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231話 勇者はフミマがゴミ溜めだったことを知る

 フレア王国と魔族領の勝者が、フミマ共和国とミドナ王国の領土を手にできるそうだ。


(また面倒くせえ話になってきたな)


 いまでさえ複雑なのに、さらに絡み合うらしい。


「戦争の勝者が領土の拡大をすることはご理解いただけると思いますが、なぜそこにフミマ共和国が組み込まれているのか。それには、あの国の成り立ちが関係しております。成生様は薄々お気づきかもしれませんが、フミマ共和国とは、フレア王国、ミドナ王国、魔族領の頭文字を取って名付けられました」


 気づかなかった。

 けど、言われてみれば、その通りだ。


「一〇〇年と少し前まで、あの土地に所有者はおらず、誰のモノでもありませんでした」

「緩衝地帯だったのか?」

「そういう見方もできますが、あそこには先の三国の権力争いに負けた邪魔者を押し込めておく、ゴミ溜めのような役割があったのです」

「いや、それは無茶だろ」

「ええ。無茶です。けれど、それでよかったのです。誰のモノでもない土地に知恵の足りない連中を送り込み、その地にいるすべての者を蹂躙すればその土地はお前の物だ、などと餌をぶら下げるだけで、馬鹿どもは勝手に殺し合ってくれますので」


 えげつない話だ。

 ある意味、地獄と変わりない。


「けど、団結するやつもいたんじゃねえか?」


 全員が脳筋なわけはないし、悪知恵の働く輩もいたはずだ。


「ご安心ください。各国とも時に大罪人を送り込み、秩序を乱すことに抜かりはございません」


 恐ろしいことだが、統一されても困るのだから、理にはかなっている。

 ただ、気になることもあった。


「その場……わかりにくいからフミマと言わせてもらうけどよ。そこの争いに敗れたヤツが、国境を接するヤスモ王国やフレア王国を攻撃することはなかったのか?」

「フミマに入国する際にくぐった石造りの大きな検問所を覚えていらっしゃいますか?」


 おれはうなずいた。


「あれは元々、国境を封鎖する巨大な石壁でした。警備も厳重でしたようで、あれを超えてフレア王国に行きつく者は、皆無だったようです」

「ヤスモ王国側にはねえよな?」


 砦はあったが、壁のようなモノは目にしていない。


「我が国に矛を向ければ、それは己に刺さります」

(こっわ!)


 容赦ない対応だったことは、想像に難くない。


「そんな場所がよく国になったな」


 スラムのような場所もありはしたが、ごく普通の町の印象が強い。


「きっかけは、我が国が西方と北方の戦争に勝利したことです」

「戦後処理が終われば、今度はフミマが狙われると考えたわけだ」

「その通りです。各国からすればゴミ溜めのような場所ですが、我が国からすれば治安の悪い隣人ですからね。綺麗にし美しく統治する建前にはなるでしょう」


 クロードの言う通り、大義名分にはピッタリだ。


「とはいえ、当時の我が国は疲弊し、すぐに軍事行動に移る可能性は皆無だったようです。しかし、他の三国にそんなことは理解できません。そしてなにより、彼らが一番恐れたのは、我が国と全面戦争になることです」


 それはそうだろう。

 負けが決まっている相手と戦うなど、バカらしいにもほどがある。


「そこで彼らが考えたのが、フミマ共和国の建国です」

「ゴミ溜めに?」

「血で血を洗う抗争を繰り返し土地を争っていた三国が和平を結び、手を取りあいながら知恵を絞り、種族や貧富に関係なく、誰もが幸せな一生を体現できる、理想国家を樹立する、という建前を掲げての建国でした」

「滅茶苦茶だな」


 絵に描いた餅にもならない、荒唐無稽の絵空事だ。


「まったくもってその通りですが、我が国としては攻めにくいわけです」

「他国の目があるわけだ」


 クロードが首肯した。


「ってことは、ヤスモ王国と並び立つ国も存在するんだよな」

「もちろんです。海を挟んだ大陸には、今も強敵がゴロゴロいます」

「なるほど。そいつらからしたら、ヤスモ王国がフミマ共和国を攻めたときが、侵攻の合図になるわけだ」

「ご理解いただけてなによりです。そしてそれは、フレア王国や魔族領に対しても言えることです」


 クロードが言っているのは、ヤスモ王国がフレア王国や魔族領に侵攻するのは、ミドナ共和国に侵攻するのと同義であり、他国による武力介入の理由になりえる、ということだ。

 無茶苦茶にも思えるかもしれないが、こちらは荒唐無稽な話ではない。

 戦争を起こす側からすれば、建前があればいいのであり、その内容は関係ないのだ。


「マジで面倒くせえな」

「同感です」

「でもその説明で、あの辺が問題だらけなのはよくわかったよ」

「ご納得のところ申し訳ございませんが、話はまだ終わっておりません」

「わかってるよ。けど、おおよその見当はついてるよ。三国が手を取り合って建国したんだから、なにかしらの理由で統一が成された場合、ほかの領土も勝者のモノになる、みたいな密約があったんだろ」

「さすがですね。一を聞いて十を知る、とは正にこの事です」


 クロードが感心している。

 その気持ちは十分に理解できるし、彼が王様に説明させなかったのも理解できた。


(こんな面倒くせえ話、病人にさせられんねえよな)


 正直、健康体のおれでもイヤだ。


「話の途中ですが、わたくしも少々疲れました。一時休憩いたしませんか?」

「賛成」


 クロードの提案に、おれは速攻でうなずいた。


うるう年の2月29日に更新です。

なんかちょっぴり嬉しかったりします。

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