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201話 勇者は刺客を取り逃がす

 町から離れると、モンスターに襲われることが多くなった。


「グフィー」

「あらよっと!」


 いまも飛びかかって掛かってきた二足歩行のウサギを、背負い投げで返り討ちにしたところだ。


「ガルルルル」

「ジュララララ」

「ゴリゴリ」


 ライオン、ヘビ、ゴリラみたいなのも散見しているのだが、ウサギのように襲ってくることはほとんどない。

 たぶん、おれが傷ついたり疲れるのを、ひたすら待っているのだろう。

 と思うのも、全員がついてくるからだ。

 しびれを切らしてむかってくる個体もいるが、ほとんどが適度な距離を保ちつつ、襲いかかるタイミングをうかがっている。


「グフィー」


 フライングを決めるのは大抵がウサギだが、ライオン、ヘビ、ゴリラも時折襲いかかってくる。

 その都度返り討ちにはしているが、来るなら一度で済ませてほしい。


「お前らいい加減にしろよ」


 嘆息しながら注意をしても、当然聞く耳など持ってはいない。


「グフィー」


 凝りもせず、ウサギが飛びかかってきた。


「マジで面倒くせえな」


 長い耳を掴んで、ハンマー投げのように放った。


「ったく、いい加減、無理だと悟ってくれよ」


 モンスターとはいえ、動物の亜種であることに違いはない。

 なら、本能的に強者を避けてもいい気がする。


「グフィー」

「ガルルルル」

「ジュララララ」

「ゴリゴリ」


 にもかかわらず、全員がやる気マンマンなのは、いかがなものだろう。


「やっぱり、あいつのせいか?」


 視界の先には、三羽の巨大な鳥がいる。


「ビステマアアアア」


 特徴的な鳴き声なのもそうだが、やつらが声をあげるたび、むかってくる連中が存在するのだ。

 偶然かもしれないが……どうだろう?


「グフィー」


 鳥が鳴いていないときに突っ込んでくるウサギがいるから、判断がむずかしい。


(殲滅するか)


 答えがどうであろうと、モンスターがいなくなれば問題は解決する。

 しかし、それをするのは(はばか)れた。

 周辺を血の海に染めることになるし、騒動に気づいた警備隊によって街道が塞がれる危険性だってある。

 地理に詳しくないおれが町に戻るためには、それは絶対に避けなければならなかった。


「とはいえ……」


 ちょこちょこ襲ってこられるのはイライラが募るのと同時に、ストレスがハンパない。

 死骸の放置を避けるために殺さない程度の手加減を強いられているのも、それを加速させている。


「ビステマアアアア」


 鳥の鳴き声に合わせてヘビが動き、


「ビステマアアアア」


 ライオンが動き、


「ビステマアアアア」


 ゴリラが動いた。


「やっぱ、そうなんだな」


 十中八九、あの鳥が諸悪の根源だ。

 詳しいことはわからないが、魔物使いやビーストテイマーのような能力を持っているのだろう。

 問題は、あの鳥が野生なのか飼育されているのか、である。


(まあ、後者だろうな)


 理由は簡単だ。

 なんとなく、人の気配を感じるのだ。

 暗くて認識はできないが、闇に紛れてこちらを観察しているヤツがいる。

 そして、街道を進むごとに、その気配は濃くなっている……ような気がする。


(さて、どうすっかな)


 後どれぐらいでフミマ共和国に着くのかは謎だが、さすがにこのままではマズイ。

 むこうからすればおれがビーストテイマーで、モンスターを大量に引き連れてきたと勘違いしてもおかしくないのだ。

 というか、するだろう。


「しょうがねえ。やるか」


 事件になって街道が塞がれる可能性もあるが、このまま放置もできないし、冤罪をかけられたくない。


「風波斬」


 手始めに、鳥を一羽撃ち落とした。


「ちっ」


 舌打ちが聞こえた。


「確定だな」


 鳥を使役しているやつがいる。


(どこだ?)


 周囲を観察するが、それらしいのは発見できない。


『ビ、ビステマアアアアアアアア』


 二羽が同時に鳴いた。


「グフィー」

「ガルルルル」

「ジュララララ」

「ゴリゴリ」


 モンスターが一斉に襲いかかってくる。

 ほかのなにかも動いているようだが、わちゃわちゃしてよくわからない。


「まずは視界の確保だな」


 いままで同様、殺さない程度の手加減は試みるが、実現できるかどうかは未知数だ。


(まあ、後の問題は後で考えればいいか)


 いまはできることから実行しよう。


「風波斬!」

「ビ、ビステ……マァ」


 二羽目の駆除も完了し、残るはあと一羽。


「ビステマアアアアアアア」


 逃げる先で、空気が揺らいだ。


「いた!」


 黒ずくめでわかりにくいが、それはたしかに人だった。


「ちょ、待てよ」

「グフィー」

「ガルルルル」

「ジュララララ」

「ゴリゴリ」


 追おうとするも、モンスターが進路(そこ)に立ち塞がる。

 邪魔ではあるが、好都合でもあった。


「いよいしょ!」


 モンスターを、黒ずくめにむかって手当たり次第放り投げた。


「ビビビビ、ビステマアアアアアア」


 鳥は慄き鳴いているが、黒ずくめは無言だ。


(なかなか優秀じゃねえか)


 このまま逃げられれば、性別もなにもわからない。

 手がかりもないし、捕まえようがなくなってしまう。

 それならそれでいい気もするが、このタイミングで仕掛けてきたのだから、なにかしら事情を持っていると考えるのが妥当だ。


(んじゃ、本気を出すか。んん!?)


 明かりが見える。


「ヤベッ」


 フミマ共和国の国境だ。

 大きな石造りの門があるから、間違いない。


「マジかよ!?」


 門の前には、黒山の人だかりまである。

 このまま突っ込めば、大惨事になるだろう。


「ちっ」


 おれは歩みを停めざるをえなかった。


「くっそ!」


 黒ずくめは人混みに紛れてしまった。

 こうなればどうすることもできず、あきらめるしかない。

 が、おれの腹の虫は治まらない。


「お前ら、ちょっとこっち来い!」


 モンスターを引き寄せながら、おれは後退していく。


「ここならいいか」


 フミマ共和国が視界から消えた場所で、


「全員、ぶっとばすからな!」


 おれの八つ当たりは、モンスターがいなくなるまで続くのだった。


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