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221話 勇者はステルとユウキを肯定した

 カナサイドの年少組は探検していたが、ユウキ、ステルサイドの子供たちは、だれ一人していなかった。

 年長組を含め、部屋の隅で猿団子のように固まっている。


「あいつら大丈夫か?」

「問題はありません。ただ、急な変化に心身ともに対応できていないようです」


 わからないでもない。

 つい数時間前まで奴隷だったのだ。

 急にバカンスを楽しみなさい、と言われてもむずかしいだろう。

 中には人生最後の施しと捉えている者もいるかもしれない。

 そんなことはないのだが、説明したところで、はいそうですか、とはならないだろう。


(時間が解決するよな)


 いまは放っておくのがベストだ。

 習うより慣れろ、ではないが、害はないと実感してもらったほうが、なにかと手っ取り早い。

 というより、子供たちにかまってばかりもいられなかった。

 おれにはやらなければいけないことがある。

 まずは、ユウキたちとこれまでの経緯のすり合わせだ。

 リビングの椅子に座り、おれたちは話を始めた。



「そのようなことがあったのですか。成生様も色々と大変だったようですね」


 二人と別れてからのことを話し終えた後のステルの感想が、それだった。


「さすが師匠! 戦争回避と同時に罪なき子供たちを助けるなんて、見事すぎます! フミマに向かうと仰られていたのも、すべて計算されていたのですね」


 ユウキの鼻息が荒く、興奮が抑えきれないようだ。


(そんなことはない。断じてないんだよ!)


 そう強く否定したいが、したところで信じないだろう。

 なら、このまま話を続けたほうが面倒がない。


 じーっ


 漫画なら確実にそんな擬音が刻まれるぐらい、ステルがおれを見つめている。

 熱い視線だが、恋やら愛やらではない。

 そこに込められているのは、間違いなく疑念だ。


「言いたいことがあるなら聞くぞ?」

「ありません」

「そうか。なら、今度はお前らが連れてきた子供たちのことを教えてくれよ」

「ユウキ様、お願いします」

「師匠と別れた後、俺とステルはハリス盗賊団のアジトがあるミドナ王国に向かっていました。けど、その道中に寂れた村……いえ、アレを村と表することは出来ません」


 含みのある物言いだ。

 ただ、それよりも気になったのは、ユウキの眼光が異様に鋭いことだ。

 怒りすら感じるそれは、よほど許せないことがあったのだと思わせる。


「組み木に布を被せただけの住居と、野生の獣やモンスターを防ぐ柵すらない場所でした。あそこを村と言うことはできませんし、地図的に見ても存在しません」


 ユウキの言葉に、ステルもうなずいている。


「だから二人で調査したのか?」

「結果的には……」


 歯切れの悪いユウキに、おれは眉根を寄せた。


「…………」

「申し訳ございません。私は最初、先を急ぐ選択をしました」


 言い淀むユウキに代わり、ステルが頭を下げた。


「謝る必要はねえだろ。村の調査を頼んだ覚えはねえし、リリィ姫を探す途中だったんだからよ」


 不法占拠は一大事だが、撤去などの判断は個人でなく、自治体や国が責任をもって行うべきだ。


「……揉めたのか?」


 ユウキがうなずき、ステルがかぶりを振った。

 相反するリアクションだ。

 けど、二人が悪いわけじゃない。

 揉めたのか? の前に、主語をつけなかったおれがいけないのだ。


「だれと揉めたんだ?」

『奴隷商人です』


 二人の答えは一致した。


(んん!?)


 予想外ではあるが、二人がウソをついているとは思えない。

 事実、奴隷商人という言葉に反応し、数人の子供たちがビクッとした。


「そいつらは、あの子たちの所有者だよな?」


 声を潜めて訊くと、ステルが小さくうなずいた。

 あるはずのない村を発見し、調査したら奴隷商人がいて、結果子供たちを救った。

 時系列だけで表記すればそれで間違いないのだろうが、それでは済まないことがあるのだろう。

 でなければ、二人の歯切れの悪さの説明がつかない。


「二人が揉めたわけじゃないよな?」

「もちろんです。ユウキ様のお言葉は成生様のお言葉ですので、私に従わない理由はありません」


 ユウキをおれだと思って接してくれ、と言ったことを、ステルは忠実に遂行してくれていたようだ。


「ってことは……ミドナにむかう途中に怪しい場所を発見し、ユウキは調査したかった。ステルは先を急ぎたかったが、ユウキの言い分を尊重した。結果……奴隷商人と揉めたってことだよな」


 二人がうなずいた。


(なるほど)


 二人のリアクションの違いは、主語の違いで間違いなかったようだ。

 ユウキは奴隷商人と揉めたので、うなずいた。

 ステルも奴隷商人と揉めたが、それ以前にユウキとは揉めていないので、かぶりを振ったのだ。

 整合性も取れているし、疑いようがない。


(うん。謎は解けたな)


 溜飲を下げるおれの目を真っ直ぐ見つめ、ステルが口を開いた。


「その際にミスを犯しました」

「どんな?」

「言いにくいのですが……大量殺人をしてしまいました」


 思ったより、ヘビーなミスだった。


「無差別じゃないよな?」

「はい。子供たちを攫い、フミマで売り捌こうとしていた奴隷商人たちのみです」


 人身売買が合法か非合法かは知らないが、気持ちのいいモノではない。

 特に日本育ちのおれにとっては、許容できない。


「本来なら捕まえて背後関係やらを明らかにすべきなのですが、暇つぶしに子供たちを蹂躙する輩でしたので、ついカッとなって()ってしまいました」


 その光景を想像しただけで腹が立つ。

 おれがステルの立場でも、同じことをしたかもしれない。


「謝る必要はねえよ。そんなクズなら()ってよし。気にするな」


 もろ手を挙げて肯定してはいけないのかもしれないが、同情する気にもなれなかった。

 猛省もしているようだし、不問にするのがいいだろう。


「よかった。師匠なら認めてくださると思っていました」


 ユウキは胸を撫でおろしている。


「おれが叱責すると思ったのか?」

「事態が事態ですので、その可能性もあるかと」


 引っかかる言いかただ。


「もしかして、問題があるのか?」

「あります。私たちが行ったのは、強奪以外の何ものでもありませんので」


 言われればその通りだ。

 奴隷商人たちは自分たちが保有する奴隷を無下に扱ったに過ぎず、それを赤の他人にどうこう言われる筋合いはないし、殺される理由にもならない。


「おい! 責任者出て来い!」


 怒鳴り声をあげるのも、当然だろう。


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