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224話 勇者は施設を後にした

 部屋に戻り、会話を再開させた。


「おれはこの後、ヤスモ王国に行こうと思ってるけど、二人はどうする?」

「リリィ様の捜索任務に戻ります」


 ステルは即答したが、ユウキは思案している。


 …………


「俺は、一度フレア王国に戻ろうかと思います」


 熟考の末、ユウキはそう言った。

 表情が硬い。

 なにか思うところがあるのだろう。


「大丈夫なのか?」

「……はい」


 一瞬の躊躇に本音が垣間見えたが、本人が大丈夫だというなら信じるしかない。


「わかった。行ってこい……って言ってやりたいんだけど……ここに残る者も必要なんだよな」


 子供たちの安全のため、という側面もあるが、実際は矢面に立つ人間がいてほしい。

 執事相手ならまだしも、チンピラ相手には後ろ盾となる戦力が必要だ。

 それを頼めるのは、ユウキかステルしかいない。


「では、私が残ります」

「頼めるか?」

「問題ありません。ですが、リリィ様のほうは……」

「気にしないでいい。いまはこっちを優先してくれ」

「了解しました」


 後手後手に回るのは厳しいが、焦って失敗するよりマシだ。

 不安を軽減するためにも、打てる手は打てるだけ打っておくべきだ。


「なにかあったら、これでどうにかしてくれ」


 ステルに五〇〇〇パルクが入った袋を渡した。


「よろしいのですか?」

「最優先は施設(ここ)にいる全員の身の安全。金で済むなら、惜しみなく使ってくれ」

「了解しました」

「後、隣りの施設にいる奥さんの旦那さんのケアもしてやってくれ。治療費も払ってくれていいからよ」

「わかりました。お任せください」


 胸を張るステルは頼もしい。

 王宮勤めの経験がある彼女なら、不足はないだろう。


「それと、場所を移す心構えもしといてくれ」

「ここを離れるのですか?」

「手狭になるかもしれないけど、一か所にいたほうが都合がよさそうだからよ。ヤスモ王国に行く前に、執事に相談してみようと思う」


 お互いが離れている現状、どうしたって一人ではカバーしきれない。

 それを解決する方法は、集合する以外にない。


「わかりました。いつでも動ける準備だけはしておきます」

「頼むよ。んじゃ、ユウキにも渡しておくな」

「いえ、俺は不要です」

「いいから持ってけ」


 両手で硬貨をすくい、袋に詰めた。

 数百枚はあるだろうから、当面の資金に困ることはないはずだ。


「それと、フレア王国に行くなら、これも運んでくれ」


 ミノタウロスの牙を一本渡した。


「カブレェラ王に、使いかたは任せるから戦争を回避してくれ、って伝言も頼むよ」

「わかりました。では、いってきます」


 決意に満ちた表情で、ユウキが出て行った。


「んじゃ、おれも……と思ったけど、だれか巾着袋みたいの持ってねえかな?」

「申し訳ございません」


 ステルは所持していないようだ。

 備品にはありそうだが、勝手に持ち出していいモノだろうか?


「はい。コレ」


 小さな少女が歩み寄ってきて、巾着袋を差し出した。


「貸してくれるの?」

「うん。でも、絶対に返してね」


 奴隷の少女が持っていたそれは、唯一の所持品であり、思い入れのある品で間違いない。


「わかった。約束するよ。絶対に返す」

「うん!」


 大きくうなずき、少女は仲間の輪に戻っていった。

 巾着袋に硬貨を詰め、おれの出かける準備も整った。


「んじゃ、行ってくるけど、お互い言い残したことはないよな」

「ありませんが、このお金はどうされるのですか?」

「それも生活の維持に使ってくれ。ただ、無駄遣いは控えてくれよ」

「了解しました。成生様、道中の無事を願っております」

「ありがとうよ。んじゃ、今度こそ行ってくるわ」


 おれは施設を後にし、フロントのある建物を目指した。



「いらっしゃいませ」


 中に入った瞬間、執事がおれに気づいて頭を下げた。


「一番大きな場所に移ることって可能ですか?」

「問題ありません。しかし、現在ご使用中の施設はどうされる予定ですか?」

「キャンセルでお願いします」

「その場合、ごく短い時間のご使用でありましても、施設の点検や清掃が入りますので、全額返金というわけにはいきませんが、よろしいですか?」


 ぼったくりや因業と感じる者もいるだろうが、おれはそうは思わない。

 ハイクラスを維持するには、それ相応の費用がかかるモノだ。


「大丈夫です」

「承りました。では、少々お待ちください」


 執事がフロントを離れた。


 …………


「お待たせしました。こちらは、新たに施設を借りるための書類です。そしてこちらは、現在借りている施設を解約する旨と、清掃などにかかる費用を差し引いた額を返却することに同意する書類です。それぞれに金額が表記されていますので、ご確認の上、納得された場合、サインをお願いします」


 新たな施設のレンタル代は一日五〇パルク。

 二つの施設の清掃費用が合わせて四〇パルク。

 最初に払ったのが一〇〇パルクだから、差し引き一〇パルクが返還されるようだ。


(なんの問題もねえな)


 おれは手早く二枚の書類にサインした。


「ありがとうございます。すぐに移動なさいますか?」

「牛車は出していただけますか?」

「もちろんです」

「では、お願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」

「ちょっと待ってください」


 風のように消えられる前に、おれは執事を呼び止めた。


「なんでしょう」

「おれともう一人の男は出かけますので、運ぶのは女性と子供たちだけで大丈夫です。それと、帰ってきた際に案内をお願いしてもよろしいですか?」

「もちろんです」


 これで手筈は整った。

 後はステルに任せるしかない。


「いってらっしゃいませ」


 執事に見送られ、おれは建物を後にした。


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