表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

248/339

245話 勇者は魔族領に入る

「あそこが国境です」


 あれからかなりの距離走ったおれたちは、やっと中間地点にたどり着いた。


「デケェな」


 目の前には十メートル近い高さの壁がそびえ立っていて、横幅は終わりが確認できないほど長い。

 当然、出入口は固く閉ざされている。


「魔族領に行きたいので、開けてください」


 バカ正直にそう言ったところで、


「いいよ」


 とは絶対に言ってくれないだろう。


(審査を受ける時間はねえんだよな)


 そんなことをしていたら、第一師団に追いつかれてしまう。


「ユウキ、あの壁を飛び越えることはできるか?」

「大丈夫です」

「なら、このまま魔族領に入るぞ」

「はい!」


 加速し、トップスピードで踏み切った。


「あっ!? コラッ!」


 警備隊はおれたちに気づいたようだが、どうしようもない。


「おまえら止まれ! いや、戻ってこい!」


 その指示に従うなら、こんなことはしていない。


「撃つぞ」

「やめろ。外れたら魔族領に着弾する」


 警備兵は銃のようなモノを構えたが、すぐさま同僚が制止した。


「ぐぐぐっ」

「いいから、見なかったことにしろ」

「そんなわけにいくか」

「仕方ないだろ」


 なだめてはいるが、忸怩(じくじ)たる思いがあるのは間違いない。

 下唇を噛む姿がまさにそれだ。


「くそっ!」


 地団太を踏み、警備隊がおれたちをにらみつける。


(もしかしたら、これは棚から牡丹餅かもしれないな)


 申し訳ない気持ちもあるが、そう思ってしまった。

 おれたちの密入国に怒った警備兵たちは、第一師団を簡単には通さないだろう。

 そうなれば、距離も時間もより稼げる。

 その間にリリィ姫を助け出し、アズールに矛を収めてもらえば完璧だ。


「キシャァァァ」


 着地と同時に、サルの魔獣が襲いかかってきた。


「よっ」


 一刀に伏し、辺りをうかがう。

 追撃はなさそうだ。


「王城はどっち?」

「街道を真っ直ぐです」

「よし。んじゃ、いくぞ」

「はい」


 おれたちは走り出した。

 途中で魔獣に襲われることもあったが、どれも集団ではなく一匹だけ。

 たぶん、野良だろう。


(順調だな)


 群れに遭遇することのなく、ズンズン進んでいる。

 けど、このままスピードを維持するのは難しそうだ。


「はあ、はあ、はあ」


 ユウキの息が切れ始めている。

 汗もかいているし、どこかで小休憩を挟んだほうがいいだろう。


「途中にある村とか知ってるか?」

「か、街道沿いにありますが、立ち……立ち寄るべきでは、ありません」

「問題あんのか?」

「ま、魔族は人間を、嫌っています」


 ユウキはしゃべるのもキツそうなので、おれは走るのをやめて歩くことにした。


「あ、ありがとうございます」

「礼はいいよ。それよりも呼吸を整えろ」

「は、はい」


 わき腹を押さえるユウキは、少しツラそうだ。


「嫌われる理由があるんだよな?」

「キシャァァァ」


 訊いてるそばから、魔獣が襲いかかってきた。

 条件反射で斬り伏せてしまったが、これが原因かもしれない。

 不正入国した人間が無差別に殺害を繰り返しているのだから、嫌われても文句は言えないだろう。


(うん。こんなことをしてたら、普通に嫌われるよな)


 反省だ。


「キシャァァァ」


 襲ってきたサルっぽいヤツは異様に爪が長く、刺されても引っ掻かれても痛そうだ。

 安全なのは近寄らせないことだが、危害を加えるのはよろしくない。

 上半身をひねって躱したが、サルにあきらめる気はなさそうだ。


「キシャァァァ」


 再度、おれに飛び掛かってくる。


「キシャシャシャシャ」


 どれだけ避けようともお構いなしだ。

 当たるまで腕を振るい続けるという、覚悟すら感じさせる。


(ダメだ)


 これ以上付き合っていられない。


「よっ」


 竜滅刀で唐竹割にした。


「キシャ」


 絶命する寸前まで腕を振る執念に感心するが、そこまでされるほど嫌われる筋合いもない。

 現にユウキは見向きもされていない。

 魔族領に足を踏み入れてからというもの、襲われているのはおれだけだ。


「なあ、魔族は人間が嫌いっていうより、おれが嫌いなんじゃねえか?」

「そうではありません。俺と師匠に実力差がありすぎるんです」

「どういうことだよ?」

「魔族の流儀として、ボスを倒した者が、次のボスなんです」

「なるほど。序列を崩す原因になるから、嫌われてるんだ」


 ユウキがかぶりを振った。

 どうやら違うらしい。


「一定の知恵が備わっているなら問題ないんです。例えば、集落を築くような者たちなら、ある程度自分と訪問者の力量を計れます」

「じゃあ、なにが問題なんだよ」


 声も発せず襲ってきた魔獣を斬りながら訊いた。


「師匠が村に立ち寄れば、当然師匠を殺そうとする魔獣も押し寄せます。そうなった場合、村に被害が出ることもありますし、死者が出る可能性もあります」


 口ぶりからして、過去にそうなったことがあるのだろう。

 一度でもそんな体験をしたら、人間を嫌うのはわからなくもない。

 日常的に交流がないなら、なおさらだ。


「なるほど。魔族からすれば、人間は災厄を連れてくる厄介者なのか」


 ユウキがうなずいた。


「んじゃ、このまま城にいくか」

「それがいいと思います」


 おれたちの意見は一致したが、


「それは許さん」


 否定する声も聞こえた。

 見上げればそこには、大きなワイバーンがいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ