切かかわっておりません」

「証拠はございますか?」


 ビシが言葉に詰まる。

 それはしかたのないことだ。

 おれが金を払ったかどうかなど知るよしはないし、出火の原因だってわからないのだから。


「でもよ、それを言うなら、おれたちの責任だ、っていう証拠はあるのかよ?」

「あります。まず第一に、あなたが支払ったとされる代金の記載が、村の帳簿にはございません」

「その帳簿はどこにあるんだよ」

「燃えてしまいました」

「じゃあ、確認のしようがないだろ」


 頭が痛い。

 これでは討論にもならないし、だれの証言も証明できない。


「あなたはそれを狙って、わが家を焼却したのです」


 とてつもないバカではないようだ。

 的外れではあるが、ビアなりのロジックは持ち合わせている。


「でもよ、あるかないかわからないモノを燃やすために、一緒に来た冒険者を巻き込まねえだろ」

「その逃げ道を用意するのが目的です。一緒に来たとは言っても、あなたにとっては赤の他人でしょう」


 イラッとした。

 ビアの他人を軽んじる姿勢は、相容れない。


「いい加減にしろよ。自分の妄想を語るのは勝手だけど、そこにおれを巻き込むな!」


 反論の声も強くなる。


「図星を指され逆上ですか。わかりました。これ以上村に損害を加えられてはたまりませんので、今回のことは不問といたしましょう。その代わり、即刻村から出て行ってください!」


 ビアは最初から交渉を仕掛けていたようだ。

 無理難題を提示した後で妥協案を提示する。

 いわゆる、ドア・イン・ザ・フェイスと呼ばれる手法だ。


「わかりました。では、失礼します」


 ビシが軽く一礼し、踵を返した。

 おれもそれに続く。

 今回は負けを認めるしかなかった。


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