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183話 勇者は姫に嫌われる

 あらためて謁見の間に戻ってきたおれの前には、王様がいる。


「ハッハッハ。いや、試すようなことをして申し訳なかった。まさか、あれほど手も足も出んとは思いもしなかった」


 豪快に笑うのは線の細い王様ではなく、筆頭騎士を装っていた本当の王様だ。

 玉座にどっしりと腰を下ろす姿は、貫禄に溢れている。

 目の錯覚や思い込みなのは理解しているが、鶏がらのようなおじさんが座っているときよりも、玉座が喜んでいるように映る。

 とはいえ、鶏がらおじさんも偉い人であり、あらためて紹介された際に、彼がこの国の宰相だと知った。


「なんであたしまで呼ばれるのよ!?」


 悪態をつく姫様はさっきと同一人物であり、替え玉ではなかった。


「そう言うなリリィ。彼ほどの冒険者には、そうそうお目にかかれんぞ」

「興味ない」


 リリィと呼ばれた姫様が、小さく吐き捨てた。

 この場にいることが、よほど不本意なのだろう。

 目に一切の生気が感じられない。


「お前を襲ったミノタウロスを倒したのも、彼だ」

「あっそ」


 頬杖をつく姿は、まるで教師の説教を右から左に聞き流す不良のようだ。


「彼はユウキを超える逸材だぞ」

「そんなわけない!」


 電光石火の否定にも驚いたが、その剣幕がすごかった。

 気の弱い相手なら、にらみ殺せそうなほどだ。


「ハッハッハッ。冗談だ」

「ふんっ」


 そっぽをむくリリィに合わせ、首にかけられたネックレスが揺れた。


(んん!?)


 王族が身につけるには、シンプルすぎるネックレスだ。

 けど、問題はそこじゃない。

 装飾品に興味がなく、身につけたいと思ったこともないおれが気になったのだ。

 なにか理由がある気がする。


「ナニ見てんのよ!? この変態!」

「ハッハッハッ。そんな熱い視線をぶつけても、リリィはやらんぞ」


 やんわりとした否定に思えるが、その瞳はマジだ。

 そんなつもりはなかったが、よほど集中して見ていたらしい。


「申し訳ありません。あまりに素敵なネックレスだったもので」

「あげないわよ」


 おれとしてはリリィを見つめていたわけではないと伝えたつもりだったが、物乞いと勘違いされてしまった。


「アレはリリィの宝物なのでな。諦めてくれ」


 王様からもクギを刺されたのだから、国としても大事なモノなのだろう。

 ならば、おれが手にしていいモノではない。


「わかりました。あきらめます」

「うむ。話が早くて助かる。では、代わりに所望する物を申してみよ」

「金銭をお願いします」

「いか程かな?」

「それは王様と宰相様でお決めください。私は一枚の硬貨でも十分です」


 …………


 数秒の間が空いた。

 その間、ジッと見つめられている。


(たぶん、おれの真意をはかってるんだろうな)


 国のトップだけあり、王様も宰相も真剣だ。

 こと宰相にいたっては、百戦錬磨の知将を想起させる眼光の鋭さがある。


(視線を逸らしたら、負けだな)


 後ろ暗いところは微塵もない。


(さあ、思う存分観察してくれ)


 胸を張って堂々と立つことを心掛けているが、コソコソと耳打ちする姿を見てしまうと、多少ドキドキするのも事実であった。


「では、五〇〇〇パルクでどうだろうか」


 示された額の大小が判断できないのだから、いいも悪いもない。


「ありがとうございます」


 おれは了承の異を示すため、お辞儀をした。


「納得してくれるか。では、もう五〇〇〇パルク積むので、余に仕えぬか?」

『おおおお!!』


 家臣たちがどよめいた。

 思わず声が漏れてしまった、という感じなので、これは意外と珍しいことなのかもしれない。

 けど、おれの答えは決まっている。


「申し訳ありませんが、その意には添えません」

「そうか。それは残念だが、予想通りだ」


 表面的には、王様に落ち込んだ様子はなかった。


「ちなみに、五〇〇〇パルクを毎月払うとしても、駄目か?」

「はい。それが私のような流浪の冒険者にとって、破格の申し出であることは重々承知しておりますが、意に沿うことは出来かねます」


 どれだけの大金を積まれようとも、答えが変わることはない。

 おれがこの異世界にいるのは魂のカケラを探すためであり、就職して大金を稼ぐことではない。


「そうか。それは残念だ」

「よかった」


 肩を落とす王様のリアクションは理解できるが、その横で安堵の息を吐くリリィのリアクションには納得できない。

 好かれていないのは承知しているが、そこまで嫌われる理由もないはずだ。


(もしかして、生理的に無理、ってやつかな?)


 だとしたら、手の打ちようがない。

 取れる手段があるとすれば、早々に袂を分かつだけだ。


「なによ!? こっち見ないで!」


 特段注視したつもりはないし、ほんの少し視線が重なっただけだ。

 それで怒られるのだから、どうしようもない。


(生理的に無理……で、決定だな)


 覆すのは不可能だ。

 ここは平身低頭を貫き、頭を下げてやり過ごそう。


「申し訳ございません」

「謝ればいいと思ってるでしょ!? そういう態度が一番腹立つのよ!」

(殴ってやろうか)


 内心で拳を握るが、それを表に出すことはない。

 下げた頭を、さらに沈めて黙するのみだ。


「だいたい、あんたが出しゃばるから、ユウキが怪我したのよ!」

(やっぱそうか。あいつ、ケガしてたんだな)

「あたしはあんたを認めない! ユウキこそが最高の勇者で、あたし専属の騎士団長なのよ!」


 話の半分も理解できないが、おおよその見当はついた。

 リリィは生理的におれを嫌っているわけではなく、王様に評価され、ユウキの代わりに要職に就きそうだから、嫌いなのだ。

 さしずめ、おれは二人を切り裂く悪魔の使いといったところだろう。


(はあぁ~、面倒くせえ)


 ため息しか出ない。

 だれが好き好んで、こんなわがまま姫の専属に就きたいと思うのだろうか。

 少なくとも、おれは断固として拒否する。


(これはもうアレだな。貰うもんだけ貰って、さっさとこの国を後にしたほうがいいな)


 おれがそう腹を決めた瞬間、謁見の間の扉が勢いよく開けられた。


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