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237話 勇者は契約を破棄した

「こんにちは。王様」


 闘技場のドアを開けながら、おれは中にいるカブレェラ王に声をかけた。


「あの軍勢を相手にした割に……貴殿は壮健そうだな」

「おかげさまで、かすり傷一つございません」

「にわかには信じがたいが、噓ではなさそうだな」


 両手を広げ、くるっと一回転してみせた。


「我が軍と宮廷騎士団でも相手にならぬか」

「ご安心ください。数人の軽症者はいますが、死者はだしておりません。まあ、私刑されてればわかりませんが」

「はっはっはっ。我が軍にそのようなことをする者はおらんさ」


 イヤミのつもりだったのだが、笑い飛ばされてしまった。


「さて、長々と話す時間も惜しい。()るとするか」


 カブレェラ王が刀を抜いた。

 柄が前に見た物と同じだから、アレが強化された宝剣だ。


「いきなりですね」

「言い訳をするつもりはないのでな」

「負けたのをお忘れですか?」

「今の余は、あの時の余ではないぞ」

「金ピカの鎧は凄そうですよね」


 顔のみが露出していて、後は金に包まれている。

 一枚板で作られているように見えるが、関節の動きもなめらかだ。


(薄いってわけじゃねえよな)


 服のように作ることは可能かもしれないが、防具としては本末転倒だろう。

 落ちた性能を補うための強化では意味がない。


「はっはっはっ。余の装備を計りかねているようだな。なら、その身をもって教えてやろう」


 カブレェラ王が地を蹴った。

 前回より数倍速く、もうおれの目の前にいる。


「ダアッ!」


 振り下ろされた宝剣も段違いだ。

 とはいえ、この程度なら余裕で躱せる。


「ゼイ!」


 おれが飛び退くのは想定済みだったようで、突きに変化した剣先が追ってくる。


「よっ」


 さらに大きく飛び退いた。


「どうした? 手も足も出んのか?」

「少し話がしたいんですよ。たとえば、今後の国家運営について、とか」

「貴殿の考えている通りだ。富国強兵がなった今、ヤスモ王国を除く全てを統一する」

「その後は?」

「いずれは大陸の統一も成し遂げようぞ!」


 話している間も、カブレェラ王の猛攻は続いている。

 その表情は気色ばんでおり、自分が描く未来になんら疑問はないようだ。


「でもそうなると、最悪リリィ姫が死んでしまわれるのではありませんか?」

「それは貴殿の責であろう。余との約束を遂行せず、遊んでいるのが悪いのだ」

「いまからでも間に合うと思いますけどね」

「そうかもしれぬが、時間は有限だ。余は一刻でも長く、より高い地位に就きたい」


 出世欲を否定するつもりはない。

 おれだって、給料を上げるためにたくさんの資格を取った。


「後継者はどうするのですか?」

「妾に産ませればどうとでもなる。余はまだまだ現役だ」

(うわっ)


 突然の下ネタにヒイてしまった。

 と同時に、


(このおっさんマジかよ!?)


 なんて呆れてしまう。


「あのステルとかいうメイドも、美味そうだったな」


 …………

 あまりのことに一瞬、フリーズしてしまった。


「おちょちょちょちょ」


 ギリギリで剣閃を躱せたのは幸いだ。


「あの、王様? 発言がどんどん危なくなってますよ?」

「ふふふはっはっはっ。余は元からこういう男だ。今までは貴殿や部下にいい顔をしていたに過ぎぬ」


 アウト。


「城の中でその発言はマズイと思いますよ?」

「ここには余に逆らえるものなどおらぬ! 勇者とて例外ではない」

「そのことなんですけど、ユウキはいまどこにいます? まさか、死んでませんよね?」

「奴は市民に人気があって利用価値が高いからな。今は地下牢に閉じ込めておるが、ゆくゆくは我の右腕に戻すつもりだ」

「実直な彼が、いまの王様に仕えますかね?」

「駄目なら駄目でかまわんさ。そのときは反逆罪で処刑するだけだ。そのために、貴殿に洗脳されたと伝聞させたのだからな」


 意外と頭は回るようだ。


(脳筋だと思ってゴメンよ)


 心中で謝罪しながら、カブレェラ王の攻撃を躱し続ける。


「ですが、いくら洗脳されたからといって、殺すのはマズくないですか? 市民も反発するでしょうし」

「愚民も一掃できれば好都合だ」


 ツーアウト。


「では、最後にもう一度お訊きします。リリィ姫の救出はどうされるのですか?」

「魔族領を占領した後で探せばよい」

「じゃあ、おれが捜索に行く必要はないんですね?」

「死人が動くことはかなわんだろ」


 スリーアウト。

 これで攻守交代だ。


「では、契約破棄ということでよろしいですね?」

「ああ。忠誠を誓うなら生かしてやるが、貴様はそのタイプではなかろう」


 正解である。

 だれかの部下になることに抵抗はないが、上司は選ぶタイプだ。

 貴殿から貴様に敬称が変わったように、立場によって態度を変えるヤツは好きじゃない。


「んじゃ、契約破棄(ハンコ)、押させてもらいますね」


 おれの繰り出した右拳(ハンコ)が、カブレェラ王の腹に突き刺さった。


「ぐはああああ」


 巨体が吹き飛び、砕けた鎧とともに壁に激突した。


「馬、馬鹿な!? こんなことがあるわけがない!」


 驚くカブレェラ王と同じように、おれも驚いていた。


(金ピカ鎧が修復してるな)


 腹部に開いた穴がみるみる塞がっていく。

 自動修復のエンチャントが仕込まれているようだ。

 すぐに立ち上がった様子からして、ダメージも少ない。


「貴様! 世界の王に手をあげていいと思っておるのか!?」

「冒険者一人倒せねえ人間が、その地位に就くことはねえだろうよ」

「では、それができることを、今から証明してくれる!」


 振り下ろされた宝剣が青白く光りっている。

 爆発、感電、凍結などの効果付与かもしれないし、ただ単に斬撃の威力を高めているだけの可能性もある。


(まあ、どんなもんでも関係ねえけどな)


 竜滅刀に手をかけ、引き抜いた。


 キィン


 なんの手応えもなく、カブレェラ王の宝剣は真っ二つになった。


「馬鹿な!?」


 驚くのは勝手だが、自分の心配をするほうが先である。

 おれが手を止めなければ、間違いなく首が飛ぶ。


「っなああ!?」


 気づいたようだ。


「ご安心ください。殺しませんよ」


 直前で静止したが、ちょっとだけ遅かった。

 薄皮が斬れ、カブレェラ王の首から微量の出血が確認できる。


「うああああああああ」


 恐怖にパニックを起こし、カブレェラ王がおれを殴ろうとする。


「いやいや、いま動くのは危険だよ」


 首元に竜滅刀があり、少しでも動けば死んでしまう。


「うああああああああ」

(ダメだ)


 正常な判断ができないから、パニックを起こしたのだ。

 慌てて竜滅刀を引っ込める間に、カブレェラ王の拳が降り注ぐ。


「ちょちょちょ、ちょ待てよ」

「うああああああああ」


 腰が入ってないから痛くはないが、気持ちいいモノでもない。


「ったく、いい加減にしろよ!」


 降り注ぐ拳を払い、一発殴り返した。

 金ピカの鎧の胸の部分が弾け飛んだ。


(これでやめてもいいけど、徹底的にやるべきだよな)


 でなければ、カブレェラ王は抵抗し続けるだろう。


「でりゃああああ」


 拳の乱打を叩きこむ。


「あたたたたたたた」


 胴体を殴るたび、腕や足部分の鎧が消失していく。


「あたたたたたたた」


 いつの間にやら、気分は北●の拳だ。


「ぉわったぁぁ~」


 最後の一撃で鎧は霧散し、修復することはなかった。

 カブレェラ王も意識を失った。


「うしっ。ユウキのところに行くか」


 こうして、両者合意の元、契約は破棄された。


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