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172話 勇者の死因

 真っ白な世界。

 それは見慣れた光景だが、すぐに違和感に気づいた。

 奥のほうに、多くの気配がある。

 サラフィネの世話役のような者が少数いたことはあるが、これほど多くの者は記憶にない。

 なにかが起こっているのは、間違いなさそうだ。


「サラフィネ」


 走って廊下を抜け、大広間に出た。


「お帰り」


 出迎えたのは、クリューンだった。


「……その姿が、本来の姿なのか?」 


 おれの目の前にいるのは前回会った少年ではなく、銀髪碧眼で陶器のように艶やかな白い肌をした超絶美男子だ。

 外見的には似ても似つかないが、仕草や声には共通点がある。


「正確に言うなら、違うね。けど、概ね合っているから、そういう認識でいいさ」


 説明する気がないのか、面倒臭いのか。

 どちらでもいいが、好意的な理由じゃないことだけはわかる。

 少しだけ口角を持ち上げているクリューンからは、笑うというよりも威嚇されている気がしてならない。


「驚かないのかい?」

「驚いてるよ」

「そうは見えないけどね」

「仕事を終えて戻ったら、クライアントが拘束されているんだからな。驚かないほうが無理だろ」


 クリューンの後ろには、槍と鎧で武装した白い羽を生やした天使らしき兵隊が大勢いる。

 その数は、少なく見積もっても五〇はくだらない。

 その先頭に、両手首と腰を縄で縛られたサラフィネがいた。

 うつむいて顔は見えないが、その姿は完全に罪人である。


「彼女が心配かい?」

「まあな。けど、まずは理由が知りたいな。なんでそんなことになっているんだよ?」

「その説明は僕がしよう。当事者であるきみを、ないがしろにすることはできないからね」


 当事者。

 この言葉は意外だった。


(いや、サラフィネが過ちを犯していたんだとしたら、おれも共犯である可能性が高いか)

「おめでとう」


 クリューンが拍手した。

 サラフィネを拘束している数人を除き、後ろの兵隊もそれに倣っている。


「意味が解らねえよ。おれはお前らに喝采されることはしてないだろ」

「謙遜する必要はないさ。きみはいくつもの異世界を救ってみせたじゃないか。おまけに、天界に巣くっていた奴隷市場まで崩壊させたんだからね」

「なに言ってんだ!? お前」

「無礼であるぞ!」


 声をあげる兵隊を、クリューンが手で制した。


「いいんだよ。彼はまだ自分の功績に気づいていないだけだからさ」

(こいつ、マジでなに言ってんだ? 頭湧いてんのか!?)


 独善島を解放した後、クリューンは苦情を言いに来たではないか。

 それを功績と讃えるなど正気の沙汰ではないし、裏がないと考えるほうがむずかしい。


「理解できていないのも当然さ。だからこそ、僕が来たのだからね」

「なら、さっさと説明してくれよ」

「せっかちだねぇ~。焦る乞食は貰いが少ない、と言うじゃないか」

「時は金なり、とも言うけどな」


 嘆息するクリューンに嫌味で応えると、後ろの兵隊がにわかに殺気立つ。


(こいつらは、直属の部下で間違いなさそうだな)

「それは違うさ」

「はあ!?」

「時は金なり。きみは今日この時をもって、その理から外れるんだ」


 そんなことはありえない。

 生きとし生けるモノは、何人たりともそこから逸脱することはできない。

 もし仮にそれが可能だとしたら、それは人ならざるモノにしか成せない所業である。


(…………もしかして…………)

「きみは本当に頭がいいね」


 クリューンの表情が輝いた。

 それはいままで浮かべていた人を挑発したり小馬鹿にするような笑みではなく、正真正銘の笑顔であった。


「待て待て。んなもんになる気はねえぞ。おれは」

「そんな言い分は通用しないさ。なにせ、きみがいままで行ってきたのは、神に成る適正試験だったんだからね」


 後ろの天使たちがどよめいた。


「いや、お前らも知らねえのかよ。って、それどころじぇねえか。あ~、なんだ、その~、おれは生まれ変わるために頑張ってたんだよ」

「その結果が、至高の存在である神への転生さ。これほど名誉なことは他にないさ」


 ダメだ。

 クリューンとは、会話が噛み合っているようで噛み合っていない。


「サラフィネ。説明してくれよ」

「クリューンの言葉通りです」

「転生先は選ばせてもらえるはずだよな?」


 契約を結んだとき、サラフィネはたしかにそう言った。


「他のどこにいくより、神界にいたほうがいいに決まっているじゃないですか」

「僕も同意見だね」


 クリューンがうんうんとうなずいている。


「永遠のときと衰えぬカラダ。多少の仕事はありますが、悠久のときを思えば、些事にしかすぎません」


 機械のように言葉を紡ぐサラフィネ。

 そこに一切の感情を感じ得ないのは、おれだけなのか。


「食事も豪華ですよ」

「それは惹かれるな」


 けど、忘れてはいけない。


「その最高の転生先では、女神様が捕まってるぞ」


 サラフィネが顔を上げた。


「なにをしたのかは知らねえが、拘束(そう)されることをしたんだろ? なら、なんでおれが同じことをしないと言い切れるんだよ?」

「あなたなら大丈夫です」

「根拠を聞かせろよ」

「あなたは、私のように愚かではありません! そして、あなたにはそうなる権利があるのです!」


 瞳に涙を浮かべながら、サラフィネがそう叫んだ。


「権利……か。なら、それはいつ生まれたんだよ?」

「きみが死んだときだね」


 答えたのはクリューンだった。


「そんな早いのかよ」

「ああ。そのときにサラフィネ嬢の女神はく奪が決定したのだからね」

「てことは……おれの死因とサラフィネには関係があるのか」

「ご明察。きみが死んだ墜落事故は、サラフィネ嬢が原因さ」


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