250話 勇者はユウキを送り出す
にらむような鋭い視線を向けていたのも束の間。
ガイル、セリカ、エレンの三人はうなだれてしまった。
「リリィ様」
ユウキにいたっては、大粒の涙をこぼしている。
衝撃映像を目撃したのだから、わからないでもない。
けど、あれは本当に真実なのだろうか?
だれがどうやって撮ったのかもわからない映像と、あやふやな結末しか映っていなかった。
(なんか、ドラマや映画の予告編みたいなんだよな)
実は生きていました、なんてことがあっても驚かない。
それぐらい、あの映像はアズールの言葉を証明するだけのモノ、という印象がおれの中では強い。
(う~ん。信用できない)
行ってたしかめるのは簡単だが、ここを離れるわけにはいかない。
アズールの持っているネックレス。
アレを手に入れる機会は、いまをおいてほかにない。
なら、どうするべきか。
べつのだれかに行ってもらえばいいのだ。
「ユウキ、落ち込む気持ちもわかるけどよ、泣くのはお前自身の目で確認してからにしろ」
「ですが……」
「いいから行ってこい。もし仮にリリィ姫が本当に死んでしまったんだとしたら、お前の手でフレア王国に連れ帰ってやれよ」
それが最大の供養になるだろう。
「……わかりました」
「そこで肩を落としてる三人も、一緒に行けよ」
ガイルたちがおれをにらむ。
「誰のせいでこんな悲劇が起こったと思っているんだ!」
「すべてキミのせいだ!」
「その通りです!」
「言って気が済むなら、思う存分言えばいいよ。けど、言い終わったらユウキをサポートしてやってくれ」
口々に批難する三人に、おれは頭を下げた。
「ふざけるな!」
「白々しい!」
「悪魔を信じる聖職者などいません!」
「おれを信じる必要なんかねえよ。お前らはお前らが認めたリーダーのサポートをすればいいんだからよ」
顔を上げ、ユウキを指さした。
馬車に向かう足取りはひどく重い。
肉体的疲れに、心労が重なったのだろう。
『……ユウキ……』
フラフラしている体を、走り寄った三人が支える。
袂を分けたように思えても、心根はしっかりと結ばれているようだ。
(これなら安心だな)
確認作業はユウキたちに任せていいだろう。
(っていうか……この流れはいいのか?)
アズールからすればよくない行動に思えるが、邪魔や阻害するような雰囲気はない。
「行っていいのか?」
「どうぞご自由に。リリィ姫が亡くなられた事実は変わりませんし、あなたが仰るように、フレア王国で荼毘に付されたほうがよろしいでしょう」
誠実な対応である。
だからこそ、おれの中に一つの疑念が生まれた。
けど、それを確認するのは後回しだ。
まずは、ユウキたちを送り出してやろう。
「悪いんだけどよ。できるなら馬車を二頭立てにして、ユウキを道中休ませてやってくんねえか」
馬車から馬を切り離し、それぞれが単騎で動こうとしているガイルにそう進言した。
「……」
「皆さんが急ぐ気持ちは理解できます。もし休憩が必要なら、王城で休めばよろしいのではありませんか?」
口を開きかけたガイルを阻むように、アズールがそう提案した。
それも一つの手だろう。
けど、個人的には承諾できない。
「提案は理解できるけど、どう見てもユウキの状態は芳しくないし、途中で落馬する可能性だってあるだろ。それと、最悪の場合、姫様の棺を運ぶことになるんだから、馬車は必須だろ」
「馬車なら城にもございます」
貸してくれるようだ。
「それはありがたいけど、いま必要なのはユウキの回復だよ」
ガイルたちが視線を合わせ、小さくうなずいた。
「貴様の提案を呑むのではない」
「ボクたちはリーダーを気遣っただけだから」
「勘違いしないでください」
見事なツンデレだ。
けど、三人は馬車での移動を選択してくれた。
二頭立てにした馬車にユウキを寝かせ、御者をガイルが務め、両脇のサポートをエレンとセリカが担う。
「オレたちは貴様を許したわけではない! 事実を確認し戻り次第、世界を混乱の渦に巻き込んだ悪魔を、必ず抹殺してやる」
敵意を残し、馬車は走り出した。
「チッ」
見送るおれの耳に、舌打ちが届く。
「なにか気に入らないことでもあんのか?」
振り返ると、不機嫌な表情のアズールと目が合った。
閑話を除き、250話に到達しました。
いつも通り、記念に書かせていただきます。
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これからもお付き合いくだされば幸いです。