255話 勇者は牛人鎧の弱点を知る
パーフェクト牛人鎧の全長は三メートル強。
パンプアップしたアズールが二メートル弱くらいだったのを差し引けば、大体どこを斬っても無傷とはならないだろう。
「この技術は、我が生涯をかけた最高傑作だ。貴様がどれほどの攻撃を繰り出そうとも、負けることはないぞ」
大層な自信である。
「んじゃ、試してみようぜ」
強めに放った風波斬が、パーフェクト牛人鎧の腕を切り落とした。
「おおっ!?」
「な、なに!?」
おれも驚いたが、アズールの声も驚愕に満ちていた。
最高傑作がこの程度とは、肩透かしもいいところだ。
「これなら、予定は変更しなくてもいいかもな」
さっさと決着をつけ、ユウキたちの救援に向かおう。
「でりゃ!」
跳び上がり、パーフェクト牛人鎧の頭頂部に竜滅刀を振り下ろした。
たしかな手ごたえを感じたが、
「マジかよ!?」
牛人鎧はとんでもない強度で、まったく刃が通らない。
「残念だったな」
愉快そうなアズールの声からして、一杯食わされたようだ。
「ふんっ!」
横から飛んできたフックをまともに受け、おれは吹き飛ばされた。
「おいおい!? まさか、一撃で死ぬなどということはないだろうな?」
「もちろんねえよ」
ダメージもないので、スッと立ち上がった。
「それでいい。こちらはまだ本気ではないからな」
アズールのそれは本音だろう。
目を離したのは一瞬だが、腕が再生している。
斬り落とした肉塊が見当たらないから、アレをくっつけたのだろうか?
(でも、なんか違う感じに見えんだよな)
具体的な指摘はできないが、似て非なるモノのような気がしてならない。
「んじゃ、まずはそのギミックから探るか」
パーフェクト牛人鎧の腕に、風波斬を撃ち込んだ。
斬れはしたが、切断はできなかった。
この時点で最初とは違う。
ただ、だからといって、べつモノと決めるのは早計である。
(ってか、そう思わせたいんじゃねえか?)
どれだけ斬り落としても無駄なら、手の打ちようがない。
結果、戦意の低下や、一か八かの特攻を考える者もいるだろう。
(そうなれば、対処は簡単だもんな)
ガード固め、相手の自爆を待てばいいだけだ。
牛人鎧という名前の通り、防御に特化している可能性がある。
「んじゃ、一発たしかめてみるか」
風波斬をちぎれかけの腕に放ち、おれは足を直接斬る。
「くっ」
やはり、竜滅刀が通らない。
押し込んでもダメだ。
もの凄く硬い表面に押し返される。
ボトッ
風波斬は見事に腕を切り落とした。
「無駄だ無駄だ」
振るわれた足で蹴り飛ばされる。
ゴロゴロと転がされたおかげで、距離を取る必要はなくなった。
「物理は無理か」
完全に無意味と決まったわけではないが、固執するのもよくない。
ここは切り替えていこう。
「レーザーショット!」
右手を銃の形にし、魔法を射出した。
狙うは心臓。
ドンッ、と命中したが、ほんの少し窪んだだけで、致命傷にはいたらなかった。
回復も一瞬で、すでに元通りだ。
「レーザーショット!」
二発目。
意味がないと思われるかもしれないが、そんなことはない。
ちゃんと一発目より威力を上げているし、狙いも変えている。
今度は心臓ではなく、腕だ。
風穴があき、ちぎれた。
「やってくれたな」
アズールの声は悔しそうだが、鵜呑みにするのは危険だ。
「レーザーショット!」
三度放った魔弾が足に当たったが、傷一つつかない。
「レーザーショット!」
四度目は眉間を狙ったが、当たったのは額。
「やっぱダメか」
ダメージのダの字もなさそうだ。
(さてと……一連のことをどう捉えるべきかな)
物理、魔法ともに腕をちぎることは可能だが、それ以外にダメージは通らない。
足や頭といった、大事な箇所の装甲は異様に固い。
結果だけみれば、アズールはそこにいる。
(んじゃ、通るまでやるか)
一撃でダメなら、二撃三撃と重ねればいい。
「無駄だ」
おれの考えは見透かされているらしく、新たに生えた両腕には牛骨刀が装備されている。
「でりゃ」
「ふんっ」
竜滅刀と牛骨刀がぶつかる。
引けは取らないと豪語していたが、その通りのようだ。
牛骨刀が折れたり欠けたりすることはなかった。
「でりゃりゃりゃりゃ」
「ふんふんふんっ」
互いに切り結ぶが、力は互角。
だが、五分ではない。
スピードは完全におれが勝っている。
おれが三撃打ち込む間に、アズールが対処できるのは二撃がやっと。
つまり、一撃は確実に当てられることになる。
「でりゃりゃりゃりゃ」
足や胴体に斬撃を入れ続ける。
どれほど強度が高かろうとも、積み重なったダメージが実を結ぶときがくる……はずだ。
「でりゃりゃりゃりゃりゃ」
ついに足に切れ込みが入った。
「りゃりゃりゃりゃ!」
おれはさらにスピードを上げた。
「チッ。こざかしい」
アズールの声にイラだちが混ざる。
それは演技ではなく、本心だろう。
(このまま一気に押し通してやるよ!)
と思ったが、冷静になればその必要がないことに気づく。
斬り倒さなければならないルールではないのだから、そこにこだわる理由もない。
「ファイヤーショット」
おれ中の熱量を、魔法にしてぶつけた。
「ぐっ」
命中と同時に小さく呻き、アズールが飛び退いた。
(んん!?)
予想外の反応だ。
おれの放ったファイヤーショットは、レーザーショットより威力が弱い。
にもかかわらず、効果はあった。
「もしかして……その牛人鎧ってのは、火に弱いのか!?」