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227話 勇者はマケ・レレと再会する

「あそこか」


 足早に進むこと数十分から一時間。

 やっと国境のようなモノが見えてきた。

 陽が落ちたせいで全貌は把握できないが、石造りの砦が最低でも二基ある。


「止まれ」


 むこうもおれに気づいたようだ。


「現在この国境は塞がれている。用なき者は即刻立ち去れ」

「あの、おれの声って聞こえてますか?」


 相手は拡声器のようなモノを使用しているが、こちらは地声である。


 …………


 反応がないから、届いていないのだろう。


「ちょっとだけ近づきますね」


 意志の疎通ができないのでは、にっちもさっちもいかない。

 せめて会話が成立する距離まで詰めよう。


「動くんじゃない!」


 二、三歩進んだだけで、静止の声がかけられた。

 従うことは簡単だが、事態が進展しなければ意味がない。


「暴れたりしませんから、話だけでもさせてくれませんかね!?」


 腹から声を出したが…………返事はなかった。


(無理だな)


 あきらめかけたが、


「いいだろう。だが、こちらが少しでも不審な動きをしたと判断したら、そのときは武力行使も厭わないことだけは伝えておく」


 届いていたようだ。


「んじゃ、そっちに行っていいですか?」


 声を張り上げるのもしんどい。


「ゆっくり進め…………こらっ! ゆっくりと忠告しただろうが!」


 歩き始めてすぐ注意された。

 速足のつもりは微塵もないが、この速度はダメみたいだ。


「次はないぞ。今度こちらの指示に従わなければ、予告通り武力行使する」


 声が熱を帯び始めている。


(こりゃマジでやられるな)


 弓矢、鉄砲、魔法などの手段はともかく、それが実行されるのだけは疑いようがない。


 ギーガシャン、ギーガシャン


 撃たれるのはイヤなので、壊れかけのロボットが動く画を思い描き、おれはことさらゆっくりと歩を進めた。


「撃て~!!」


 砦の上方がピカッと光った。

 それは間違いなく、魔法が放たれる兆しだ。


「ふざけんなよ!」


 撃ち出された電柱のように太い光線を、おれは横に飛んで躱した。


「撃てッ~!!」


 砲台は複数あるらしい。

 最初とは違う角度から、二発放たれた。


「ちょちょちょ」


 避けるのはむずかしくないが、このままでは地面が穴だらけになってしまう。

 両手を上げて戦う意思がないことを示しても後の祭りだとは思うが……


「頼む。通じてくれよ」


 おれは両手を高く持ち上げた。


「何か合図を送っているぞ! 総員警戒せよ!」


 ダメだった。

 誤解に拍車がかかり、事態はより悪いほうへと転がった。


「どうしたもんかな」


 砦を無力化することは可能だが、それを実行した途端、ヤスモ王国との関係は壊れ、修復することは叶わないだろう。

 結果、事態は混沌を極め、世界大戦の引き金になる可能性だってある。


(あ~、ヤダヤダ)


 ただえさえゴタゴタが続いているのに、これ以上複雑に絡み合ったらお手上げだ。

 魂のカケラを探すどころの話ではない。


「ったく、マジ勘弁してくれよ。おれはヤスモの偉いさんと話がしたいだけなんだからよ……って、そうだ」


 おれはなんの当てもなく来たわけではなかった。

 ポケットには、マケ・レレから貰った木札が入っている。

 これを見せれば、大抵のことは優遇される、とマケ・レレ本人が言っていたではないか。


「よし。なんとかなるかもしんねえな」

「撃て~ッッ!!!!」


 迫りくる砲撃を躱しながら、おれは一足飛びに砦に近づいた。


「敵は真下だ! 弓隊構え!」

「待て待て待て。これが目に入らぬか!」


 水戸のご老公の従者が突き付けるように、おれはマケ・レレから渡された木札をかざした。

 全員の視線が集中する。

 まじまじと見つめているようだ。

 後はお約束。


「ははぁ~」


 とひれ伏すのを待つのみだ。


「撃て~ッ!!」


 ひれ伏すどころか、矢の嵐が降り注いだ。


「ちょちょちょ。マジでふざけんなよ。ちゃんと見ろって!」

「どこの間者かは知らぬが、その程度の木片で誤魔化されはせん!」

「バカ野郎。これはマケ・レレから貰ったんだよ」

「嘘をつくならもう少し考えるのだな。我が国の高官が、貴様のようなごろつきと面識があるわけがなかろう。まして、そのような木札(モノ)を渡すわけがない!」

「いや、マジであいつから渡されたんだよ」

「あいつ呼ばわりするとは無礼千万。総員撃て~ッ! 撃て撃て撃て~~ッッッ!!!!」


 火に油を注いでしまった。


(これはいったん退いたほうがよさそうだな)


 砦の近くで右往左往すれば、矢が当たったりしてケガをするヤツもでてくるだろう。

 そして、その責任は十中八九おれのものになる。


(よし。そうと決まれば……んん!?)


 ピタッと攻撃が止んだ。


(なんだ!?)


 突然のことに面食らうが、待てど暮らせど再開される兆しはなかった。


「どうした!? 撃て! 撃て!! 撃て~ッ!!」


 上官は吠え続けているが、笛吹けども踊らず状態だ。


「撃て! 撃て! 撃て~ェッッ!」


 唯一飛んでいるのは、上官のツバだけだ。


「あっ!? ひょっとして、木札(コレ)が本物だと気づいたんじゃねえか」

「そんなわけあるか!」

「いえ、その通りですぞ」


 聞き覚えのある声がした。


「ったく、来るならもうちょっと早く来てくれよ」

「これは失礼。ですが、わても暇ではありませんのでな。いつ来るかわからぬ御仁を待ち続ける時間はございませんぞ」

「あの、お話し中申し訳ございません……失礼ですが、マケ・レレ様ご本人でいらっしゃいますか?」


 信じられないモノを見るように、上官が目をしばたたかせている。


「見ての通りですな」

「では、この方は……」

「わてが招待したお方ですぞ」

「失礼しました」


 顔面を蒼白にさせた上官が、慌てて頭を下げる。


「どうされますか? 成生様の溜飲が下がらぬのなら、処刑することも可能ですぞ」


 真顔で恐ろしいことを言わないでほしい。

 冗談なのは理解しているが、上官のヒザが尋常でないくらい震えているから、有言実行できるのは疑いようがなかった。


(安心しろ。すぐに否定してやるからな)


 死にそうなほど顔面が蒼白になっている。


「双方にケガもないし、彼は任務を遂行しただけだよ。罰せられるようなことはなに一つしちゃいないよ」

「そうですか。では、こちらへどうぞ」


 促され、おれたちは砦を通り抜けた。


「あちらにお乗りください」


 立派な馬車だ。

 カブレェラ王が乗っていた馬車より、派手で大きい。


「お前たちは引き続き任務にあたるように」

『はっ!』


 敬礼する兵士たちを横目に、おれたちは馬車に乗り込んだ。


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