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200話 勇者はフミマを目指す

「この格好は必要ですか?」


 ステルの問いに、おれは無言でうなずいた。


「ですが……」


 言い淀む感じから、おれが卑猥な格好をさせていると想像する者もいるだろう。

 しかし、そんなことはさせていない。

 七分丈の上着と長ズボンの上に、胸当てと手甲足甲を装備してもらっているだけだ。

 その姿を端的に表現するなら、おれの影武者である。


(まあ、一目瞭然で別人だけどな)


 成人男性(おれ)女性(ステル)では、骨格が違う。

 いくらステルが変装名人なのだとしても、そこを変えることは不可能だ。


「この格好には抵抗があります」

「大丈夫。なんの問題もないから、気にするな」


 影武者を演じることに思うところがあるようだが、これは必要なことなのだ。

 後々諸外国に言い訳をするためにも、おれとユウキはニコイチでなければならない。


「違和感があります」

「大丈夫。けど、隠密行動は心掛けてくれよ」

「当然そうしますけど、ユウキ様が目立ちますので」


 勇者という肩書のほかに、フレア王国第一師団付き特務部隊長といった、長たらしい経歴を兼ね備えていることもあり、ユウキの顔はフレア王国内は当然ながら、魔族領、ミドナ王国、フミマ共和国、ヤスモ王国でも広く認知されている。

 はっきり言って、隠密行動には一番不向きな同行者であった。


「これでどうよ?」


 ユウキの顔にターバンを巻いた。


「……やらないよりは……幾分マシかと」

「ユウキはそれで大丈夫か?」

「少し視界は狭くなりますが、問題ありません」

「よし。んじゃ、はりきって監視してくれよ」

「お任せください!」


 やる気満々で鼻息が荒い。

 おれと離れることにもう少し抵抗するかと思っていたが、子供たちの未来を守ることに燃えているようだ。

 自分の利益と他人の利益を天秤にかけ、他人の利益を優先するのだから、ユウキは正真正銘の勇者である。

 だからこそ、釘を刺しておかなければならない。


「別れた後の行動は臨機応変で頼むけど、くれぐれも無茶はするなよ。大けがとか、マジでダメだかんな。っていうか、傷を負うようなことは、なるべく避けてくれよ」


 二人ともうなずいているので、大丈夫だろう。


「んじゃ、打ち合わせ通り三日後な」

『了解しました』


 発した言葉は同じなのだが、そこに含まれる感情は正反対だ。

 ステルは渋々、ユウキはハキハキした声音が、それを正確に表現している。

 少し心配ではあるが、任せると決めた以上、信頼するしかない。


「んじゃ、いってらっしゃい」

『はい』


 おれたちは、今度こそ別れた。

 ステルとユウキは、リリィの所在を探るべく、すぐに魔族領へ赴くそうだ。

 その背中を見送りながら、おれはフミマ共和国へとむかう。

 話している間にちょうど出発に適した時間になったというのもあるが、一本道で迷うことがないのも理由の一つだ。

 それに、フレア王国内を歩き回ったところで目新しい発見はないだろうし、時間を浪費するのもバカバカしかった。


(なら、他国に足を延ばすしかねえよな)


 という結論にいたり、フミマ共和国に行くことにしたのだ。


「気をつけていくんだぞ」


 門番にうながされ町の外に出ると、明かりが無くなり、一気に視界が悪くなった。

 ただ、なにも見えないわけじゃない。

 うっすらと白み始めた空は、時期に明るくなる。


(これなら問題ねえな)


 一本道なら迷うこともない。


(戦争を停める方法ねえ……んなもんあんのかよ)


 街道を歩きながら考える。

 ステルが言うには、おれが各地で暴れ回ればいいらしいが、それを実行するつもりはない。

 何度も、そして何度でもいうが、犯罪者になる気は微塵もないのだ。

 最悪やるにしても、それは最終手段である。


(最小の手間で最大の効率を得るならいいけど、その真逆だもんな)


 コスパやタイパにこだわる世代ではないが、二四時間戦える世代でもない。

 そしてなにより、精神と肉体を粉にできるほど、ステルたちのために頑張る気はさらさらなかった。


(おれの負荷がデカすぎるもんな)


 肉体だけでなく、精神的にも辛いのは目に見えている。

 なぜなら、それを選択し実行した瞬間、おれは大量虐殺犯になるのだから。


(んん!? そういえば……)


 大量虐殺で思い出したが、この世界にはそれを実行したヤツがいたではないか。

 バトルアックスを振り回し、騎士団を殺しまくった野生の牛が。


「ミノタウロスの襲撃が証明できるなら、此度の戦争は回避できる」


 カブレェラ王は、たしかにそう言っていた。

 死骸が強奪されたことで証明(それ)は不可能になってしまったが、それ自体が消えて無くなったわけじゃない。


(この世界のどこかには、必ず存在すんだよな)


 それさえあれば戦争は回避できるし、危ない橋を渡る必要もなくなる。


(問題は、どこに運ばれたか……だよな)


 第一候補はハリス盗賊団の根城かもしれないが、そうではないと思う。


(素材として使える……みたいなことをガイルが言ってたもんな。んなもんを後生大事に抱えるより、早々に換金するだろ)


 貴重で重宝されるなら買い叩かれる心配もないだろうし、おれなら間違いなくそうする。


(デカかったミノタウロスを持ち歩くのは目立つし、旅の邪魔にもなるだろうしな)


 ならなおのこと、持ち運びやすい金銭にしたいはずだ。

 いや、するに違いない。

 ただ、足がつきやすいフレア王国ではしない。

 多種族混合で目立ちにくい、フミマ共和国を選ぶ気がする。


(頼むぞ。持ち込んどいてくれよ~)


 そんな希望を胸に、おれはフミマ共和国にむかった。


閑話を除き、200話に到達しました。

なので、記念に書かせてもらいます。


いいね、ブクマ、ポイント評価、よろしくね!


上記のモノが少しずつ増えていることに、心より感謝します。

そして、これからもお付き合いいただければ幸いです。

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