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175話 勇者が言いたかったこと

「おれは神に成る気なんて、毛頭ないぞ」

『はあぁ!?』


 騎士たちが、そろって首をひねっている。

 中には、もげるんじゃないかと心配する角度のやつもいた。

 それぐらい、想定の範囲を超えているのだろう。


「おい、あれはなんの隠語だ?」

「わからん。あんなのは聞いたことがない」


 ありもしない陰謀を探り始めたやつまでいる。

 このまま放置しては、マズイことになりそうだ。


「いや、裏なんてねえよ。額面通り、神に成る気がないだけだよ」

「貴様! 無礼であるぞ!」


 急にスイッチが入ったように、数人の兵隊がおれの喉元に槍を突きつけた。


「いや、無礼もなにも、本当のことだからよ」

「もう我慢ならん! 成敗してくれる!」


 喉元に突きつけられた槍が、押し込まれた。

 ここで死ぬ気はないので、しゃがんで避ける。


「やめなさい! あなたの行為は、神に背くものですよ」

「構うことはない。やればいいさ」


 サラフィネの叱責とクリューンの肯定。

 兵隊たちにとってどちらが重いかなど、量るまでもない。


「やるぞ!」

『おおおおおおおおお!!!!』


 隊長っぽい男の鼓舞に、周りが呼応した。

 四方八方から一斉に突き出された槍を、ジャンプで躱す。


「ちょいとゴメンよ」


 兵隊の頭を踏み台に、安全地帯まで跳び退いた。


「騎士の尊き頭を汚すとは……どうあっても許さんぞ!」


 打ち寄せ続ける波のような攻撃を、右往左往して避けていく。


「よっ、ほっ、はっ」


 しばらくすれば冷静になるかと思っていたのだが、無理そうだ。

 相手は女神を捕縛に来た騎士団であり、連携も意思統一も完璧だった。

 こちらを仕留めるまで、止まりそうもない。


「あれっ!? おれって嫌われもんなの?」


 …………


「それでは駄目さ。各々得意な攻撃で連携をとらなきゃ」

「はっ!」


 おれの問いには答えないくせに、クリューンの指示には従うらしい。


「レーザーアロウ!」

「ファイヤーショット!」


 あらゆる角度から魔法が撃ち込まれてくる。


「なあ、神界でも正当防衛は適用されるのか?」

「難しいところですね。相手にはクリューンがいますから」

「なんであいつがいるとむずかしいんだよ?」

「腐っても神です」


 この答弁でもよくわかる。

 サラフィネは、クリューンが心底嫌いなのだ。


「対等……ってわけにはいかねえんだよな」

「お察しの通りです。私は神の称号をはく奪され、捕縛されています」

「けど、サラフィネはサラフィネだよな」


 魔素のシールドを生み出し、魔法を防いだ。


「なにが仰りたいのですか?」

「それだよ」


 宣誓書を指さした。


「おれはサラフィネと契約したんであって、女神かどうかは関係ねえんだよ! そして、契約した以上、それを途中で放棄する気は微塵もねえ。神様に成れるから終わり。なんて理屈は、おれの中には存在しねえんだよ!」


 やっと言えた。

 これがずっと言いたかったのだ。


「そう仰られても……駄目なものは駄目なのです」

「んなもん、だれが決めたんだよ!?」

「私はもう神ではありません! 私の加護が消えたいま、あなたの肉体は神界の空気に蝕まれています! それを止めるためにも、あなたは神に成らなければなりません!」


 サラフィネの瞳から涙が溢れ出た。


「おれのためか?」


 泣きながらうなずく姿は信用できる。

 けど、了承はできない。


「生きることは大事だよな」


 幸も不幸も、生きているからこそ味わえる。

 それを知っているから、サラフィネはこだわっているのだ。


「でも、拭えない後悔を抱えたまま生きるのは、しんどいぜ」


 サラフィネの代わりに神の地位に就いたとして、おれはそれを喜べるだろうか?

 たぶん、無理だ。


「おれを幸せにするために目の前の女神が不幸になるのを、おれは許容しない。たとえおれの魂が砕け散ったのがサラフィネの責任なんだとしても、飛行機が落ちたことまで、お前のせいにする気はねえよ」


 こうしておれがご高説を謳っている最中でも、兵隊たちは襲ってくる。

 そのすべてを躱しているのだが、いい加減邪魔臭くなってきた。


「風波斬」


 思いっきり手加減して放ったそれが、兵隊たちを吹き飛ばした。


「ついにやったね!?」


 クリューンが手を叩いて喜んでいるし、サラフィネは両手で顔を覆っている。

 どうやら、マズいことをしたらしい。


「君は僕の部下を暴行した! それは上級神様の命でここに来た僕の邪魔をしたのと同義であり、引いては上級神様に背いたことでもある」


 無理くりな感じもするが、クリューンがこれだけ声高に言うのだから、あながち曲解でもないのだろう。


「よって、きみの神格化は保留する!」


 裁判もなく、いきなり判決が下った。


「横暴すぎます! その判断は到底納得できません!」


 サラフィネは抗議の声を上げたが、


(それはそれでちょうどいいな)


 おれは内心でほくそ笑んだ。


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