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277話 勇者はアマメの出自を知る

 青年の家は立派だった。

 ただ、ここが一番立派なわけではない。

 すぐ隣りに、さらに大きな家がある。


「あちらは村長の住まいです」


 説明してくれるのはありがたいが、こんな簡単に重役がいる場所を教えていいのだろうか。


「こんな田舎の村長を狙うより、家畜を攫ったほうがお金になりますよ」


 訊いてないのにそう答えてくれるということは、ここまでがテッパンなのだろう。


「どうぞお上がりください」


 通されたリビングは二十畳ぐらいあった。

 広いのはいいが、中央に机が一卓と椅子が四脚あるだけなのは、どうにもさみしい感じがしてならない。


「こちらにどうぞ」


 勧められたのは上座だが、出口に遠い場所、という解釈もできる。


(まあ、どっちでもいいけどな)


 襲われたとしても、返り討ちにできる。

 最悪はアマメを人質にされることだが、それを実行された瞬間、おれは容赦なくこの村を潰すだろう。


「まずは招待を受けていただき、ありがとうございます」


 対面に座った青年が、机に手をついて深く頭を下げた。


「そして、感謝を申し上げます」


 戦う意思がないのは理解できたが、感謝される理由もない。


「アマメ様を救っていただき、ありがとうございます!」

「我らからも、重ねてお礼申し上げます」


 入室してきた白髪の老人と五人の若い村娘が、揃って頭を下げた。


「彼らは僕の……失礼しました。自己紹介がまだでしたね。僕の名はビシと申します」

「似てるな」

「似ている? なにとですか?」

「ラシール村の村長の息子に、ビアって子がいたんだよ」

「なるほど。あの守銭奴ですか。たしかに似ておりますが、一切の関係がございません」


 断固とした口調であり、忌避感がすごい。

 白髪の老人と村娘衆も、心底イヤそうだ。


(まあ、おれも他人(ひと)のことは言えねえけどな)


 思い出しただけでもムカッ腹が立つ。


「ごほん。話を戻してもよろしいですか?」


 殺伐とした空気を切り替えるように、ビシがあえて咳払いをした。


「どうぞ」


 可能なかぎりの営業スマイルで先を促す。


「彼らは、僕の部下だった者たちです」

「代表して、私が名乗らせていただきます。アマメ様の執事をしていた、エドと申します、後ろの女性たちは、メイド兼世話係だった者たちです」


 どちらも肩書が過去形なのが気になる。

 が、それよりも知りたいことがあった。


「アマメって、いいとこの生まれなのか?」

「はい。アマメ様は国王……ではなく、旧国王様の血を引いていらっしゃいます」

「おう……マジか」


 予想の上をいく答えだった。


「もちろんです。アマメ様は、正真正銘の王族です」

「そうか。じゃあ、なんでアマメはあんな暮らしをしていたんだ? 王都の陥落が理由なんだとしても、おかしくないか?」

「清宮様がそう疑問に思われるのは当然です。ですがご安心ください。我々はその答えを持っています。しかし、それをお教えするには条件があります」

「どんな?」

「これから話すことは、アマメ様にはご内密にお願いします」


 いままでと同じか、それ以上に真剣な表情と声音だった。

 同意しなければ、ビシたちは口をつぐむだろう。


「わかった。アマメには言わないよ」

「ありがとうございます。ご存じかもしれませんが、アマメ様がラシール村で虐げられていたのは、奴隷として売られたからです。ではなぜ、王女が奴隷になったのか。その理由は、王妃様にあります」


 話の途中だが、おれの頭の中にはイジワルな王妃が浮かんでいた。


「お~っほっほっほっほっほ」


 高笑いを上げる性悪にイジメられたのだろうか。


「王妃様はすばらしい方でした」


 想像は外れたようだ。


「民を愛し、民に愛された聖女だったのですが、唯一、妖精(エルフ)だったことが難点でした」


 それのなにがダメなのだろうか。


妖精(エルフ)は希少種で、人前に姿をさらすことを嫌います。理由はその血肉のすべてが、魔道具を作るうえで、最高の材料となるからです」

「歩く宝石みたいなもんか」

「その通りです」

「よく王様と結婚したな」


 王妃となれば、嫌でも目立つ。


「王様には容姿端麗の正妻がおりましたので、側室は表に立つ必要がありませんでした。それと、お二方の出会いも関係しております。まだ王子で在らせられたとき、一人で妖精(エルフ)の森に入られた際に負った傷を回復してくださったのが、後の王妃様でした」


 漫画のような話だ。


「お二方は互いに一目惚れをしていたのですが、王子には婚約者がおり、王妃には外の人間とかかわる勇気がございませんでした」


 ますます盛り上がる展開だ。


「ですが、お二方はそれからも秘密の逢瀬を重ね、想いを強くしていきました。そしてその数年後、アマメ様を授かることとなるのです」


 キレイな物語のように思えるが、正妻からしたらただ浮気されただけの面白くない話なのではなかろうか。


「そのときすでに、王子は結婚して王様の地位にいました」


 やっぱりだ。

 これだから、だらしない男はダメなのだ。


「王様は自分の過ちを告白し、正妻に別れを切り出しました。財産も王位も、正妻との間に授かったご子息にすべて譲る気でおられたのです」


 その身一つで駆け落ちするのは勝手だが、残されたほうはたまったものじゃない。

 幼い王子では執務はできないし、国はてんやわんやになるだろう。


「それを止めたのが、王妃様です。他者の不幸のうえで成り立つ幸せはいらない。そうおっしゃられたそうです」


 至極真っ当なセリフだ。

 しかし、そうなった原因は妖精(エルフ)にもあるのだから、いい話に置換はできない。


「想いは正妻も同じでした。ですから三者で話し合い、王様は王位に留まり、正妻とご子息と暮らすことにしました。王妃様は王都から離れた妖精(エルフ)の森に住み続け、アマメ様とともに暮らしていくことになります」


 当事者が納得しているなら文句はないが、腑に落ちない話である。

 正直、まったく共感できない。


「その数年後にクーデターが起き、王様は惨殺され、正妻、ご子息、王妃、アマメ様は奴隷商人に捕まり、売り飛ばされてしまったのです」

「なんかおかしくねえか? クーデターが起きたのって、最近だろ?」


 ガネイロが建国を宣言したのは、昨日のことである。


「清宮様が仰っているのとは別に、もう一つあるのです」

「へえ~、二回もあったのか」

「はい。一度目は、国王にぞんざいに扱われた悪徳貴族が決起したものです。そして、この間起きたのは、その悪徳貴族を排除するためのモノです」


 それなら理解できる。

 アマメが両親のことを知らなかったのも、納得できる。


「でも、この数年間、ビシたちはどうしてたんだ? 探せば、アマメの行方なんてすぐわかっただろ」

「仰りたいことは理解できます。我々がここに来たのは、クーデターによって王都を追い出されたからです。言い訳になりますが、ここにはなにもありませんでした。我々が数年をかけて開拓したのです」


 人が少なかった理由はそれだ。

 そして、その作業を思えば、アマメの捜索まで手が伸びなかったのもうなずける。


「ごくろうさん」

「労いなど不要です。我々は忠義を誓ったアマメ様を救えなかったのですから」

「ってことは、これからはアマメと一緒に暮らしたい、ってことか?」

「もちろん、そうなれば幸せです。けど、我々からそれを言うことは憚られます」


 自責の念が許さないのだろう。


「んじゃ、どうすんだよ」

「清宮様にアマメ様のお気持ちを確認していただきたく存じます」


 丸投げだ。

 けど、気持ちはわかる。


「いいよ。アマメと話してくるよ」

「ありがとうございます。お礼ではございませんが、この村に滞在する間は、宿をご自由にお使いください」

「あいよ」


 ビシたちに見送られ、おれはアマメのもとに戻った。


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