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233話 勇者が提案した

「成生様、わてと取引してくださいな」


 クロードがピアスを装着しながら、そう言った。

 イケメンから小太りの男へとチェンジしたということは、ここからは宰相ではなく、一商人として交渉するという意思表示だ。


「内容によるな」

「それは簡単ですぞ。成生様がこの地で起こっている諸問題を解決してくださるのなら、後始末はすべて、わてが引き受けます。そして、その際にみんなが幸せになることも、お約束いたしますぞ」

「いや、みんな幸せになることは不可能だろ」


 利益の相反があるのは間違いないし、その幅も大きい。

 けど、そのみんなが絞れるなら、不可能ではない。


「ご安心ください。カブレェラ王やアズール宰相を殺す気は毛頭ございませんぞ」


 おれの思考は読まれているようだ。


「だとすれば、みんなが幸せになることはねえよな?」

「大願成就という意味では無理かもしれませんが、それが不幸である、とも限らないのではございませんか?」

「死ぬよりマシってことか」

「左様でございますな」


 否定しないところが、余計に怖い。


「生き地獄って言葉もあるよな」

「カブレェラ王とアズール宰相は、それを味わうかもしれませんな」

「なら、幸せにはなれねえだろ」

「幸も不幸も生きていればこそ味わえるのであって、それが感じれることを、幸せと呼ぶこともできましょうぞ」


 表情こそ笑顔だが、笑ってないのは一目瞭然である。


「なるほどな。よ~くわかったよ。相当、頭にきてんだな。でぇ? なにが、マケ・レレの逆鱗に触れたんだよ」

「奴らはわての商売をボロボロにしただけに飽き足らず、今後もボロカスにするつもりのようですからな」

「まるで全面戦争を仕掛けられたような口ぶりだな」

「宣戦布告こそされてはおりませんが、奴らの行動はそれそのものですな」

「具体的には?」

「フミマ共和国への入国希望者を傷つけるだけでなく、グルドに火を放ち、店主を負傷させました」

「その濡れ衣を着せたってことか?」

「そうではございませんぞ。奴らが侵害したのは、我ら商会の利益ですぞ」


 マケ・レレの商会がフミマ共和国に食い込んでいるのは理解していたが、実際はその上をいくのかもしれない。

 でなければ、庶民が傷つけられた、と怒りはしないだろう。


「勘違いなさらないでいただきたいですな。我々は、フミマの庶民が傷つけられたことに腹を立てているわけではございませんぞ。我々が許せないのは、入国希望者の中に開戦の空気を感じてフミマに逃げてきた富豪が混ざっていたことです。彼らは安全を買いに来ましたが、襲われたことで帰国してしまいました」

「難を逃れようとした場所で難に遭遇したんだから、当然だよな」

「その判断を咎めることは致しませんが、その富豪が泊まる予定でしたのが、成生様たちが借りたリゾートです」


 驚いた。


「ってことは、あそこもマケ・レレの商会のモノなんだな」

「その通りですな。そして、あそこの収益は、我が商会における収益の柱ですぞ」


 見込めるはずの収益を消されれば、頭に来るのは当然だ。

 けど、長期的に見れば問題もない。

 富豪(きゃく)は必ず戻ってくるだろう。


「成生様、キャパを埋めることは簡単ですが、埋め続けるには努力がいるのです。どれほど優れた箱を用意しようとも、そこに見合う中身がなければ、意味がないのです。奴らは、それを傷つけたのですぞ!」


 糸のように細い眼が猛烈に吊り上がっている。

 激怒しているようだ。


「フミマにおいて、グルドの店主を超える料理人は存在しませんぞ!」

「ってことは、あの若旦那はマケ・レレの部下なのかよ」

「違いますな。何度もヘッドハンティングの交渉はしましたが、どんな高額な報酬や待遇を提示しても、彼が首を縦に振ることはありませんでした」


 その気持ちはなんとなく理解できる。

 金やポストより大事なモノは、たしかに存在するのだ。

 マケ・レレにもその矜持があるからこそ、若旦那を評価し、贔屓しているのだろう。


「グルドの調理は絶品で、都合が合えば出張調理も請けてくださりました。あの料理があるとないとでは、顧客の満足度は天と地ほどの開きがあります」


 それも同感だ。

 あの料理には、人生を幸せにする力がある。


「それを奪った者を、わては許しませんぞ」


 三度同感だ。

 意識せずとも、深くうなずいてしまう。


「犯人はカブレェラ王ですぞ」

「マジか!?」

「間違いありませんな。あの火災を起こした連中が、我が国に来る途中の成生様に、魔獣をけしかけたのですからな」

「なんでそうなるんだよ」

「奴らはすでにミノタウロスの素材を武器や防具に加工し始めております。普通ならそれで十分なのでしょうが、相手が我が国や成生様ともなれば、心許ないのも事実ですからな。だからこそ、操った魔獣を成生様に殺させ、素材となる材料だけ掻っ攫ったのです」


 …………ダメだ。

 冷静になろうと努力したが、はらわたが煮えくり返っている。


「魔族領も共犯なのか?」

「まず間違いないでしょうな。魔獣を操るモンスターテイマーは、魔族領にしかおりませんのでな」

「ってことは、フレア王国と魔族領は手を取り合ってるってことか?」

「その可能性は皆無ではございませんが、期待薄でしょうな。両国は水面下で争い続けておりますのでな」

「なら、今回は利害の一致で共闘したわけだ」


 最高はおれの始末で、最低でも魔獣の素材を入手できる。

 損のない話だ。

 …………


「よし。潰すか」


 少し考えた末、おれはそう提案した。


話が進まず、申し訳ございません。

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