表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

243/339

240話 勇者は鶏がら宰相を捕まえる

「あの、師匠。道が違います」


 申し訳なさそうに、ユウキがそう声をかけてきた。


「大丈夫。ちゃんとわかってるよ」


 不安になるのも当然だ。

 なにせ城外に向かったおれたちは、くるっとUターンして、場内に戻ってきたのだから。

 ただ、物陰に潜んでいる現状から、なにか思惑があると感じてほしい。


(まあ、無理か)


 一刻も早くリリィを助けたいユウキからすれば、おれのやっていることは意味不明だ。


「なあ? 王様の寝室ってどこ?」

「執務室の隣りの隣りです」

「あそこか」


 わかるけどわからない。


「悪いけど、案内してくんねえかな」

「わかりました」


 ユウキを先頭に、コソコソと動き出す。


「師匠、退き返しましょう」


 前に兵士がいるのはわかっているが、踵を返すことはできない。

 なぜなら、


「無理。後ろにもいる」


 からである。


「じゃあ、どうしますか?」

「とりあえず、屋根に避難するぞ」

「はい」


 おれたちはシュッと跳び上がり、屋根に降り立った。


「あははは。それでその子がさぁ~」

「マジかよ。うらやましいなぁ」


 のんきな会話をしているから、兵士たちはおれたちに気づかなかったようだ。


「よし。このままいくぞ」


 下に降りるより、屋根を進んだほうがショートカットになる。


「こっちです」


 再度コソコソ歩き出すが、すぐに手詰まりになった。

 目的地は二階下なのだ。

 屋根からはどうあっても行けない。


「おっ!? あそこが謁見の間だよな」


 ステンドグラスが割れている個所がある。


「あそこから降りれば音もしねえよな」

「はい。ですが、確認は必要かと」


 異論はない。

 編成会議やらなにやらが行われている可能性がある。


「大丈夫……そうだな」


 窓から覗いたが、人影は皆無だ。


「んじゃ、いくか」

「はい」


 シュタッとおれたちは降り立った。

 事前確認通り、謁見の間にはだれもいなかった。

 けど、これからもそうであるとはかぎらない。

 廊下のほうからは、バタバタと人が行き交う足音と怒鳴り声が響いている。


「こりゃ、廊下は無理だな」

「ですね」

「寝室はどっち?」

「あっちです」


 ユウキが指し示す壁に近づき、おれは竜滅刀を振るった。


「師匠!?」


 普通なら壁が崩壊する音が響くのだろうが、聞こえたのはユウキの声だけ。

 小石サイズに斬り刻んだ結果、微細な音しか鳴らなかった。


「よし。いくぞ」


 幸いにして、隣りの部屋にはだれもいなかったが、壁の向こうには人の気配がする。


「しかたねえ」


 おれは足元に小さなレーザーショットを放った。

 覗き穴の完成だ。


「どれどれ」


 確認した結果、人影はなかった。

 たださっきと違い、床に穴を開ければ、落下音は防げない。

 外にモノを投げて音をごまかす方法もあるが……


(ダメだな)


 音はどうにかなっても、震動まではごまかせない。


「地道にいくか」


 急がば回れ。

 細いレーザーショットで穴を拡大するのがベストだと思う。


(いや、待てよ!?)


 もっといい方法を思いついた。

 ただ、それを行うには確認が必要だ。


「竜滅刀。ドリルのような使いかたをしても許してくれるか?」


 刀身が光った。


 問題ない!


 なんとなくだが、そう言ってるような気がする。


「ありがとう。んじゃ、遠慮なく」


 覗き穴に刀身を差し込み、すりこぎを回すように床を削っていく。

 落下物も粉状になっており、音を気にする必要もない。

 穴はみるみる広がり、一分もせずに人が通過できるサイズに広がった。


「凄いですね。師匠」

「おうよ。おれの愛刀は世界一だ」


 当然です!


 おれが胸を張るように、竜滅刀も自らを誇っている。


「よっ」


 おれとユウキは下の部屋に移動した。


「この部屋の隣りが、王様の寝室です」

「んじゃ、早速」


 竜滅刀で壁を斬ると、室内にはベッドに寝かされたカブレェラ王と、黒いフード付きマントを羽織った男がいた。


「ちっ」


 舌打ちした男がナイフを振りかざす。

 狙いはカブレェラ王だ。


「させるか!」


 瞬時にユウキが動いた。

 けどダメだ。

 間に合わない。


「死ね!」


 振り下ろされたナイフが刺さる前に、


「死なせねえよ」


 ユウキより先に動いていたおれの蹴りがヒットした。


 ドン!


 吹き飛んだ男が、結構な音とともに壁に激突した。


(ヤベェ)


 せっかくここまで忍んできたのに、騒音を奏でてしまった。


「王様、いかがなさいました?」

「開けるな! 余は大丈夫だ」


 ドアノブは回されたが、扉は閉まったまま。

 カブレェラ王の一声が効いたようだ。


「いいのかよ?」

「助けてもらった礼だ」

「勘違いだよ。おれはこれ以上濡れ衣を着たくなかっただけだよ」


 部屋にあったヒモを使い、フード男を縛った。


「ったく、あぶねえじゃねえか」

「解け! くそっ、なぜ貴様がここにいる!?」

「その説明の前に、顔を拝見だな」


 フードを取ると、鶏がらの宰相が顔を見せた。


「お、王様。これは違うのです。私はこやつにハメられたのです」

「王様を殺せば、次期国王にしてやるって?」

「そ、その通りだ」


 宰相がぶんぶんうなずいている。

 これはたぶん、ウソじゃない。

 その提案は事実としてあったのだろう。

 ただ、取引相手がおれじゃない、というだけだ。


「アズールもずいぶんと奮発したみたいだな」


 宰相が目を見開いた。

 ビンゴらしい。


「驚くことじゃねえだろ。現状でその提案ができるのは、リリィ姫を攫った魔族領の人間しかいねえんだからよ」

「違う! 私は知らない」

「そうかい。んじゃ、一つだけ教えてくれよ。リリィ姫はいまどこにいる?」

「し、知らない」

「隠してもいいことねえぞ。ってか、情状酌量を得たいなら、素直に話したほうが得なんじゃねえか?」


 かぶりを振り続けていた首がピタッと止まった。


「魔族の王城で幽閉されている」


 だいぶ打算的に生きているようだ。


「生きてるんだよな?」


 宰相がうなずいた。


「よし。んじゃ、今度こそ行くぞ」

「はい!」

「待て!」


 なぜかカブレェラ王に呼び止められた。


「こんなことを言えた義理ではないが、リリィを救ってくれ」


 顔を歪めたカブレェラ王が、ベッドの上で土下座した。

 身体が痛いからではなく、後悔が生み出した表情と土下座(こうどう)だと思う。


「ユウキ、お前が答えろ」

「その任務、必ず遂行してみせます!」

「だってよ」

「恩に着る!」


 頭を下げ続けるカブレェラ王と捕縛した宰相を残し、おれたちは魔族領に向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ