閑話 勇者と女神のエトセトラ
この話は読まなくても問題ありません
「勇者よ。エンターテイメントを解さない勇者よ。少しいいですか?」
サラフィネが回顧するおれを呼び戻した。
「なにかな?」
「回想……永くありません?」
大真面目な顔でそう言われてしまうと、ぐうの音も出ない。
けど、おれには言わなければいけない言葉がある。
「それは言わない約束でしょうが!」
「いえ、そんな約束をした覚えはありません」
躊躇ない否定。
そこに遠慮や配慮は一切ない。
「いや、頼むよ。空気読んでくれよ」
「勇者よ。わたしは空気を読んだからこそ、訊ねているのです」
「だろうね」
おれも薄々気づいてはいたし、思ってもいた。
(回想長くねぇ!?)
と。
王道を踏襲するなら、回想で倒した大魔王が異形の邪神であるべきだ。
「なに違う大魔王倒してんだよ!」
そう非難されてもしかたがない。
……ただ、それを認めるわけにはいかない。
「だって! まだ続くんだから! 回想が!」
こんなはずじゃなかった。
当初の予定では神官が宰相で、大魔王復活を画策している、という展開だった。
そしてなんやかんやありながらも勇者に倒され、神官はあそこで退場するシナリオだったのだ。
「ふっふっふ。わたしを倒しても無駄ですよ。この街の生命力は、大魔王様の在す冥府の門へと送られ、その復活の一役を担っているのです。そしてそれは、もうすぐそこまで迫っているのです。ふっふっふ。絶望しなさい。私はそれを、地獄から眺めることにします」
こんな感じのわざとらしい捨て台詞を残して。
「くっ、一杯食わされたか」
これまたわざとらしいセリフを吐きながらも、おれは問題の沼に赴き、異形の邪神をやっつける。
そんな話だった……はずだ。
「いつ変わった?」
教えてくれよ。
「大体! この後どうすんだよ!」
おれは天に向かって叫んだ。
…………答えがない。
これはつまりあれだ。
未定なのだ。
「どちくしょうが!」
感情を吐き捨てるおれの醜態に、サラフィネが目を白黒させる。
(おっと、いけない。いけない)
驚かせてしまったようだ。
波立った精神を凪の状態に戻すべく、おれは大きく深呼吸をした。
一度ではなく、複数回繰り返す。
すーはーすーはーすーはー
(よし)
落ち着いた。
「おほん」
わざとらしく咳払いを声にし、サラフィネも間を取った。
互いに時間を空けたことで、双方自分を取り戻せたようだ。
「魂の叫びの意味はわかりませんが、勇者にものっぴきならない事情があることは察しました」
仏のような表情を浮かべるサラフィネ。
仏だけに、悟ってくれたのだろう。
「ありがとう。わかってくれたか。では、続けてもいいな」
ダメと言われても変更はない。
しかし、だからといって、確認しないでいいということにもならない。
「仕方ありません。続けてください」
素直な肯定は非常にありがたかった。
(感謝だな)
ここでウダウダ言わないあたりは、やはり女神だ。
「残念ですが、わたしの活躍はもう少し後ですね」
肩を落とすサラフィネに、おれはこう言わなければならない。
「いや、お前が活躍する話なんかねえよ」
短いので、14時にもう一本投稿します