表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

179/339

閑話 勇者と女神のエトセトラ②

久しぶりの閑話です。

いつも通り、読み飛ばしていただいても問題ありません。

「勇者よ。エンターテイメントを解せぬ勇者よ。少しいいですか?」

「みなまで言うな。わかってるよ。回想が永いんだろ?」

「ええ、正しくその通りです。あまりに永いので、イカ焼きも食べ終わってしまいました」


 どこから出したのか、いまは食後のお茶を楽しんでいる。


「けどよかったじゃねえか。一つのヤマは越えたんだからよ」

「確かにそういう見方もできますね。ですが、振り出しに戻った、という表現もできるのではないでしょうか?」

「そんなことはないだろ。きちんと遺恨のあったメティスとは決着をつけたじゃねえか。それに思い返してみろよ。前におれたちがこのやり取りをしたのは、二つ目の異世界から帰ったときだぞ」


 …………


「そう言われればそうですね」


 一拍の間を置き、サラフィネがうなずいた。


「あれからいろいろあったよな」


 脳裏に浮かぶあれやこれ。


「がんばったよな。おれ」


 獅子奮迅の活躍である。


「ええ。三つ目の異世界なんて、ちょちょいのちょいでしたものね」

「……いや、おれの記憶が正しければ、何度か死にかけた気がするぞ」

「そんなこともあったかもしれませんが、無事生還したではないですか」

「いや、おれが言いたいのは生還したかしなかったじゃねんだよ。こっちが味わった苦労を、ちょちょいのちょいで表現するな、って言いたいんだよ」


 当時のおれからすれば、大冒険だったのだ。


「それは失礼しました。ですが、それも最早記憶の彼方に追いやられ、思い出すことすらままなりません」

「ふざけんじゃねえよ! お前、マジでぶっとばすぞ!」


 固く握った拳から、骨がきしむような音がする。


「お怒りはごもっともかもしれませんが、これだけ長い間待たされたのです。すべてを覚えているほうが、恐怖ではないでしょうか?」


 その通りだ。

 一〇〇を超える話を覚えているほうが異常であり、サラフィネの言っていることに間違いはない。

 とは思うが、納得できないのも、また事実である。


「じゃあ、その後のことはどう思ったんだよ?」


 落としどころを探るための問いかけである。

 …………間が長い。

 ………………ものすごく長い。


「よく頑張りました。その一言に尽きますね」

「てめえ、絶対に覚えてねえだろ!?」

「馬鹿をおっしゃらないでいただきたい。アレがあったから、今があるのです」

「アレってなんだよ!? 阪●じゃねえんだから、具体的に言えよ」

「はあぁ~」


 なぜか盛大なため息を吐かれた。


「勇者よ。自分の功を誇りたいのは理解できますが、褒めよ讃えよ、という姿勢は、品性に欠けるのではないですか?」

「やかましい! ならお前も、回想が永いだなんだで、文句言うんじゃねえよ」

「文句ではありません。事実です」

「それは屁理屈だ。ときにグッとこらえることも、人生には大事なんだよ」


 サラフィネが胸の前で、グッと両拳を握った。

 それがなにを指し示しているのかは謎だが、小バカにされていることだけは間違いない。

 ニヤニヤしているのも、イラつく。


(相手にしたら負けだ)


 いちいち反応するから、調子に乗るのだ。

 ここは思い切って、無視しよう。


 …………


 時間が無為に流れる。


「………………」


 サラフィネが唇を動かした。

 聞こえなかったのではなく、発声していないのだ。


「おまたせしました」


 まばたきをするコンマ何秒の間に、男の天使が現れた。

 その手には、イカ焼きの乗った皿がある。


「ありがとうございます」

「いえ、御用がありましたら、なんなりとお申し付けください」


 空気に溶けるように、男が消えた。


「いただきます」


 サラフィネがもしゃもしゃとイカ焼きにかぶりつく。

 変化がないようにも思えるが、その表情はたしかにほころんでいる。


(なんかもう、どうでもいいな)


 追求するのも無粋な気がしてきた。


「続きを始めるぞ」

「ほねはいします」


 たぶん、お願いします、と言ったのだろう。


(ああ、そういえば、あのときも自分勝手なやつが多かったな)


ブックマーク等、ありがとうございます。励みになっております。


そして、やっと改訂前を追い越しました。

サラフィネではないですが、永かったです。

次回より新たな異世界に入ります。引き続きお付き合いいただけたら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ