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254話 勇者対アズール

「俺たちが魔王を倒す、か。貴様は可能だと思うか? ちなみに、我は不可能だと思う」

「その二択なら、おれは可能だと思うよ」

「ほう。その言い方であるなら、他の選択肢もあるのか?」

「ねえよ」

「すなわち、可能というわけだ。その根拠は?」


 弟子を信じないでどうする、などと青臭いことを言うつもりはない。

 おれが可能だとする根拠は、魔族領(ここ)におれがいることだ。


「お前との決着を早々につけて、助けに行ってやる時間は充分に残ってるだろ」

「なるほどな。その考えは我も同じだ」

「なら、さっさと始めるか」

「焦るな、と言ったところで、無駄だろうな」


 そんなことはない。

 待つだけの正当な理由があれば、時間稼ぎにも付き合ってやる。

 ただ、アズールにその気はないようだ。


「魔光弾!」


 撃ち出した巨大なブラックパールのような魔力弾を追尾し、おれに襲いくる。

 魔光弾を避ければアズールの一撃が決まり、反対のこともしかりだ。


(さて、どうしたものか?)


 などと悩むことはない。

 どちらか一方ではなく、同時に対処すればいいのだから。

 おあつらえ向きに、一列に並んでることも好材料だ。


「風波斬」


 放った斬撃が魔光弾を二つに割き、アズールの胸に直撃した。


「ぐっ」


 苦しそうに顔を歪めたが、おれに迫る速度は変わらない。

 しかもその途中で、割れた魔光弾を両手に一つずつ収めている。


「くらえ! 魔光撃」


 アズールが同時に繰り出した左右の拳には、魔光弾がグローブのように被さっている。

 どんな効力があるのかが謎なだけに、受けないほうが得策だろう。


「よっ」


 飛び退いて距離を取ったが、スキあらば反撃できる位置取りだ。

 ニヤッとアズールが口角を持ち上げた。


(あっ、なんかくるな)


 予想通り、手に被さった魔光弾が飛んできた。


(ロケットパンチだ!)


 直前までグローブのような役割をしていたからか、飛来するカタチがまさにそれである。


(追尾機能は備わってんのかな?)


 試しに横に跳ぶと、魔光弾もそれに倣う。


「なるほどな。そういうことなら、こうするか。レーザーショット」


 おれが放った魔力弾は、アズールのそれと同等か、少し強い……はずだ。


「よしっ」


 相殺したから、おれの見立てに間違いはなかった。


「我を忘れたわけではあるまいな」


 すぐそこに迫っているのは気づいているし、拳が繰り出されていることも理解している。

 おれが動じないのは、そうなる理由がないからだ。


「ドゥダダダダダ」


 拳の連打が降り注ぐ。

 が、まったく痛くない。


「ダダダダダダダ!」


 連打は止まらないが、どれだけ受けてもダメージを感じない。

 むしろ、攻撃しているアズールのほうが体力を失っているのではなかろうか。


「なんかアレだな。ムキムキの筋肉も大仰な口調も、全部ハリボテだな」

「なら反撃してみてはどうだ?」

「んじゃ、遠慮なく」


 おれが繰り出した右ストレートが、アズールの腹に突き刺さった。


「イッテェ」


 殴った手のほうが痛い。

 牛人鎧が異様に硬いのだ。

 カブレェラ王の鎧もミノタウロスが使用されていたモノだったが、比較にならない強度である。


「お前、牛人鎧(それ)作るのに、どんだけミノタウロス殺したんだよ」

「家畜の数など、数えるわけがなかろう」


 そんなことはない。

 愛情をもって接していれば、それが経済動物なんだとしても、数ぐらいは把握しているものだ。

 べつに動物を愛玩しているわけじゃないが、イラッとした。


「でりゃ!」


 思いを込めて、再度牛人鎧を殴った。

 一撃で壊れないのは想定済みだ。

 このままカブレェラ王のときのように連打をたたみ込む……つもりだったが、衝撃に耐えられずアズールが後方に吹き飛んでしまった。


「ウソだろ!?」


 恐ろしいほど弱い。


(よくこれでおれに勝てると思ってたよな)


 驚きよりも情けなさが上回る。


「まあ、早々に決着がつくからいいか」


 まだ大丈夫そうだが、おれたちと違い、ユウキたちは一進一退の壮絶な攻防を繰り返している。

 ただ、パワーバランスは拮抗しており、なにかの拍子に大きく動く可能性が高い。


「ふむ。やはり貴様はすばらしいな」


 アズールがなにごともなかったかのように立ち上がった。


「よもや、たった二発で牛人鎧にヒビが入るとはな」


 亀裂は確認できるが、現在進行形で修復されている。


「仕方がない。奥の手を使うか」


 いまだ振るうことはおろか、手にすらしていない牛骨刀の出番かと思ったが、違うようだ。


「ハアアアアアア」


 アズールから大量の黒い魔素が噴き出した。


「弾けて混ざれ!」


 飛び散った魔素が死んだ兵隊やミノタウロスを包み込み、一か所に集積していく。


「うおおっ!?」


 グチャグチャコネコネと混ざり合う死体は、グロテスク以外のなにものでもない。


「うえっ」


 吐きはしなかったが、喉元まで込み上げてくるモノがあった。


「お前、趣味悪すぎるだろうよ」


 見るのもおぞましいモノに、おれは風波斬をぶつけた。


「無駄だ」


 アズールの言うように、傷一つつかない。


「マジかよ!?」

「完成だ。我が覇道を確実なモノとする、パーフェクト牛人鎧だ!」


 それは鎧というより、ロボットに近い。

 肌色成分があるから人形と評する者もいるだろうが、風波斬をものともしない強度は、人のモノとはかけ離れている。


「さあ、第二ラウンドの始まりだ」


 アズールがパーフェクト牛人鎧の中に納まった。

 それも往年のロボットアニメを思わせる。


「ぐあっ」


 レオの一撃を受け倒れ込むユウキが映る鏡を見ながらつぶやいた。


「がんばってくれよ。助けに行くには、ちょっと時間がかかるかもしんねえからよ」


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